妹
私が高校生のときの話です。
日曜日のお昼ごろ、部活も終わってリビングでくつろいでいた時でした。
二階にいる妹が階段を駆け下りてリビングに飛び込んでくるなり
「オバケがいる!」と私に訴えてきました。
目に涙をためています。
受験の重圧でおかしくなったんだ、と思いました。
けれど、たった一人の妹の真剣な眼差しを無下にもできず、竹刀を持って二階の和室に向かいました。
私を盾にしている後ろの妹が言うには、和室にある古い洋服箪笥が突然がたがたと揺れ出したのだそうです。
最初は気のせいにしていましたが、揺れる音や振動がどんどん大きくなるのが怖くなって私に助けを求めた、と震えながら説明してくれました。
和室の襖を静かに開けて、奥の洋服箪笥を見すえて竹刀を構え、しばらく観察しました。
…
…
…あたりまえですが、洋服箪笥は微動だにしません。
ため息をついて、やっぱり受験でおかしくなったのだと思いなおしました。
疲れている妹のために、リビングに戻ってお茶でも淹れてあげようと思った時
がたがたがたがた!
と、目の前で洋服箪笥が音を立てて揺れ始めたんです。
だんだんだんだん!と中から扉を叩く音が響き渡り、「ほらぁ!」と後ろの妹が声を上げます。
すぐさま箪笥に駆け寄り扉を開けようとしましたが、鍵がかかっていて開きません。
鍵の保管場所が分からず、買い物に出かけている両親に連絡をとろうとすると
「おねえちゃん!」と妹が鍵を渡してきました。
ドラクエにありそうな古い鍵を差し込み、扉を開けました。
「おねえちゃあん!」
箪笥の中から、涙で顔を濡らした妹が飛び出してきました。
「誰かに閉じ込められたのぉ!こわかったぁ!」
私の胸に顔を埋めて泣きわめく妹。
意味が分かりません。
…そういえば、どうして鍵の保管場所を?
後ろにいるのは…?
「おねえちゃあんだってぇ」
後ろから冷たく笑う声が聞こえました。
私は振り向きざまに竹刀をなぎ払いましたが、空気を切る竹刀の音が響いただけで、後ろには誰もいませんでした。
妹の話では、何気なく和室に行ったら箪笥の扉が開いていて、扉を閉めようとしたら後ろから誰かに突き飛ばされ、そのまま閉じ込められたというのです。
あれからおかしなことは何も起こっていませんが、私たちを嘲笑する冷たい声が、今も耳に残っています。
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