第74話 日曜日は繁忙(1)



朝起きて今日の予定を確認する。

午前10時にイケフクロウ前で鴨志田さん達と待ち合わせ。

鈴谷達女子と立花達男子とで遊園地で遊ぶ事になっている。


午後1時半から『苺パフェ8』のデビュー・ミニ・コンサートだ。

1時間前の12時半にはラクーダ・ガーデンステージに行かなくてはいけない。


午後5時から名家の集まりがあり、総代である白鴎院兼定から護衛を頼まれている。

午後4時には、会場となるホテルに入らなければならない。

因みに護衛は百合子が本命らしい。

俺達は、東藤家として会場入りするように取り計ってくれたみたいでメイや莉音も中に入れるようだ。

勿論、藤宮家次女の聡美姉とその付き人である雫姉も参加する。

樫藤穂乃果と花乃果姉妹は、今回紫藤家当主代理である珠美の警護官と付き人としての会場入りだそうだ。


つまり、この屋敷にいる人々は全員参加させる為、無理をしてこじつけた格好となった。


莉音はパーティーなど初めてで前の晩から緊張していた。

美味しいものが食べれると喜んでいるメイとは大違いだ。

2人が着ていくドレスは、聡美姉や雫姉達のドレスを直したものだ。

俺の服も聡美姉のお爺さんが着てた服を雫姉がサイズを調整してくれた。


「じゃあ、カズ君。4時にホテルで待ってるね」

「お兄しゃん、いってらっしゃい」


聡美姉と莉音に送り出されて、俺は電車を乗り継ぎイケブクロまで行く。

イケフクロウは、駅構内にふくろうの銅像があり、待ち合わせの目印として利用する人が多い場所だ。


人混みの中、イケフクロウの前まで行く。

既に多くの人が待ち合わせをしている。

待ってる人を見るとみんなスマホを片手に持ってそれを見ている。

便利な反面、管理されてるようで少し怖い気がした。


時計を見ると午前9時。

早く着きすぎたようだ。

俺はみんなが来るまで、どこかで時間を潰そうと思い、近くのカフェを探してそこに入る。


すると、そこには見慣れた顔の女子が1人スマホを見ながらお茶してた。


「おはよう、木梨。お前も早く来たクチだな」

「東藤か、良ければどうぞ」


カフェの店内は割と混んでいたので知り合いとの相席はラッキーでもある。

席に鞄を置いて商品を購入する。

俺はダークモカチップとかいう何か強そうな飲み物を注文した。


商品を受け取り、テーブルへ行くと木梨が俺を見ていた。


「なにを頼んだ?」

「ダークモカチップとかいう強そうなやつだ」

「飲み物に強いも弱いもないと思うよ」

「名前が宇宙っぽいじゃないか」

「まあ確かに、映画の敵役に出てきそうな名前だな」


俺はストローでそれを飲むと口に中にチョコレートの味が広がった。


「本当は今日、結衣と2人だけで行くはずだったんだろう?」

「そう約束してたが、みんなと一緒だろうが約束を果たせれば俺はいい」

「そうなんだ。ふ〜〜ん、意外と面倒くさいタイプだな、お前」

