第69話 金曜日は解放(2)



昼休み、生徒会長の白金結月から連絡を受け、弁当を持って生徒会室にお邪魔する。


穂乃果と神崎にはメッセージで、用事ができた旨を伝えてある。


生徒会室に入ると、そこにはフルメンバーが揃っていた。

5人の男女が一斉に俺に目を向ける。


「あ、東堂くん、いらっしゃい」


そう声をかけたのは生徒会長の白金結月だ。


「そこ座ってくれる。ほら、みんなも自己紹介して」


みんなが座っている会議用の大きなテービルの空いた席を勧められた。

テーブルの上にはそれぞれ弁当はパンなどが広げられている。


「会長、僕は納得できません。期間限定とはいえ、選挙もしないでこの者を生徒会の一員に加える事は僕らを選んでくれた生徒達を裏切る行為に繋がります」


眼鏡をかけた優等生タイプの奴が意見を言う。


「俺は構わないぞ。仕事が減るなら万々歳だ」


今度はスポーツマンタイプの男子が低い声でそう答えた。


「意見は後で聞きます。取り敢えず自己紹介しなさい」


今度は強い口調で会長はそう言い放つ。


「わかりました。僕は副会長の領内優也りょうないゆうや。2年A組に在籍している」

「俺は会計の綿貫浩司わたぬきこうじだ。3年A組、会長と同じクラスだ。よろしくな」

「私も会計を担当してます。篠崎夏美しのざきなつみ。東藤君と同じ2年生よ。クラスはB組。よろしくね」

「私は書記の白金葉月しろがねはずき、1年D組です。よろしくお願いします」


白金というと会長の妹か親戚かな?


「東藤和輝と言います。2年C組です」


『パン、パン』


会長が手を鳴らす。


「はい、よくできました。みんなに伝えた通り東藤君には、期間限定で私の補佐をしてもらいます」


「会長!補佐なら僕がいるではありませんか、こんな得体の知れない奴を仲間に受け入れる事はできません」


「あら、困ったわね〜〜。東藤君には私からお願いしたのよ。それに、東藤君は1度断られたの。そこを期限付きでお願いしたのだけど、領内君は私が決めた事が不服みたいね」


話す内容は普通だが、その口調には威圧が込められている。


「ですが、全校生徒が……」


「領内、会長権限で補佐を1人指名できる制度は、副会長のお前なら知ってるはずだ。それに異を唱える事は規則を蔑ろにする行為に等しいぞ」


3年の綿貫先輩は副会長を説得するが、俺はこんな面倒臭いところは正直ごめんだ。早く、帰りたい……


「ですが……」


「領内君、会長が決めたんだから私達はそれに従うだけよ。それに、これから秋にかけて生徒会選挙もあるし、文化祭や体育祭もあるのよ。人が増えるのは賛成だわ」


そう冷たく話すのは篠崎夏美、2年生だ。


「私も賛成です。3年生は受験も控えてます。忙しくなる時期には負担になります。それを軽減できる人材がいるので有れば積極的に採用すべきです」


意外としっかりしている1年生の白金葉月。

会長の妹だな、性格が似てる気がする。


「そういう事で領内君、賛成多数で可決という事でいいかな?」


生徒会長がそういうと、諦めたように領内優也はしぶしぶ認めた。





生徒会室メンバーとの顔合わせが終わり、弁当を食べて教室にさっさと戻った。

居心地の良くない場所に長いする必要もない。


時間はまだ余っている。

神崎はまだ戻って来ていない。


俺は久々に本が読めると思い、鞄を開いて本を取り出す。

そして、本を開いた瞬間、スマホが『ブルッ』と振動する。


確認すると蓼科さんからだ。

この人からのメッセージは、嫌な予感しかしない。

メッセージを読むと『明日午後1時、ラクーダ・ガーデンステージに集合」』と書かれていた。


日曜日のミニ・コンサートの下見か?

蓼科さん、1人で行けば済む話なのでは?


「俺もですか?」


とメッセージを送ると、即行で『当たり前!遅刻厳禁!』と送られてきた。


はあ〜〜〜〜。溜息しかでない。


そして、今度こそはと思い本を開くと、またスマホが『ブルッ』と振動した。


誰だよ……


俺はメッセージを開いて驚く。

それは鈴谷からだった。

〜〜〜〜〜

「昨夜はありがとうございました。明日お時間ありますか?」

「土日と用事があって時間が取れない」

「そうですか、では来週の土日はどうですか?」

「今のところは予定はない」

「では、会って渡したいものがあります」

「わかった。間近になったらまた連絡を入れてくれ」

「はい」

〜〜〜〜〜


俺はチラっと鈴谷を見たら、飛び跳ねていた。


マサイ族か……


その隣にいる鴨志田さんは、何故か俺を睨んでる。


すると今度はミサリンこと瀬川美咲から連絡が入る。

〜〜〜〜〜

「さっき、羅維華から連絡きたでしょう?」

「来たぞ」

「私とは時間がないって言ってるのに羅維華には会うわけ?」

「今週は無理だ。来週なら予定はないと送っただけだ」

「そう、なら来週開けといてね」

「予定はまだ決められない。仕事が入るかも知れない」

「とにかく私の時間も作ってね」

「わかった」

〜〜〜〜〜


そう送り返すと、今度はミサリンが飛び跳ねていた。


マサイ族しかいないのか、このクラスの女子は……


でも、これって瀬川は鈴谷の事を知ってて俺とメッセージしてるんだよな。

鈴谷には内緒なのか?


