昔話

実家に帰省して、リビングでテレビを見ている時でした。



終戦特集。

白黒の映像。

整然とそろった行進。

飛び交う銃弾。

沖縄。

空母に突っ込んでいく零戦。

震える子供。


これでもかという戦争の映像でした。

夏の風物詩ともいえるテレビの特集でしたが、私が子供の頃はもっと放送されてたような気がするなぁ、最近は少なくなったのかなぁ。

そんなことをぼんやり思っていると


「ああ、やだやだ。この頃には戻りたくないね」とばあちゃんがボヤきます。


あ、このボヤきの出だしはあの話になるなと予感しました。


「もう話したどは思うけど」と前置きして

「ばあちゃんが小さい弟と山に水汲みに行こうとしたら急に警報なったんだぁ。畑にいたおじさんがにげろお!っておっきな声だしてさぁ」


はいはい。

機銃掃射からね、命からがら逃げたって話だよね。

って心の中で思いながら、それで?って合いの手を打ちました。


「そしたらさぁ。上の方がらぐわあああんってものすごい飛行機の音が聞こえたかと思ったらもう、向こうのほうがらダダダダダダダダッってやられてさぁ!」


そうそう、それで草むらにね。


「弟抱えて草むらめがけて飛び込んだんだから、ばあちゃん。あの頃のばあちゃんは足早かったんだわ。猿みてぇだなぁなんて言われでたんだから」


そんで頭上げたら、自分のすぐ隣にね。


「そんで頭上げだら!もうすぐ隣に!こんくらいの機銃の弾めり込んた窪みができててさぁ!煙出てたんだから。いやあ、あれこそがぁ、あれだ」


九死に一生ね。


「そうそうそうそう!九死に一生だったんだがら。いやあおっかながったぁ」


ばあちゃんも大変だったんだよね。


「んだよぅ、食べるもんもなぐってだいごんの葉っぱだのにんじんの葉っぱだのばっかり食べでさぁ。んでお米もねぇがらさつまいもでかさ増ししてぇ」


だよねぇ、大変だったんだよねぇ


テレビに顔を向けたまま、適当に相槌を打っていると




「あんた誰と喋ってるの?」




冷やし中華を二つ持って立っている母親に話しかけられました。




あれ?

私今、ばあちゃんとしゃべってた?




あそうだ、去年亡くなったんだった。




一周忌ということで帰省したことを忘れてたんです。





なんでもない。

そう言って、冷やし中華を啜りながら、終戦特集の続きを見始めました。





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