第76話 日曜日は繁忙(3)




意外な場所で蓼科さんに見つかり、連れて行かれた高級和食店で豪華な松花弁当を食べてる俺と女子達。


女子はスマホを片手に写真を撮ったり、どこかのサイトにアップしてるのか、忙しい様子だ。


そんな最中、ひとつのメッセージが届く。

見るとミサリンこと瀬川美咲からだった。

〜〜〜〜〜

「みんなでランチ。豪華でしょう?」


と書かれており、目の前にある松花弁当の写真が貼ってある。


「確かに、豪華だな」

〜〜〜〜〜


と俺は返信しておく。

嘘はついてない。

豪華なものは豪華なのだ。

この場では嘘はついてないが、瀬川美咲との出会い事態が嘘みたいなものなのだから。


そんなハプニングもあったが、女子達は美味しいものが食べられて満足してるようだ。


デザートのアイスを食べ終わり、俺は少し別行動する事を伝える。

鴨志田さんと木梨は不機嫌そうな顔をしていたが、他の女子は勝手にどうぞ、みたいな感じだ。


そして、約束通り隣の部屋に入ると、俺の顔を見た途端、ちびっ子達みんなが『すっ』と立ち上がり、敬礼し出した。


え〜〜と、どういうことかな?

穂乃果の妹のカノカが恥ずかしがってるけど、やるの嫌なんだろうなぁ……


いつまでも敬礼してるので、ちびっ子達に声をかける。


「ご苦労、問題はないか?」


「「「「「「「「イエス、マイロード!」」」」」」」」


「そのマイロードって誰に対して?」


「「「「「「「「もちろん、東藤閣下であります」」」」」」」」


メイの奴……!!


