猫又又三の日常
猫又亭 麻太
第1話 吾輩は猫又である
日本のとある有名でもないところ。
海と山が近く、都会でも田舎でもないところに僕は住んでいる。
僕は
名は、
歳は今年でだいたいで222歳。
猫だった時を合わせるともっとだ。
好きなものは、飯と人間と酒と音楽。
苦手なものはネギ。
猫でいる期間が10年だったから、猫又になってからのが
昔は猫が長く生きていくのは難しかった。子猫の時は獣に襲われる事も多くあり、成猫になれば怪我や病気で死ぬ事も良くあった。なので、昔は10年生きれば長生き。
そんな稀な猫が人間が居ない山に入ると、猫又になれたんだ。便利な世の中になった今は、25年は生きないと猫又になれないらしい。
『猫又は人を襲って食べる』
なんて話も昔はあったらしいけど、それは人が勝手に作った話。実際の僕らは、余程の事がない限り、人は食べないし襲わないよ。
「人は美味しくない」
と、山で暮らす
僕ら猫も猫又も、熊達がそんな噂をしているのを昔からよく聞いていた。そんな、「不味い」と不評な人間を食べた熊の証言として、じゃあなぜ今でもたまに人間が襲われ、彼等は食べるのか? と思うだろう。僕が聞いた限り、
「うっかり殺しちゃったから
と、いう声が多数だった。
冬眠前や明けとかは、熊達も何か食べないと死んでしまう。熊も生き物を殺したら好き嫌いなく食べておかないと自身の死活問題という訳だ。野山をいくら探しまわっても獣が居なかった、量が足りなかった、など他の意見もあったけど大体はうっかりだったって事だね。
熊達は、こうも話していた。
「仕方なく食べたがやはり人間は不味かった」
それでも食べられてしまった人間が1番哀れだけどまぁ仕方ない。当時の僕ら猫又達は猫の時と同様に、魚、蛇、ウサギ、鳥、木の実などの方が美味で狩りやすかったからそっちを良く食べていた。いや、今でも割と食べるか。これは余談だけど、人間が作るお酒にもこれらは良く合うんだ。機会があったら食べてみるといいよ。
僕ら猫又や妖怪は基本的に人には見えない。ごく
「昔の人たちは、猫又をイノシシやクマなどに見間違えているのを記録していたのではないか?」
というのが、僕や現代に居る猫又達の見解だ。
実際、現代にいる猫又たちは、皆、長生きで穏やかだ。ほとんどの猫又は山の中で静かに暮らしてる。家もちゃんと立派なものをそれぞれが持っている。最近は猫又も住むところが減ったらしい、なんていう事を話す者達もいるらしいけど、実際の彼らは妖怪なので極端な話、住むところが無くたって食べなくたって生きていけるんだ。
妖怪の契約を結んだ時点で僕らは死ぬことは自分で選択する。妖怪は基本、寿命が無いからだ。もしくは、契約違反をすると、猫又の資格を
知らなかったでしょ?猫又は神様側の妖怪で、神様と契約をしているからなんだ。
妖怪にも色々ある。神様側の妖怪、悪魔側の妖怪、そして気付いたら勝手に妖怪になってたりする中性妖怪などという者達もいる。人が使ってた枕や要らないと捨てられたあずき、ずっと山に生息していたキノコや山菜、生き物から離れた目玉などは、中性妖怪になる事があるんだ。中性妖怪によっては、妖怪料理にも使える。特に、目玉から成った中性妖怪の『トンとチンとカン』は、良いダシが出る。人間も目玉妖怪が見えたら、試してみるといいよ。
さて、そんな僕は他の猫又と違って街中に堂々と住んでいる。よろず屋を営んでいるんだ。
『
妖怪と同様に、お店もお店の商品も普通の人間には見えない。お店で流してる音楽や話声さえ聞こえない。ただ、一部の人間には見えたり聞こえたりするらしく、お店に入ってくる人もいる。小さな子供は割と見えるみたいで、僕によく手を振ってくるよ。10歳を過ぎると不思議と見えなくなってしまう事が多いけども。
その中でも、僕がより不思議に思っている事がある。
動物や妖怪はそうでもないのだけれど、人間に関してだけは猫又亭が必要な人にだけ見えたり、お店に入れたりする。面白いよね。人が言う、『
猫又は見た目は猫の時と対して変わらない。と、思う。
というよりも、僕が普通の猫でいた時が222年前の江戸時代だから、当時は、自分の姿を水に写った時くらいしか確認する術が無かった。鏡ですら高級品な時代だもの。だもんで、自分の姿なんていちいち覚えて居ないし、当時は自分の見た目なんて割と
人間と違って猫はそんなものだよ。とりあえず僕が妖怪になって気付いた変化は、二本足立ちになれた事と、尻尾が2本に割れた事くらいかな。
猫又になってからは、自分だけで出来ることがすごく増えたので、
あ!これだけは知っておいて!
僕らは着ぐるみ着てるんじゃないからこのままでお風呂は入るよ!
毛は生えてるもんだから!
ふぅふぅ……失礼。
何でか、これまでも僕の事が見える人間に、
「それ、着ぐるみ着てるのか? 」
なんて聞かれる事が以前よくあって、ちょっとコンプレックスなんだ。
芸人さんがたまにネタで言ってるけど、
「ちょっと言ってることがよくわからない」
父ちゃんも、母ちゃんも、兄ちゃんも、猫又になって会ってもすぐにわかったから、きっと顔や姿は変わってないはずなんだ。
さっき少し話したけれど、猫又になってからは火が怖くなくなったので台所仕事ができる様になった。美味しい物を食べる事も大好きだから、たくさんの種類の料理を作る様になった。何を食べても死ななくなった事で色々心配する必要が無くなったのが嬉しかったな。
自分で調理をしたご飯が、素直に美味しいと感じられる様になった事が料理好きになった理由かもしれない。あ、ネギだけは今も苦手。なんだか好きじゃないんだ。出汁はとるけどね。
僕が普通の猫だった江戸時代から比べると、世の中すごく便利になった。
レシピ情報も多いから、最近は更に色んな料理を作れるようになったよ。和食、洋食、中華にフレンチ、イタリアン!あとは、その時の気分に合うご機嫌な音楽とお酒があれば最高にハッピーだね。
さて、僕は覚えている限り人間に大切にされて可愛がられた経験しかないから、人間は大好きさ。
人間を悪く言う猫や妖怪もよく居るし、人間にも悪い奴がいるのも知っているけれど、それはお互い様。僕自身、人間にされて嫌なことはこれまでにそんなになかったから関係ないし、僕も間違っていることを何度かきっとしてきている。もちろん、これまで関わってきた中で、すごく悪い奴も全く居なかった訳じゃなかったけど、良い人間の方が多いと思う。何なら悪魔側妖怪の方が困った奴は多いよ。
それと、人間は猫と違って余計な事をすごく考える生き物だから見てて面白いし興味深い。
僕が人間の世界で暮らしている理由さ。
ここでは、そんな僕の日常を記したものを猫又亭の唯一の人間従業員、「
ここでの僕に出会った人間や妖怪のみんな、これから宜しくね。
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