第48話 まさかの『苺パフェ8』のメンバー



まさかの6時間目も自習だった。

あまりの嬉しさに騒ぎ出す生徒達。

隣のクラスから苦情がきた。


俺は急いで課題を終わらす。

そして、その課題の提出を鴨志田さんにお願いして、急いで教室を出た。


電車を乗り継いで、ヨコハマへ。

そして駅でタクシーに乗ってアヤカの通う高校の校門前でタクシーを降りる。

運転手さんには、少し待ってもらうようにお願いする。


そして、アヤカの電話をかけた。


「今、校門前にいる」

『本当に来たんだあ、わかった、すぐ行くよ』


普通なら1時間以上はかかる距離だ。

でも、課題を早く提出して抜け出したおかげで早く来ることができた。

これなら、レッスンに遅れる心配もない。


校舎からアヤカが出てきた。

髪の毛は、いつもの銀髪では無く、ウエッグを被っているのか黒髪だ。

地味な眼鏡をかけていて、ひと目ではあのアヤカだと気付く者はいないだろう。


「サブちゃん、本当に来ちゃったんだ?それにしても随分早かったね」

「ああ、次の授業も自習だったんだよ」

「サボったの?」

「まさか、ちゃんと課題を終わらせている。さあ、タクシーを待たせている。行くぞ」


俺はアヤカを連れて待機していたタクシーに乗り込む。

そして、行き先を告げてそのまま事務所まで直行する。


「サブちゃん、通常の移動だと経費で落ちないかもよ」

「そうなのか?」

「うん、美春ちゃんが言ってたよ。甘えるんじゃねぇって」


そういえば、俺はこいつらのジュースとか買って領収書をもらっていない。

常に自腹で払っていた。


「俺、いつも自腹だったようだ」

「えっ、どういうこと?」

「領収書をもらってなかった」

「じゃあ、私達に買ってきたジュースとかアイスとかも自腹で払ってたの?」

「ああ、そういえばそうだ」

「もう、サブちゃんってバカなんじゃないの?」

「お前に言われたくない」


俺は、こいつらのパシリだったようだ。

だが、事務所からは、報酬がウィステリア探偵事務所に支払われている。俺の口座にも、この前の報酬がきちんと払われていた。


「お客さん、首都高に乗りますよ」


タクシーの運ちゃんがそう言ってきた。

その方が早いなら構わない。


「お願いします」


タクシーは、首都高へ。

渋滞箇所はあるが全体的に流れはスムーズだ。


「サブちゃん、髪の毛濡れてるよ」


傘をさしていても雨で髪の毛が濡れたようだ。

俺はバッグからタオルを出して髪の毛を拭く。

眼鏡に水滴が付いていたので、外してティッシュペーパーを取り出して水滴を拭き取る。


アヤカの奴、なんで俺を見てるんだ?


「どうかしたか?」


傷は隠して拭いてたつもりだ。

見られたという事はないはずだが……


「さ、さ、さ、さ、サブちゃん?」


「なに壊れてんだ?大丈夫か、しっかりしろ!」


アヤカは呆然として俺を見つめている。

口からよだれがこぼれそうだ。


「な、なんでもないから!」


「それより口閉じろ。汁がこぼれるぞ!」


「汁言うなっ!バカ、アホ、アンポンタン、死んじゃえ〜〜っ!」


ああ、これは傷を見られたようだ。

これで、3人目だ……


俺は、少し落ち込み、アヤカは怒ったのか無口になった。





気まずいまま、タクシーは事務所へ到着する。

アヤカは、あれから俺の顔を見ては顔を赤くしてそっぽを向く。

その繰り返しだった。


アヤカは事務所に着くと、駆け足でビルの中に入って行く。

俺は料金を現金で精算して、ゆっくり事務所に入った。


せっかくきたのだから顔出しでもと思ったのだが、早々に蓼科さんに見つかり連れさらわれた。


「蓼科さん、どこに行くんだ?」


「丁度良かったわ。私が今力を入れてる『苺パフェ』のメンバーが集まってるから顔出ししといて。私が忙しい時代理を頼むと思うから」


「他に社員いないんですか?なんで俺?」


「だって、東藤君、貴方ラッキーマンなのよ。貴方が『FG5』のメンバーのサブしてから急激にみんな頑張って今ではトップアイドル。サブマネージャーが高校生男子ってバレて人気も落ち込むどころか、逆に今まで知らなかった人も犯人探しをする様に知名度もアップ。そして、老若男女に人気もうなぎ登りなの。きっと貴方はあげチンなんだわ」


なんだ、そのあげチンって?


