第75話 日曜日は繁忙(2)




高い所が苦手らしい木梨は、その事を黙っていろと目力を使って訴えてくる。

そんな最中、無邪気な鴨志田さんは、次もまたスリリングな乗り物を選んだ。

青い顔をする木梨、でもその事を言うわけにはいかないようだ。


「すまん、今度はパスする。高い所は少し苦手のようだ」


俺じゃなく木梨がだけど……


「そうなんだ、ごめんね。私が楽しそうな物ばかり選んじゃって」


鴨志田さんは高いところは平気らしい。


「ダセーな!そんな奴ほっとこうぜ」

「高い所が苦手なんて男じゃねぇよな?なあ光希」

「あ、ああそうだな」


新井と南沢は余裕そうだけど、立花、お前、木梨並みに顔が青いぞ……


「あれ、光希って高いところ苦手じゃなかったっけ?」


あっさりバラす鈴谷。

お前、少しは男のメンツを考えてやれ。


「それは小さい頃の話だ。今は平気だ」


狼狽ながらもメンツをとった立花はさらに青い顔が増してる。


「俺はここで見てるよ。木梨も付き合ってくれるそうだ」


「ふ〜〜ん、そうなんだあ〜〜」


怪しんでる鴨志田さんを佐伯が引っ張ってスカイフラワーに連れて行く。

俺は、近くの店でコーラをふたつ買ってひとつを木梨に渡した。


「あ……ありがと」

「こう言う時はスッキリ爽やかな飲み物だ」


ベンチに腰掛け2人でコーラを飲んでると、パラシュートで落下するクラスメイト達の絶叫が聞こえた。


「なあ、ひとつ聞いていいか?」

「答えなくてもいいのならいいぞ」

「おい、それじゃ聞く意味ないじゃないか?」

「東藤の言いたいことはわかってる、と言う意味だ」


友人同士でもいろいろあるらしい。


「じゃあ、言い方を変えよう。何故、俺には隠さないで平気なんだ?」

「そ、それは、東藤は誰にも言わないだろう、それに……」

「それに?」

「私にもよくわかんないけど平気なんだよ。東藤だけは……」

「そうか、なら仕方ないな」

「なにが仕方ないのさ」

「木梨が自分自身よくわからない事を俺がわかるはずが無いと思っただけだ。だから、仕方ないと言ったんだ」

「そう言うことか、お前変わってるな」

「ああ、よく言われるよ。そのセリフ」

「ぷっ……あははは、なんだそれ。あははは」


いつもクールな木梨が笑っている。

どこか俺と似てると思ってた木梨が笑っていたのだ。

それが、俺には新鮮でもあり、少し羨ましいと思ってしまった。





みんながパラシュートから降りて帰って来た後も、勢いは止まらなかった。


ひとつひとつアトラクションを制覇して行く。


ここで俺は思い知ることになる。団体行動における連帯感という縛りの強さを……。


これは、なかなか抜け出せる雰囲気ではない。


それに、俺はただついて行くだけであり、どんなアトラクションに乗っても平気だが、木梨ともう1人立花は限界のようだ。


木梨はともかく立花を助ける義理はないが……


「なあ、そろそろ昼にしないか?」


時計を見れば午前11時半。

ちびっ子達のステージの時間が迫ってきている。


「そうね、お腹も空いたし」

「ああ、そうだな、いいぞ」


団体行動は、誰かが提案して、暗黙のうちに多数決となるようだ。

みんなは、店に向かい俺もついて行く。


しかし、今日は日曜日。

この時間の店舗はどこも混んでいる。


「あちゃー結構、並ぶようかな?」

「マジかよ。めちゃ混みじゃん!」


男子2人は文句を言うが言っても人は減らない。


このままでは、埒が明かない。


「上の階に行ってみない?」

「そうね、その方が空いてるかも」


女子達の提案で上の階に行くことになったが、そこもそこそこ混んでいる。

考えることは皆同じようだ。


仕方なく、大人しく並ぶことになったのだが、男子達が我儘を言い出した。


「俺、フード・コートでいいや。どうせ並ぶんなら安い方がいいし」

「じゃあ、俺もそうするよ。光希はどうする?」

「ああ、真吾と太一に付き合うよ。そういうことだから羅維華、後で合流しようぜ」


