たしなめられる

今から5〜6年くらい前になりますかね。



二次会の帰り道、後輩が「甘いものが食べたいッスね」と言い出したので、同僚や先輩と一緒に近くのファミレスに入ったんです。

ほろ酔いのむさ苦しい男集団を怪訝そうにみた店員と

「6名様ですね」

「おタバコはお吸いになられますか?」

「窓際のテーブル席でよろしいでしょうか?」と一通りのやりとりをした後、席に腰を落ち着けました。

「空手部上がりがイチゴパフェですか」などとからかっておきながら全員パフェを注文するというある種異常なテーブル席は、それぞれ酒に酔っていることもあり、仕事や付き合い始めた彼女の相談、ここにいない上司の悪口で盛り上がっていました。


話はどんどん盛り上がり、先輩の

「だからぁ、俺が教えたいのは一言で言えば『俺になれ』ってことなんだよ」

という意識高い系上司のモノマネを聞かされ、全員で爆笑したときでした。




耳元で「しいっ!」って、たしなめられたんです。




「あっすいません!」

突差に右の席の人に謝罪しようと思いました。

ちょっとうるさかったかもしれないので。

でも、右側をみて「?」と思いました。




右側は全面ガラス張りの窓。

テーブル席の角に座っていた僕の隣に人がいるはずないんです。




僕の後ろのテーブル席には最初から誰もいないし、ファミレス特有の、顔が隠れるくらい高い背もたれのこともあって、右耳のすぐ近くに顔をもってこれるはずもありません。

でもたしかに、唇に人差し指を立てて「しいっ」とたしなめられ、耳に吐息がかかる感触がありました。

口うるさそうなおばさんの姿も連想されたんです。

ガラス張りの向こうの、深夜の道路をきょとんとした顔でみつめる僕に先輩が

「どしたん?」と声をかけてきたので

「いえ…ただ少し、みなさんボリュームがあれかも…」とすいません、と言いながら伝えました。

「ああ、せやな」と、先輩が全員に向けて、口に人差し指を当ててましたけど。




あれはなんだったんですかね。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る