第43話 仕事で北キュウシュウへ
放課後になり、俺は鴨志田さんと佐伯さんの3人で、駅前のハンバーガー屋さんで軽食を食べてる。
俺に用みたいなのだが、2人は仲良くパクパクポテトを口にしてた。
「そう言えば東藤君って中等部の神宮司さんと付き合ってるの?」
「付き合ってないよ。あいつはただの後輩だ」
「そうよね。結衣もそう言ってたし」
専ら話しかけてくるのは佐伯さんだ。
さっぱりした性格らしく、俺もあまり気を使う事はない。
「それで、東藤君、今、好きな人っている?」
『ぷはっ!』
鴨志田さんは、飲んでたコーラを少し吹いた。
「結衣、何やってんのよ〜〜」
佐伯さんは、鴨志田さんを窘める。
「楓、東藤君に何聞いてるの?」
「あんたはちょっと黙ってて!」
今度は怒られていた。
「好きって恋愛とかの好きか?」
「他に何があるの?」
「人類愛とか?」
「そんなスケールの大きい好きじゃなくって身近な人のことを聞いてるの!」
今度は俺が怒られた。
「そういう意味ではいない」
なんでそんな事を聞くのだろう?
「良かったね。結衣」
佐伯さんはそう鴨志田さんに言っていた。
俺だってバカじゃないから、そういう空気は読める。
でも、鴨志田さんには傷を見られてから避けられているし、俺の事を好きだとは思えない。
もしかしたら、あの日下病院のみどり先生が人の痛がる姿を好きなように、鴨志田さんは傷フェチなのかもしれない。
そういえば鴨志田さんはみどり先生の話を佐伯さんにしてたっけ。
「東藤君、そんなんじゃないの。つまりね、その〜〜」
焦ってる鴨志田さん。傷フェチがバレるのを必死で隠そうとしてるに違いない。
「結衣は、今度の日曜日に遊園地に行こうって言ってるんだよ」
「そうなんだ」
あの言葉からよく鴨志田さんの言いたいことがわかるものだ。
「そうなんだじゃないよ。東藤君も行くんだよ」
「えっ、俺も行くのか?」
「なに当たり前の事を言ってるの?日曜日の朝10時イケフクロウの前に集合ね」
勝手に決められてしまった。
「わかった」
俺は佐伯さんの迫力の前にそう言うしかなかった。
◇
3人で駅前のハンバーガーショップで軽食を楽しんでると、スマホが振るえた。
俺はスマホを取り出して内容をチェックする。
聡美姉からだ。
「誰から?」
そう聞いてきたのは佐伯さんだ。
「俺がお世話のなってる家の人だ。用事ができた。すまない」
俺は急いでハンバーガーショップを出る。
そして、聡美姉が指定した場所にタクシーで向かった。
着いた場所は羽田空港。
聡美姉と落ち合い、今、北キュウシュウ行きの飛行機の搭乗手続きを済ませたところだ。
「急にごめんね〜〜」
「構わない。元といえば俺が受けた仕事だ」
飛行機に乗り込んでテイクオフ。
飛行機は雲の上を飛んでいる。
「メイは屋敷の警護か?」
「雫ちゃんと珠美のお迎えに行ってるはずだよ。私は、別件で呼び出されてそのまま羽田に来たんだ」
「そうか」
メイが残ってるなら安心だ。
「そうそう、これ」
俺は1通の手紙を渡された。
差出人は書いていない。
「これは?」
「さあ、誰でしょう?私はこれを受け取りに行ってたのよ」
俺はその手紙をポケットのしまった。
「あれ、読まないの?」
「聡美姉が直々に取りに行く相手が想像できる。それなら、これは仕事が片付いてからじゃないと読めない」
「そう、カズ君がそう言うなら」
おそらく手紙は、百合子からだろう。
これを読んで俺の精神が不安定になったら仕事どころではない。
「ところで目的地は北キュウシュウのどこ?」
