第49話 欲まみれの嘘
芹沢アヤカの学校に迎えにいった俺は、事務所まで同行する事になり、マネージャーの蓼科さんに捕まって、今度売り出す「苺パフェ8」のメンバーを紹介された。
驚く事に樫藤花乃果、穂乃果の妹がメンバーの中にいたのである。
しかし、『苺パフェ8』のメンバーはやる気が無く、レッスン中だと言うのに、講師もいない。つまり放置されていたようだ。
俺は、その理由を聞きに蓼科さんを探して事務所というか会社内を探していたら、急に男性社員から呼び止められた。
「君、見ない顔だけど誰?」
「蓼科さんのサブについてる東藤です」
「蓼科さんの?聞いてないな。君、ちょっと怪しいな」
その30歳代前半の男性社員は、俺を不審者を見るようにジロジロ見ている。
すると、近くてデスクワークしてた女性社員が
「山田くん、その子、噂の『FG5』の謎の高校生マネージャー男子ですよ」
助け舟を入れてくれた。
それにしても、謎の高校生マネージャーって……
「そうか、君があの噂の〜〜、失礼した。外に出かけることが多くて君の顔を知らなかったんだ。でも、社員証ぐらいつけとかないとダメだぞ」
そうだった。
すっかり忘れていた。
俺は慌ててバッグから社員証を取り出して胸に付ける。
「忘れてました」
「それを付けてないと俺みたいな奴が不審がるから注意してくれ」
「はい、すみません。それと蓼科さん、見かけませんでしたか?」
社員に聞く方が手取り早い。
「俺は見かけてないけど〜〜」
すると、さっきの女性社員が
「蓼科さんは、さっきスキップして外に出て行きましたよ。カフェラテ、カフェラテとか言ってました」
マジでサボってるみたいだ。
「はあ、そうですか……」
そうだ、この人達に『苺パフェ』の事を聞いてみよう。
「あの〜〜ちょっとお聞きしたいのですが『苺パフェ8』のちびっ子達ってやる気がないというか、全然、レッスンしてないんですけど、どうしちゃったんですかね?」
「ああ、『苺パフェ』ね」
女性社員は何か知ってるようだ。
すると、今度は男性社員の山田が
「苺パフェはね、ちょっと特殊なんだよ。実はこれはオフレコなんだけど、うちの会社の付き合いのあるお偉いさんやテレビ局のお偉いさん達の娘や孫娘なんだ。全員がそういうわけではないのだけど、その人達から頼まれてね。アイドルの席に入れてるんだよ。でも、君が言った通り、性格に難ある子が多くて放置状態なんだ」
コネ入社の我儘社員みたいなものか……
「そうでしたか、事情はわかりました」
あのちびっ子達の数人は、そういう事情でグループにいるらしい。
それでは真剣に取り組もうとしてる子達が可哀想だ。
でも、これって俺の仕事か?
なんか違うような気がする。
蓼科さんからは「見ててくれる」と頼まれただけだし、「どうにかして」と言われたわけではない。
うん、俺には関係ない。
結論が出たところで帰ろうとすると、そこに蓼科さんが慌てて駆けつけてきた。
「ハア、ハア……東藤君、どうしよう!」
その顔はさっきと違って真っ青な顔をしていた。
◇
「つまり、『苺パフェ8』のメンバーの駒場アキの祖父であり駒場ミュージック・ジャパンの会長を務める駒場源之助から孫の晴れ舞台が見たいと連絡があり『いつコンサートをするのかね?』と催促されたので、焦った蓼科さんは『来週の日曜日の予定です』と口から出まかせを言ってしまい困ってるというわけですね」
俺が蓼科さんの話を聞いて要約すると、蓼科さんは奈落の底の落とされたような顔をしていた。
「蓼科さん、それ無理ですよ。何せ彼女達はレッスンらしいレッスンをしてないし、歌も踊りも素人以下ですよ。そんな彼女達にコンサートなんて……俺、聞かなかったことにします」
男性社員の山田はそう言って立ち去って行く。
「あの〜〜私も聞かなかったことのしていいですか?」
デスクワークしてた女性事務員さんもその場から離れようとしてる。
「待って!田中ちゃん、貴女だけが頼りなの、お願い!」
必死な形相の蓼科さんに言い寄られる女性事務員の田中さん。
その場を逃げ出すチャンスを逸したようだ。
「はあ〜〜わかりました。私に出来ることは会場を押さえることしかできませんよ」
観念したのか、諦めたように連絡先が載っておる住所録を取り出した。
「ありがとーーう!田中ちゃん」
必死すぎる蓼科さん、俺もこの間のこの場を立ち去ろうとした……がっ!
