卒業キャンプ
同級生と一緒にキャンプに行った時の話です。
高校卒業記念に仲良しのKちゃんとSちゃんの三人でキャンプをしようということになり、車で一時間ほどの場所にあるサイトに向かいました。
送迎を私のお父さんにお願いして、サイトまでの風景を楽しみながら、私たちはわいわいと楽しくおしゃべりしていました。
お昼前には到着したと思います。
荷下ろしを手伝って、翌日のチェックアウトに合わせて迎えに来ることを確認して、お父さんは帰って行きました。
ここからは女子会です。
バーベキューをしたり川辺を散歩したりと自由に過ごしました。
夜は焚き火で暖をとりながら、ご飯を炊いたりカレーを作ったりしました。
いろいろな話をしました。
文化祭のことや先輩のこと、LINEで励ましあった受験勉強のこと、将来のこと。
焚き火を見つめながら話していると、時間はあっという間に過ぎていきました。
焚き火で顔が火照ってきたので、火照りを冷まそうと少し遠くを流れている川の方に向きを変えた時でした。
川で女性が平泳ぎをしているのが見えました。
川面をすべるように女性の顔が移動しています。
鼻筋の通った整った顔立ちの、髪の長い人…
ゾクッとしました。
こんな季節に川で泳ぐなんてありえません。
もう夜の8時を回ろうとしている時間で気温は氷点下です。
それに、あの川は深いところでも膝下。
ほとんどが足首くらいの深さしかありません。
泳げるはずがない。
見なかったことにしよう。
そう思って何事もなかったように焚き火の方に向き直ると、焚き火と椅子に座る自分との間に、裸の女性が膝を抱えて座っていました。
ただ、首がありません。
両手で膝を抱えてこちらに向かって座っています。
背中は焚き火の明かりでオレンジ色にゆらめき、全身は月明かりに照らされて青白く光っています。
体は突然いうことを効かなくなりました。
声も出ません。
恐怖に押しつぶされになったときに、耳元で友達の声がしました。
「Mちゃん、何してんの?」
Sちゃん助けて!
声にならない声をあげて、力一杯体を向けました。
青白い女の顔が目の前にありました。
「ねえMちゃん 何してんの? かわってよ?」
青白い女の口は顎が外れているかのように、縦に大きく開いています。
空洞のような口の奥から、SちゃんのようなKちゃんのような声が、ゆがんで響いてきました。
長い髪の毛が顔を薄く覆い、鼻筋の通った高い鼻が見えますが目はありません。
真っ黒な大きな穴が二つ空いているだけです。
恐怖のあまり硬直し、1ミリも動けずにいると後ろから誰かに抱きつかれました。
背中に冷水を浴びせられたかのような悪寒が湧き起こりました。
首のない裸の女が、私を後ろから抱きしめていました。
「ね かわって?」
と、抱きついてきた女の体が言った、ように思います。
私の記憶は、そこからぷっつりと途絶えています。
気がつくと麓の病院の一室でした。
私は低体温症になって入院していました。
友達やお父さんの介抱によって命を取り留めたことは、後から聞きました。
それからしばらくは、あの女の顔や抱きつかれた時の体の冷気を思い出して、夜うまく眠れませんでした。
お父さんにそのことを話すと、通院やお祓いなどにも協力してくれました。
おばけとか信じない人なのに、すんなり協力してくれたのはありがたかったです。
少し遅れはしましたが、おかげ様で無事に進学することができました。
今は何事もなく大学生活を送れてますし、こうしてお話することができるくらいにはなりましたけど、キャンプに行くのはまだ怖いです。
KちゃんとSちゃんの話では、突然私は川に飛び込んで、それで低体温症になったと聞いています。
どうしてそんなことしたの?って、お見舞いに来た時に二人から聞かれました。
私はとっさに分からないと答えましたが、でも本当はわかっています。
あの女に、「かわって」あげちゃったんだと思います。
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