かわってもらったの

高校の卒業記念に友達とキャンプに行った時の話です。



友達のお父さんにサイトまで送ってもらって、バーベキューをしたり展望台に登ったりしてまったり過ごしてました。

友達とわいわいやっていたらあっという間に夜になって、カレーライスを作って食べて、その後はコーヒーを飲みながら高校時代の思い出とか将来のこととかを語ってたんです。


そのうち、一緒に来たMちゃんが話に入ってないなぁってことに気づいて、Mちゃんのほうを見てみたら、ぼーっと川を眺めてるんですよね。


どうしたんだろ?って思ってたら急に



「いいよぉ」



って、結構大きめの声で言ったかと思うと、急にダウンとか脱ぎ出して



「かわってもらったぁ! かわってもらったのぉ!」

って楽しそうに叫びながら、Tシャツ姿で川に走っていったんです。



あまりの事にあっけにとられてしまって、声も出ませんでした。

一緒にいたKちゃんもびっくりして、唖然としていました。

その間もMちゃんは


「すごーい! つめたーい! あははははははは!」


って川ではしゃいでて。


川の水をすくってかぶったり、横になってばちゃばちゃしたり、Mちゃんの異常な行動をしばらく見ていることしかできませんでした。

ずぶ濡れになったMちゃんが笑いながら戻って来たので、Kちゃんが


「ちょっと、Mちゃん…」


って声をかけようとしたら、Mちゃんは突然崩れ落ちました。


あ!! と思って駆け寄ると、顔は青白く生気を失っていて、体はピクリともしなくなってたんです。

すぐ病院に行かないと!って思ったんですけど、でもこんな時間に管理スタッフはいないし、携帯も通じません。

管理棟に緊急用の電話があることは知っていたんですが、そこまでは人の足ではどんなに急いでも20分はかかります。

そこから救急車を呼んだとしても病院に搬送されるまでさらに3〜40分はかかってしまう。


とにかく焚き火の近くにMちゃんを寄せて、服を脱がせて体を拭きました。

ブランケットや私たちの着替えで体を包みながら一生懸命に身体をこすりましたが、信じられないくらいにMちゃんの身体は冷たくなっています。

管理棟まで走るしかない! そう決めた時に



「大丈夫か!」



と、Mちゃんのお父さんが来てくれたんです。



偶然とはいえ本当に幸運でした。

事情を説明すると、麓の病院には連絡がついているとのことなので、Mちゃんを包むブランケットや衣類にありったけのカイロを入れて、お父さんの車に乗せました。

弱いけど脈もあるし、麓の病院までは車で20分ほどだからたぶん大丈夫だろうとお父さんが言っていたので、私たちは胸をなでおろしました。

車を見送った後、Mちゃんの荷物をある程度片付けて、そのまま一泊しました。


次の日、荷物を片付けているとMちゃんのお父さんが迎えに来ました。

命に別状はないと聞いて、本当に良かったと安心しました。

頭を下げるお父さんに恐縮しながら、私たちは昨日の夜のことを説明しました。

お父さんも驚いていました。

もちろん私たちも昨日のことが信じられません。

その日はもやもやとしたまま、Mちゃんのお父さんの車に乗って帰りました。


後日、Mちゃんの容体が落ち着いたと聞いてお見舞いに行きました。

その時に、どうして急に川に飛び込んだのって聞いたんですが、Mちゃんもわからないそうなので、それ以上は聞かないことにしました。



無理ないな、って思ってます。



あのときのMちゃんは、Mちゃんではない誰かのような気がしたからです。



だから怖くて、川ではしゃぐMちゃんを止めることができませんでした。




私、そういうのあまり分からないんですけど、Mちゃんが何かに取り憑かれたんじゃないかなって、今では思ってます。





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