欲しいもの

十年くらい前でしょうかね。

アウトドアに興味を持ち始めまして、いろいろと欲しいものがでてきたんですよ。



普通、テントとか寝袋とかからじゃないですか。

でも当時の私はなによりまずラジオが欲しいと思ったんですよ。

手回しレバーがついてて、携帯電話の充電もできるタイプのやつです。

どんなキャンプを想像してんだか知りませんが、それが欲しくなって購入しまして。


次は長期保存ができる水でした。

山や川で遭難することでも想定したんでしょうかね。

自分でも何を怯えているんだかって思いましたよ。


その次は無洗米でしたね。

満足に水がなくてもご飯が炊けるようにって10kg袋を買いました。

水にしても無洗米にしても、無理に過酷な環境を設定しているようで、アホみたいでしょう?

他にも缶詰だのレトルトだのカップラーメンだのを買ったりしてね。

変な準備をしているなぁ、って我ながら思っていたんです。

そういうことをしていて半年くらいしたころですね。


よく覚えています。

3月10日。

仕事帰りになんとなくガソリン満タンにしたんですよね。

メーターがまだ半分くらいで、普段なら入れないんですけどね。



で、翌日。



東日本大震災が発生しまして。



水道も電気も止まっちゃったんですよ。

でも、そういうわけで無洗米も水も豊富にありまして。

カセットコンロとお鍋でご飯を炊いて、お湯を沸かしてカップラーメン作って家族三人で食べました。

缶詰もレトルトもありましたので当座の食料には困りませんでした。

携帯電話も充電できましたし、ラジオでも情報収集できたんで良かったですね。

ガソリンも満タンだったので水の配給や買い物にも行けるし、いざという時は避難もできるという安心感もありました。


いやぁ、不思議な体験でしたね。

ネズミや野鳥が危機の前に一斉に逃げるなんて話を聞いたことがありますけど、ああいう動物的な勘でも働いたんじゃないでしょうかね。




というのも、被災してからは全く、アウトドアに対する興味がなくなりましたから。




アウトドアに興味を持つという形で、自分の中で何か、警報のようなものが鳴っていたんじゃないでしょうかね。






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