そう言って男子達は、女子達とは別行動し始めた。

俺はあんな奴等に付いて行く理由はない。


「いつもこうなのか?」

「私はよくわからないけど、いつも男子は勝ってに行動してるよ」


鴨志田さんはそう答えてくれたが、さっきまでの連帯感は何だったのか不思議に思う。

そんな事を考えてると、俺の肩を『ガシッ』と掴まれた。

この気配、この痛みは何度も経験してる。


「東藤君、早く着いたの?」


見れば蓼科さんが俺の背後にいた。


「ええ、まあ……」


女子達が『誰?あの人』とか話してる。


「もしかして、デートとかしてるわけないよね?こんな時に……」

「クラスメイト達と来ましたけど、何か?」

「そのクラスメイト女子達とハーレム状態なのね。いいわねぇ、若いって!」


肩を掴む手に力が入る。

マジで痛いんだが……


「さっきまで男子もいたんですよ。彼らはフード・コートに行きました」

「そうなんだ。じゃあ、早いけどお昼食べて用意するわよ」


ここで見つかってしまったのは、運が悪い。

蓼科さんにしか聞こえないほど小声で話した。


「クラスの子達には内緒にしてるんです。時間になったら行きますから」

「そうなの?確かに知られたら面倒よね。わかったわ。ここは大人な私に任せなさい」


そう言って大人ぶって話をしだした。


「皆さん、こんにちは。東藤君のクラスメイトなのね?私は東藤君の叔母さんの知り合いの奥さんの妹の旦那の妹の妹なんだけど、良かったら一緒に食事しない。ここは、混んでるし時間がないわ」


「え〜〜と、東藤君の親戚の人?」

「結衣、違うと思う。だっておばさんの知り合いって言ってたし知り合い?あれ、ごちゃごちゃしてわかんなくなっちゃったよう」


佐伯楓は頭をかきむしり出した。

こんな紹介、俺の方がわけわからない。

妹を連発してた意図は想像できる。

大人と言いながら若く見られたい故だ。


「とにかく、みんなもついてきて。御馳走するから」


「え〜〜いいのかな?」

「あ〜〜言ってるんだし、構わないんじゃないの?」


いろいろ意見もありそうだが、確かに蓼科さんが言ってたようにここで待ってて食事ができても時間がかかる、なら……


「おばさんが奢ってくれるって言うから、みんな付き合ってあげてくれる?」


俺がそう言うとクラスメイトの女子達は納得したようだ。

ただ、1人、俺の肩を力いっぱい掴む蓼科さんを除いてだが……


「おばさんって誰かな?かな?」


うん、言葉を間違えたようだ……





蓼科さんに案内されたところは、上階にある高級和食店。

確かに、ここなら空いてるだろう。


値段が高そうだし……


店には連絡を入れてたようで、俺達は奥のVIP席に案内された。

いくつか部屋があるが、奥からは子供の声が聞こえてくる。


「まさか、みんなここにいるんですか?」

「そうよ、部屋は別にしてもらったから、安心しなさい。私は向こうにいるから食べ終わったら来てね」


そう言って蓼科さんはここにいるだろうちびっ子アイドル達のところに行ってしまった。


「ねぇ、東藤君、いいのかな?」


鴨志田さんはそう聞いてきたが、確かに高校生達がお出かけして入る場所じゃないってことは俺でも理解できる。

だが、正直時間がない。

あそこで待っているよりマシだ。


「構わないよ。おばさんがそう言ってるんだし」

「東藤のおばさんってお金持ちなんだな」


木梨が言うようにお金持ちではない。

きっと事務所の経費で落とすつもりだ。


「とにかく注文しよう。メニューは……と」


みんなでメニューを見て、なるほどと納得する。

この店が混んでない理由がそこにあった。


「どれも美味しそうだけど、ちょっと選びづらいよ」

「そうよね、確かに〜〜」


気持ちはわかる。


店員さんがやって来たのでお勧めを聞いた。

セットになっている松花弁当が人気らしい。


みんなの顔を見渡して、俺はそれを人数分注文した。



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