「東藤君、どこ行く気?」
蓼科さんに肩を掴まれてしまった。
「俺ですか?」
「そう、東藤君……手伝うわよね?」
「俺はただの高校生ですし……」
「手伝うわよね?」
物凄い迫力だ。
目力がハンパない。
まるで雫姉のようだ。
「わ、わかりました」
俺は、そう返事をしてしまった……してしまったのだ。
◇
俺は応接室にいる。
目の前には蓼科さんが頭を抱えていた。
会場は有能女性事務員の田中ちゃんが、手配してくれた。
強引にネジ込んだ為、会場使用料は通常の1、5倍らしい。
勿論、その穴埋め分は蓼科さんのボーナスから差し引かれるようだ。
「東藤君!こうなったらあの子達を一流にして私のボーナスを取り戻すわよ!」
「俺、関係ないですよね?「FG5」のサブですし、『苺パフェ8』は今日初めて顔合わせしただけですし……」
「そんなことはどうでもいいの!私はね。ボーナス見込んでマンションを買ったのよ。もう、頭金も払ってあるの。買ったそばから売り出すわけにはいかないでしょう。ねえ、そう思うよね?」
蓼科さん、マンション買ったのか。
婚期がますます遠くなりそうだが……
「でも、苺パフェはオリジナル曲が一曲も無いと聞きましたけど、歌と踊りはどうするつもりですか?」
「それは、あれよ。『FG5』の曲をすればいいのよ。同じ事務所だし問題ないわ!」
「俺、音楽のことはよくわかりませんけどオリジナル曲が一曲もないなんてメンバーの子達が可哀想ですよ」
「じゃあ、東藤君、それお願いね」
「はい!?」
「言い出しっぺでしょう。なんとかしなさい」
「来週の日曜日なんですよ。実質、12日しかありませんよ」
「東藤君、戦いはもう始まってるの。勝ってこその戦なの。負けたら死あるのみ。生き抜いて新築マンションに住みたいでしょ!」
はあ、今の蓼科さんに何を言っても無理そうだ。
蓼科さんとの応接室での会議?の結果、俺と蓼科さんは苺パフェのメンバーがいる第二レッスン室に来ていた。
「来週から合宿を行います!」
そう大きな声をあげたのは蓼科さん。
彼女にはもう後がないほど追い詰められている。
その迫力にみんなはビビっていた。
「いきなり言われてもね〜〜」
メンバー達は、ビビりながらも反論する。
「どこで合宿するんですか?」
「学校はどうするの?」
そう、彼女達はまだ小学生。
親の許可なしに合宿などできない。
それに毎日学校がある。
だが、苺パフェのメンバーは皆都内に住んでいる。
1週間程度なら、合宿先から通う事も可能だ。
「これは決定事項です。親御さんにはこちらから許可を頂きます。それで来週の日曜日のコンサートに間に合わせます!」
「コンサートできるんだあ」
「でも、曲ないよ」
まあ、そうなるよな……
「曲は『FG5』の曲をメインにしてオリジナル曲を1曲披露します」
「曲できたんだあ」
「どんな曲かな?」
ちびっ子達は嬉しそうだ。
だが、曲など出来ていない。
これは大人の吐く欲まみれの嘘だ。
「そういうわけで『FG5』の曲と踊りを各自練習する事。来週から本格的なレッスンに入ります」
蓼科さんの欲まみれの暴走は止まらない。
はあ、無理だろう、これ……
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