「まあ、理由はよくわかりませんけど、そのパフェの代理もする事になるかもしれないから顔合わせをしたいと、そういう事ですか?」


「そう!そして『苺パフェ』も人気アイドルに、私のボーナスもうなぎ登り、わかった?」


「はあ……」


この人、こんな性格だったんだ。

見かけは出来るOLタイプなのに……


「さあ、こっちよ!」


勢いある蓼科さんに何を言っても無駄だろう。

俺は黙って第二レッスン場に連れて行かされるのだった。





俺の目の前にはちびっ子達が、ずらりと並んでいる。

しかも8人も……


「東藤和輝君よ。『FG5』のサブマネージャーしてるのよ。さあ、みんな挨拶して。代理で『苺パフェ』のみんなのマネージャーを頼む時もあるからね」


「あの人が噂の高校生マネージャーなの?」

「なんか想像してたのと違う」

「ちょっとダサいかも〜〜」

「う〜〜ん、ちょっとね〜〜」


本人を目の前にしてそんな声がチラホラと聞こえてくる。


「ほら、ほら、自己紹介しなさい!」


蓼科さんに言われて仕方なく話し出すちびっ子達。


「リーダーの神泉ミユウです。小学校6年生です」

「駒場アキ、小学6年です」

「池上ツカサです。 小学6年生です」

「北沢シオリです。小学5年です」

「代田アカネ、小学5年」

「松原サオリ 小学4年生です」

「永福ココミ、小学4年生」

「…………です。小学5年生です」


最後の子の名前が聞き取れなかった……

でも、なんか知ってる気がする、この子……


「えっと、最後の子、名前が聞き取れなかった。すまん、もう一度言ってくれる?」


「…………です」


これはわざとかな?


すると、蓼科さんがその子の注意し出した。


「自己紹介は大切なのよ。何度もいってるでしょう?さあ、樫藤さんの番よ」


はっ!樫藤って、まさか……


「樫藤カノカです。小学5年生です」


あ〜〜やっぱり、穂乃果の妹だ。

初めて見たぞ。

言われてみれば、穂乃果にそっくりだ。


「はい、よくできました。じゃあ、レッスン始めてね。東藤君はしばらくこの子達を見ててくれる?私は、コーヒー……仕事があるから」


嘘が下手な人だ……


蓼科さんが去っていった後、レッスンするかと思いきや、ちびっ子達はスマホを取り出して何かをし始めた。


レッスンしなくていいのか?


俺は、穂乃果の妹のところに行き、そっと話しかける。


「俺のこと知ってる?」

「うん、お屋敷に住んでるカズキさんでしょう」

「このこと穂乃果は知ってるのか?」

「ううん、内緒なの」

「だから、俺にバレるのがやだったんだ」

「このことお姉ちゃんに言う?」

「言わないよ。守秘義務だ。でも、いずれバレるぞ」

「その時は、なんとかする」

「わかった。約束する」

「ありがとう」


カノカの事は穂乃果には内緒だ。

穂乃果と姉妹なのに、カノカは人見知りしない。

顔は似てても性格は違うようだ。


でも、なんで誰もレッスンしないんだ?


「なあ、なんでレッスンしないんだ?」


「はあ、そんなのあんたに関係ないじゃん!」


いきなり喧嘩腰に言ってきたのは、駒場アキって子だ。

リーダーの神泉ミユウは慌ててる。


「でも、レッスン時間もったいないぞ」


「え〜〜とね。まだ曲が出来上がってこないんだ。だからレッスンしたくてもできないんだよ」


事情を話してくれたのは池上ツカサ。

でも、やれる事はあるはずだ。


俺はカノカに事情を聞く。


「いつもこうなのか?」

「うん、だいたいそう」

「講師の先生は?」

「滅多にこない」

「じゃあ曲っていつ出来るんだ?」

「わかんない。結構前から作ってるって言ってたけど」

「そうか……」


これって放置されてるのか?


蓼科さんに聞かないとわからない。


それより、みんなのやる気のなさが問題だと俺は思っていた。





〜芹沢アヤカ


「アヤカ、どうしたの?今日は調子悪そうよ」


そうリリカちゃんに言われた。

武道館ライブの練習で、リリカちゃんと2人で昭和時代の歌謡曲の練習をしている。


私達の持ち歌はまだ、そんなに多くない。

だから、持ち歌は以外を歌ってその分の穴埋めをするのだ。


「歌詞は覚えたんだけど、振り付けが怪しいとこがある」


他のメンバーも昔の歌謡曲の練習をしている。

お母さん世代のヒット曲らしく、聞いたことのない曲も多い。


でも、私の不調はそんなことではない。

サブちゃんのせいだ。


「なんであんなにカッコいいのよ……」


雨に濡れた髪をタオルで拭いていたサブちゃん。

眼鏡を外していて、初めて素顔を見た。


私は脳天に雷が落ちたように全身が痺れた。

身体中の汁が出てしまいそうになる。


「あ〜〜あ……」


「今日はこれくらいにしとこうか?調子が悪い時って覚えも悪いしね」


「ごめんね。リリカちゃん」


「そんな事はないよ。何時もならそのセリフは私が言われるんだから」


最近のリリカちゃんは調子がいい。

それに、キラキラ輝いている。

まるで恋する乙女のように……


その時、私は気付いてしまった。

リリカちゃんはサブちゃんの素顔を見たことがあるんだ。

だから、リリカちゃんはサブちゃんに……


「なんかズルい……」


私だって……


サブちゃんとのメッセージのやりとりは楽しい。

それに彼は隠れてイケメン。

しかも、その素顔は私のタイプそのもの。


まだ、リリカちゃんと付き合ってる様子はない。

て、ことは……私にもチャンスがある。


私は休憩しながらサブちゃんを手に入れるイメージを脳内で何度も練習した。


よし、決めた!武道館ライブが終わったら私、サブちゃんに……


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