「東藤君は閣下なの、いいわよね〜〜。私なんか軍曹よ、軍曹。なんでって言いたいわ」


蓼科さんが女軍曹……何か妙を得てる。

凄いな、ちびっ子達の感性は……


「とにかく楽にしてくれ、これからが本番なんだから」


そういう時、ちびっ子達の良い返事をもらいみんな席の着く。

まだ、本番までは時間がある。

ここで、俺達はミニ・コンサートの詳細を話し合った。





〜樫藤穂乃果〜


「陽奈殿との待ち合わせはこの辺りと聞いていたのですが……」


トウキョウ・ドームシティアトラクションの3分間しか戦えないヒーローの銅像の前で陽奈殿と待ち合わせしていた穂乃果は、まだ来ていない友人を探していた。


すると、アイスクリーム売り場の前に並んでいるテーブルのところで女性がお腹を抱えて苦しんでいる。

周りにいる男達はオロオロしていた。


「痛たたたた、お腹が〜〜盲腸があ〜〜」


お腹を抱えて痛みを叫ぶ女性に知り合いの男性が『おい、大丈夫か、しっかりしろ!』と声をかけている。

そしてさらに知り合いらしい男性が、スマホ片手に救急車を呼んでいた。


「そのご婦人は大丈夫ですか?」


穂乃果は、近場で起きたその事態を放っておけなかった。


「どうもお腹が痛いらしくて救急車呼んだから」

「しかし、困った。これではショーが……l


すると女性の知り合いの男達は穂乃果を見始めた。


「「ジーーッ」」


「あの、何か?」


異様な視線に戸惑う穂乃果。

元来人見知りな彼女は、こういう視線に慣れていない。


「君、時間あるよね?」

「頼む、お願いだ」


何かを必死に頼む若い男達。

その前で苦しんでいる女性。


穂乃果は、陽奈と待ち合わせをしてるので、断ろうとすると救急隊員がやってきた。

女性をストレッチャーに乗せて去って行く。

その場に残った男子2人は困った顔をしている。


「あいつ大丈夫か?」

「盲腸が、とか自己申告してたな」

「あれ、あいつ盲腸、この間してなかったっけ?」

「う〜〜ん忘れた。でも、あいつ腹痛くなる前アイスをガバガバ食べてたぜ」

「そう言えば『こんな暑い中やってられないわよ!』とか言ってたな」

「「…………」」


「そんな事より、君!頼むから少し時間をくれないか?」

「そうなんだ、ちびっ子達が楽しみにしてるんだ。お願いだから頼む」


元来、人見知りと人から頼まれたら断る事が苦手な穂乃果は『少しの時間なら」と了承してしまった。


了承してしまったのだ……




『この綺麗な地球を脅かす乱れた髪の毛も持ち主達から地球を守る5人の戦士が現れた』


ヒーローショーの会場にナレーションが流れた。

すると、正義の戦士が現れれる。


「キラりんレッド!」

「ツルりんグリーン!」

「ペカりんイエロー!」

「スベりんピンク!」

「ピカりんブルー!」


「「「「「ピカっと参上!ツルっと解決!キラレンジャー参上!」」」」」


『わ〜〜〜〜パチパチパチ』


会場にいる子供達は大喜びだ。


「いいかい、樫藤さん、乱れた髪怪人が現れたたらポーズを決めて戦闘だから、わかってるよね」

「ええ、このような些事、見事役目を全う致しましょう」

「う、うん助かるよ。バイト代弾むからね」


小声で話すレッドとピンク。

どうやらピンクの中身は穂乃果のようだ。


『お〜〜っと、怪人乱れ髪とロングソバージュが現れたぞ〜〜。5人の戦士は勝てるのか?そして、悪から地球を守れるのか?』


ナレーションが流れて戦闘に入る。

敵は怪人乱れ髪とロングソバージュ、そして取り巻きの縦髪ロール怪人軍団だ。


まずは、ピカりんブルーから戦いが始まった。

必殺技バリカンシェードで見事に怪人も髪の毛を七三分けにする。


次はスベりんピンクの番だ。

大きなハサミを持ち戦闘に入る。

穂乃果の武芸が合わさって、今日のピンクの動きは尋常ではない。

連続バク転からのムーンサルトキックに始まり、天井に付けられてる照明器具近くまでの高ジャンプ。そして、プールの高飛び込みのような回転を加えてからの電撃チョップ。

会場は大盛り上がりだ。


『ピンクつえーー!』


子供達の感性が響く。

すると動きをさらに加速させたピンクは、怪人ロングソバージュの髪を持ってたハサミで切りそろえ、おかっぱ頭にした。


『おーー、ピンク、ピンク、ピンク』


会場からはピンクコールが叫ばれている。


(むむ、あやつはカズキ殿にいつも絡んでる輩達では……)


ふと、会場を見るピンクは、何を思ったか持ってたハサミをたって見ていた男に投げつけた。


彼の髪の毛は、脳天部分の一部が見事に短くカットされていた。


慌てたのは、キラりんレッド。


「樫藤さん、マズいよ。お客さんにハサミ投げちゃ〜〜」

「ちょっと手が滑りました」

「どうする。後でクレームくるよ。絶対に……」

「それなら私のバイト代を彼に渡して下さい」

「いいの?」

「ええ、構いません」


その後、イエロー、グリーン、レッドが怪人と戦いショーはひとまず無事?終了した。


そして、ショーの終了後、嬉しそうにお金を受け取る男子高校生がいたらしい。





3分しかもたないヒーローの想像の前でウロウロしてる男女がいた。

2人とも美男美女で、行き交う人々はその姿に目て通り過ぎて行く。


「穂乃果ちゃん、遅いなぁ〜〜」

「連絡はつかないのか?」

「うん、スマホの近くにいないのかな?」

「約束したんだ。時期に来るよ。陽奈、アイスでも食べるか?」

「そうね、暑いもんね」


誰かと待ち合わせしてる2人の男女は、目の前にあるアイスクリーム屋さんに寄ってアイスを注文してテーブルに腰掛けた。


「そう言えばさっき、ここで倒れた女の人がいたようだな」

「そうそう、救急車で運ばれていったよね〜〜」


そんな会話が隣のテーブルから聞こえてきた。


「お兄ちゃん、もしかして穂乃果ちゃんじゃあ……」

「陽奈、落ち着け。まだそうだとは決まってない。少し店員さんに話を聞いてくるよ」

「う、うん」


待ち合わせ人が

救急車に運ばれていったのではないかと心配する神崎陽奈。

でも、周りの人は陽奈の心配とは別にその美貌に興味があるらしい。


「あの〜〜『HINA』ですよね。読モの?」


素の格好をしてると、近寄ってくる男子がいる。

それを苦手とする陽奈は、少し怯えていた。


「そうですけど、今、仕事中なんですみません」


そう断りを入れるのが日常化していた。


「そうですか?カメラマンとかいないじゃないですか?良かったらランチでもどうですか?」


ナンパ慣れしてる大学生のような人が絡んでくる。

兄の姿を探したけど、店員さんと仲良く話し込んでいた。


困ってると、突然、声が聞こえた。


『ピカっと参上!ツルっと解決!』


声が聞こえた途端、陽奈に絡んでいた男は、ぐらりと倒れ込んだ。

周囲の人達が、どうしたんだ?という感じで寄ってくる。

周りの野次馬の1人が救急車を呼んだらしい。


「すみません、熱中症みたいで……ええ……倒れてます」


一生懸命状況をオペレーターに説明する心優しい男性。

その間に、神崎陽奈は手を掴まれて別の場所に移動して兄と合流していた。

遠くからその光景を見る神崎兄妹と樫藤穂乃果の3人。


今日、アイスクリーム屋さんの前では2人目が救急車で運ばれて行った。


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