「それはお前も同じだろう。木梨なんとか?」

「由香里だ!木梨由香里。東藤、わざと言ってるだろう?」

「まあな……」


由香里だったのか……


「そう言えばなに見てんだ?ヘッドホンして」

「世界が今日終わるらしい。そうほざいてる黒頭巾のおっさんだよ」


確か俺も前の見たことがあるな……


「そいつ顔隠してるが、おっさんじゃなくもっと若くないか?」


「東藤も見たことあるのか?確かに声は若そうだが、私にとっては20歳も30歳もおっさんはおっさんなんだよ」


「理不尽だなお前、おっさんに刺されるぞ」

「それは勘弁願いたい。私にはまだやらないといけない事があるからね」

「ところでそのおっさんは、今日どうやって世界が滅ぶと言ってるんだ?」

「まず、日本から始まるらしいぞ。超能力で隕石でも呼ぶんじゃないか?」

「それはマズいな、逃げようがない」


クールな木梨との会話は男友達と会話してるようで気が楽だ。

俺には男友達は、ひとりもいないが……


「そういえば木梨は何でこんなに早く来てたんだ?もしかして楽しみにして早く目が覚めたとか?」


「ば、ばか、そんなんじゃない。違うんだ、そうたまたま早く目が覚めただけで、楽しみとかそんなんじゃないからな!」


楽しみだったらしい……


「そうか、たまたまか、俺と一緒だな」

「あ、ああそうだ。そうだとも」


俺と木梨はカフェで時間を潰して10分前にイケフクロウにもう一度来た。





俺と木梨が一緒に現れると、意外そうにみんながこちらをジロジロ見てた。

男子達は、面白くなさそうな顔して木梨だけに挨拶をする。


ほとんど集まってるようだが、鈴谷が「美咲、また遅刻だよ〜〜」と言っている。どうやらミサリンこと瀬川美咲は遅刻常習犯らしい。


そんな中、鴨志田さんが俺のところに来て「おはよう」と挨拶して、急に怪訝な目つきで俺に話しかけてきた。


「東藤君って由香里と仲良かったの?」

「たまたま、朝、一緒になっただけだが、それがどうかしたか?」

「ううん、何でもない。それで、どう?私」


何がどうなのかわからないが、おそらく私服の事を言っているのだろう。

沙希も前にそんな事を言ってた気がする。


「ああ、よく似合ってる」

「ほんと?ありがとうね、東藤君」


鴨志田さんは何故か嬉しそうだ。

小さなガッツポーズをしてるのを見てしまったが、あえて何も言わないでおこう。


「それと今日はごめんね、みんなと一緒で」

「いいよ。前にも謝罪されたし気にしてない」

「今日は場所が変更になってトウキョウ・ドームシティアトラクションズに行くんだってさ。男子が勝手に決めちゃったんだけど東藤君、大丈夫?」

「そうかトシマエンからそこになったのか、俺はむしろその方がいい」

「そうか、勝手に決まっちゃったから気になってたんだ。でも、良かったよ。東藤君が賛成してくれて」


俺としては、とても都合がいいが……いや、むしろ逆か?

