7 ーA(エース)店長ー

A(エース)を任されてから五年

今じゃ,一番歳食ってて一番長くいる。

それでも「脂の乗ってる歳」って思ってるが,この言い方が既に古いんだろう。


五年前…

その時俺はglass(グラス)に居た。

ここでいうワタルのポジション。

店内の様子,出勤してる女の子や客の入り·客層を常に見て,誰をどこにつけ,何を求めてるか頭の中で考えた。

あの頃は「全盛期」だった


パラパラやマンバ。

…今の子に聞いても,顔に?(ハテナ)が浮かんでるもんなぁ。

「ギャル」「ギャル男」

暫くして

「お姉系」「お兄系」

なんて言われてた時代。


たまにそんな感じの人はいても,どストライクな世代の俺から見たら,やっぱどこか違うし

そもそも,真っ黒に焼いた肌の子が表紙飾ってる雑誌すら見掛けなくなった。

その代わりに似た顔が増えて,一人一人の印象が薄くなった。って俺は思う。

詳しくないけど,横に真っ直ぐな眉とか…。


さすがに今は,目の周り真っ黒で,鼻筋にも真っ白な線の化粧してる子なんて居たら

(おおっ!!)

ってなるけど,何となくそれっ気のある子が面接に来たりすると,どこかワクワクする


…まぁ,系列の中でもglassだけは印象が少し違って,落ち着いた雰囲気だけど,それでもあの頃は平均的に売り上げも景気も良かった。

なにより,人間の見た目が派手な分,接客指導もしっかりしてたから

そのギャップこそが,一つの楽しめる要因でもあったんだろう。

女の子だけじゃなく,俺ら黒服にもきちんとした指導があったからこそ,今の俺の根っこにきちんと残ってる。



「店長ちょっといいですか?」



萌衣は閉店後すぐ帰って行くのに,その日俺の傍に座ると,やや小さな声で話しかけてきた。


「おつかれ。どうした?」


どこか悩んでる様で,吹っ切れてる感じもする。

様子を見て,周りから離れた席に少し移動し話を聞く事にした。

…何となく言いたい事が分かる気がした。


「…今の店どう思います?」


おいおい,単刀直入だな。

つい,ふっと笑ってしまった。


「言葉選んでも伝わらないと思ったから言ったんですよ。笑わないで聞いて下さい。

…あの子が居なくなってから,この店変わりました。そのお客さんもまだ来てくれますけど,来てくれるだけまだマシ。女の子からしたら(自分についてくれるかも)っていう,ガッツも見えない。何人かカエデについたみたいだけど…来なくなった人の方が圧倒的に多い。

あたし,こんなにやり甲斐がないのが続くのは耐えれない。」


どこか,怒りとやるせなさが滲んでいる

…笑ってる場合ではない。

それは,店の様子や売り上げ表を見て俺も感じていたからだ。

それに,一度俺が(これ以上聞かないでくれ)と,拒んだばかりに,名前こそ出さないが言いたい事は痛い程分かった。


最初は

どうしてそうなったのか知ろうとした。

だが,そこばかりに気力を使うと,店自体をおろそかにしてしまうから切り替えた。

決して真実ばかりを追う事が,この店やここに居る人達にとって,プラスになる訳じゃないからだ。


「まぁな…。」

少し言葉を止め

「カエデだったのか。どおりでシャンパンは出てるし,最近潰れてる回数増えてたと思ったら。

酒を飲んでるの見るの好きなのって,荻さんじゃなかったかな?

カエデ弱いのに美味そうに飲むから気に入ったんだろうなぁー…。」


萌衣は何度も頷き

「そう。やっぱ店長分かってるね。でもさ,指名されるのは嬉しいかもしれない。でもあたしもカエデをよく知ってるから言うと,途中で潰れる事が増えて,本来のカエデのお客さんが以前みたいに楽しんでるって感じより,心配してるように見える事がすっごい増えた。カエデを気に入って来てくれてるのに…なんか遠のかせてるような…。

それに,それをフォロー出来る子も居ない。」


「なるほどな」

確かに太客を掴めば,自然と売り上げは上がるが,だからと言って自分目当てで来てくれる客をおざなりにしたら,客は離れてゆき結局はカエデにとっても店にしてもマイナスにしかならない。

それどころか,客は金を払ってその時間と求めてきた事を楽しむわけだから,話は簡単ではない。


「あたしが席抜けるなんて出来ないから,何とかしたいって思って,女の子と話したり頑張りたいって思える意識作るようにしてるけど…

それでも全員は無理だから,自然とあと一歩で変われる。って感じた子にしか出来ないのも現状。」


俺は外にいる事が多いけど,なるべく早く店のあり方を伝え,変えていかないと。と思った

でないと,萌衣やカエデの負担はどんどん増えて大変な事になる……



「ねぇ,店長。

あの人は呼べないの?今時珍しいロングドレス着て,手袋つけた人。よくヘルプだかで来てたじゃん。あの人の事たいして知らないけどさ…,なんか変えてくれる雰囲気があるんだよね。呼ばれるって事は,はっきり言っちゃうけど「こっちにやってもいいですよ」って事でしょ?その人が嫌じゃないならこっちで働いてもらえないの?」


ロングに手袋……



マユか。


マユはもう辞めたって岩田から聞いていた。


(「一身上の都合で」って硬い言葉で言ってましたけど…,何となく分かってました。店の事を考えると,中に居る時間を増やした方がいいとおもったので,そうしてたんですけど…傷がかなり増えてました。

本人にはそれは言わないで,分かったよと言ったら,生々しくて痛いだろうに,そんな顔一つも出さずに最後の日までちゃんと働いていきましたよ。)



ふぅー……


俺は長い息を天井に向けて吐いた。

萌衣は俺の言葉を待ってるのが焦れったいのかしきりに顔を見てくる。



言わない方がいい。


それが俺の結論。

一定の人物にこだわってしまうと,後々辛くなるのは本人だし,なにより他の子の成長にはならない。




「いや,俺も店の子一人一人と面談…ってより,向き合う時間を作る。その方がメイやカエデの負担もそうだけど,意識を変えれると思う。

すぐ予定つけてするから。

メイ,言ってくれてありがとう。」



…しかしあれだな。

マユって,存在感てよりは心に残る子なんだなぁ……

周りからもたまに聞こえる声からその名前が上がるのはきっとそうなのだろう



「分かった。あたしも頑張るから」


そうそう,この目。

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