と言う事は……マジで女は怖いという事だな。

まあ、ヘルスで働くほどぶっ飛んだ奴だから、納得はできるが……


いや、クラスメイトに黙ってる俺が1番の悪人というわけだ。

それを知ってる鴨志田さんが俺を睨むのは当然だ。

そういうことか……俺は鴨志田さんが何を言いかけたのか理由がわかった気がした。





放課後、今日は金曜日。明日と明後日は学校が休みというわけで、みんなは解放感を満喫してるように思える。

カラオケに行く者、ショッピングやデートを楽しむ者など浮き足立つのもわかる気がする。


沙希は友達と買い物に行くと、連絡が来ていた。


俺は帰ろうとしたら、メッセージが入る。

見たら神崎からだった。

内容はひと言『ごめん』と書かれている。


神崎を探すと教室にはいない。

今日は穂乃果と帰る予定のはずだ。


俺は意味がわからず、校舎を出ると校門のところが騒がしい。

誰か有名人でも来てるようだ。


「あれ、YUKITOだよね?読モの」

「本当だ!カッコいい」

「なんであのYUKITOがこの学校に?」

「わかんないけど、写真撮って呟いても平気かな?」

「この学校の卒業生だったんでしょう?」

「そう、私在学中見た事あるよ」


そんな女子達の会話が聞こえてくる。

俺は、そんな騒ぎの中を通りすぎようとしたら、手を『ガシッ』と捕まれた。


俺の手を掴んでる相手は、女子達が騒いでる張本人のYUKITOと呼ばれる男性だった。


「君が東藤君だね?」

「ええ、そうですけど、どちら様ですか?」

「ちょっと時間もらえないか?」

「……用があるんですね?」

「そういう事だ。物わかりの良い奴は好ましいよ」


いちいちカッコつける人らしい。

こいつが話す度に周りの女子が『キャー』っと騒ぐ。


仕方なく、俺はそのカッコつけイケメンの後に続いた。

彼が向かった先は、並木道から外れた趣のある喫茶店だった。


殴られるわけではないようだ。


喫茶店に入ると中は落ち着いた雰囲気で白髪頭のマスターらしき老年の男性がコーヒーを入れていた。

店内は、近所の常連さんらしき人物が数人いるだけだが、この雰囲気は俺も好みだ。

奥の座席を見ると、見知った女子が2人いる。

穂乃果と神崎だった。

神崎は申し訳なさそうに小さく手を振っていた。


「一緒に帰ったんじゃないのか?」


俺がそう尋ねると、


「ごめん、お兄ちゃんが来ちゃって……」


このカッコつけイケメンは神崎の兄のようだ。


「ああ、そうか、神崎のお兄さんか、周りの女子が読モ、読モって騒いでたのはそういう訳か」


俺は、答えを得られたことに納得する。

しかし、納得しない男もここに1人いた。


「東藤君、そこに座りたまえ」


神崎の兄は、俺を穂乃果の隣に座らせた。

穂乃果は、無邪気にケーキを食べていた。


「東藤君、ごめんねお兄ちゃんがいきなり会いに来ちゃって」

「いや、構わないよ。特に何かされたわけではないし」


神崎と話してるとその兄は面白くなさそうに話しだした。


「東藤君、妹の陽奈と同じクラスなんだって?」

「そうですけど」

「君は、陽奈の素顔を知っているんだろう?」

「ええ、読モとかいうファッションの仕事をしてると聞いてます。実際、その仕事のおかげで神崎には助けられましたし」


「そう言えば昨日の電話何だったの?」


神崎は話に割り込んできた。


「ああ『苺パフェ8』という小学生高学年を中心としたアイドルグループがいるのだけど、その衣装の発注ミスでコンサートに間に合わなくなちゃったんだ。それで、子供達に人気のあるブランドの服を急遽揃えることになって、神崎に聞いたんだよ」


「東藤くんはなんでそんな事してるの?」


「それは俺が1番知りたい事なんだが、蓼科さんというマネージャーさんと知り合いになって、強引に補佐を頼まれたんだよ」


「ふ〜〜ん、東藤くんも業界の人だったんだあ」


「俺の知らない間にそうなってただけで、これは俺の意思ではないぞ。それに、苺パフェ8のメンバーの中に穂乃果の妹もいるしな」


「そうなんだ、コンサートいつやるの?見に行きたい」


「明後日の日曜日だぞ、確か神崎は仕事があると言ってなかったか?」


「そうだった、残念だなあ〜」


すると今度は神崎兄が話に割り込んできた。


「ちょっと待てーー!!話が見えない。東藤君は業界の人間なのか?」


そう聞かれて、俺は財布の中にあるSSEM事務所の名刺を渡す。


「一応、契約社員みたいです」


「サンセット・サンライズ・エンターテイメント・ミュージックだと?大手じゃないか。それに、今人気の『FG5』のメンバーが在籍してる……」


「ええ、蓼科さんは『FG5』のマネージャーで俺はそのサブマネージャーをしてます」


すると神崎兄妹は驚いて俺を見る。


「東藤君があの高校生サブなの?」

「君が『FG5』の高校生サブだったのか?嘘だろう……」


あれ、これって話してもOKなんだよね?


穂乃果は今度はチーズケーキを注文してた。


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