バレたら色々面倒なことになりそうだ。

気をつけよう……


「ごめ〜〜ん」


そう言いながら瀬川美咲がやってきた。


「もう、遅いよ〜〜」

「ごめん、電車一本乗り遅れちゃってさ〜〜」


鈴谷が美咲を軽くたしなてた。


「じゃあ、みんなそろったみたいだし行くか」


と立花が俺をチラリとみて提案する。

感じが悪いのはいつもの事だが、今日は特に酷そうだ。


みんながぞろぞろ最寄駅のある地下鉄に乗ろうと歩き出す。

俺は1番後ろから、みんなの後をついてくと木梨が俺のそばに来た。


「木梨、俺と歩くよりみんなと一緒の方がいいぞ。何か言われても責任は取れないからな」

「私はどこでも一緒さ。だから東藤の隣を歩いてても同じというわけだ」

「もの好きな奴もいるんだな」

「そういうことだよ」


そんなやりとりを鴨志田さんが見ていた。

鴨志田さんは俺の前を仲の良い佐伯楓と歩いている。


「東藤君、由香里と仲良かったの?」


同じ質問を佐伯楓もしてきた。

意外そうな顔で俺と木梨を見ている。


「そうだな、普通だと思うけど」


俺がそう答えると佐伯は木梨に問いかけた。


「そう言ってますが、由香里はどうなの?」


「そうね、普通だと思うよ」


「う〜〜ん」と言いながら頭を抱える佐伯は、隣で歩いてる鴨志田さんの肩を『バンバン』と叩いた。

鴨志田さんは、肩を叩かれて俺と佐伯、そして木梨を見る。

そして、今度は鴨志田さんが「も〜〜う、楓は!」と言いながら佐伯に軽く横から体当たりする。


彼女達なりのコミュニケーションなのだろうと勝手に納得した。


前方を歩く鈴谷と瀬川、それに群がる男子達。

こいつらはこちらを完全無視して行動してる。


俺もその方が気が楽だ。


それより、どうやってみんなから抜け出そうかと俺は思ってた。





最寄駅に着いたみんなは、遊園地の入場料を払う段階に来て戸惑っていた。


「どうする?ワンデーパスポートなら一日乗り放題だぞ」

「それはいいけどよ〜〜ちと高校生には高くね?」

「だよな〜俺は乗り物そんなに乗らねぇからその下のやつでいいや。乗り物5回乗れれば満足でしょ」


男子達は、迷いながらもそれぞれに合ったチケットを購入した。

一方女子は、ワンデーパスポート一択だった。


俺は、SSEM事務所の関係者だから、今日1日は社員証を見せればフリーパスなのだが、敢えてワンデーパスポートを購入する。


トウキョウ・ドームシティアトラクションズの中に入ったみんなは何に乗るか協議してる。好き勝手に乗れば良いと思うのだが、そうもいかないようだ。


最初はやはりというか昨日も蓼科さんと乗ったサンダードルフィンだった。

みんなは、概ね組む相手が決まっているらしく鈴谷は立花と、瀬川は新井真吾と、そして南沢はいつもなら木梨が相手をしてたようだが、今回は俺の隣から離れない。そんな木梨を見て鴨志田さんも不思議に思っているようだ。

不満そうな鴨志田さんは佐伯楓と一緒に、俺は木梨と乗ることになった。

余った南沢は文句を言いながら俺を睨みつけて1人で座っている。


「なあ、俺と一緒に乗らなくてもいいんだぞ」

「私が勝手にしてるだけ。それに、それ、バレたら嫌なんでしょう?」


木梨は俺の額を指してそう言っていた。

確かに木梨は俺の素顔を知っている。

それを庇って一緒にいるようだ。


確かに風で俺の髪は乱れて傷が見えてしまうだろうが、きっと昨日の蓼科さんのようにスピード感を味わってそれどころだはないはずだ。


「多分、平気だぞ。経験済みだ」

「そうなんだ。でも、今更面倒だし」


カタカタと乗り物は上に、上にとゆっくり登っている。

そして、頂上の辿り着き乗り物が止まったような感覚から一気にスピードを上げて走り出す、というか落ちる。


蓼科さんはご機嫌で楽しんでいたが、木梨を見ると怖そうに震えて俺の腕に捕まっていた。


俺に捕まるより安全バーに捕まってた方が怖くないと思うのだが……


木梨は、「キャッーー」という悲鳴を上げながら掴む手に力が入る。

いつものクールさはどこにも見当たらない。


でも、終わりに近づくと慣れてきたようで、俺の腕を掴む力も弱まった。

そして、終点に着く頃には手を離して自分の安全バーを握っていた。


「お〜〜楽しかったな〜〜」

「うん最高!」


絶賛する声の多い中、俺と木梨は黙ったままだ。

別に怖かったわけではない。

俺を見つめる木梨の目力が強かったせいだ。

『絶対、言うなよ〜〜』みたいなオーラを出している。


そんな圧のある目で見られていたら、会話ができなくても当然と言える。


「東藤君、どうだった?」


無邪気に感想を聞く鴨志田さんに俺は何と答えたら……


「ああ、手に力が入ったよ」

「そうだよね〜〜私も力が入ったよ。手を上げてる人って怖くないのかな?」

「怖くないから手を上げてるんじゃないか?」

「そっか〜〜そうだよね」


すると、前にいた鈴谷が


「お〜い、結衣。今度なに乗る?」

「あれかな?」


鴨志田さんが指さしたのは、スカイフラワーと呼ばれる高所からパラシュートで落ちるスリリングなものだった。


俺は心配になって木梨を見るとその顔は青かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る