「違うよ。コクラってとこ。飛行機着いたらタクシーで移動だよ」
「わかった。で、そのコクラでヤルのか?」
「まだ、その段階じゃないよ。怪しい人物がそこに居るからちょっと揺さぶりをね〜〜」
「そう言うことか」
今日は移動で終わりそうだ。
明日は学校休みだな。
聡美姉は、タブレットを出していろいろ確認している。
仕事モードに入ったらしい。
俺は邪魔してはいけないと思い、古本屋で買った本をバッグから取り出した。
その際、スマホにメッセージが届いてるのを知り相手を確認する。
沙希からだ……
「明日は一緒に登校できますよ」と書いてあったが。俺の方が無理だ。
俺は、明日は用があって学校を休む旨を返信しといた。
他にも『FG5』のメンバー全員からメッセージが入ってる。
特に関内ミミカからの連絡が面倒くさい。
「数学教えて」と書いてあり、問題がずらりと並んでいた。
俺はそれらをひとつひとつ解いて返信する。
メイからも連絡が入っている。
「こっちは任せてよネ。明太子食べたいのネ」と、ちゃっかりお土産の催促まで書きこんである。
メッセージの対応に追われて本を読むどころではなく、飛行機はいつの間にか北キュウシュウ空港に到着しようとしていた。
◇
空港からタクシーに乗り、コクラ駅へ。
それから、直ぐに山陽新幹線に乗ってコクラのホテルに着いたのは、夜の9時過ぎだった。
「急ぎだったから、ここしか取れなかったんだ〜〜」
ホテルの部屋はデラックスツインルーム。
一晩、聡美姉と一緒らしい。
「俺は構わないが、聡美姉は俺と一緒の部屋で平気なのか?」
「大丈夫だよ。だってカズ君だし」
「それより、明日は対象の住んでるマンションへの侵入だよ。本人は単身赴任でいないけどピッキングは大丈夫?」
「大抵のものなら直ぐに、少し複雑なタイプなら5分以内にできると思う」
「さすが、カズ君、天下の大泥棒になれるね」
そんなものにはなりたくない……
「じゃあ、私、先のシャワー浴びちゃうね。カズ君も一緒に入る?」
「聡美姉の後でいいよ。俺は近くのコンビニで買い物してくるよ」
「残念、じゃあね〜〜」
そう言って聡美姉はバスルームに入っていった。
俺はコンビニに必要な物を買い揃えに行く。
エレベーターでエントランスに行き、コンビニまで行く。
むわっとした湿気を含んだ外気に一瞬で包まれた。
コンビニは見えるところにある。
駅に向かって歩いて行くと、酔っぱらった若いチャラ男達が方言で喋っており、言ってる意味がわからない箇所がある。
コンビニに入って水やジュース。それと軽食用に菓子パンやお菓子を買う。ついでにアイスも買っておいた。
会計を済ませてホテルに戻ろうとすると、パーカーを頭から被った女子中学生くらいの子が俺をジッと見てた。
俺は気にしないで、コンビニを出るとその子もついて来る。
構わずホテルに戻ろうとしたが、さっきの酔っ払いのチャラ男達に絡まれてしまったようだ。
「なあ、なあ、こんな夜遅くに何しよっと?」
「どっか遊びに行こうや」
ああ、絡まれてる……
「いやや、離せ!」
「なあ、俺たちと楽しいことしに行こうや」
「いや、いかん。お前らしつけぇんちゃ!」
腕を掴まれたようだ。
これ以上はマズい。
はあ、面倒くさい。
俺は、そのチャラ男の背後に周り首筋のところを手刀で叩く。
その場に崩れて倒れるチャラ男達。
酔っ払って寝てしまった風を装ってみた。
俺はその絡まれてた子の手を掴んでその場から離脱した。
ホテルに連れて行くわけにもいかず、ホテルの先にある広そうな公園に足を運ぶ。
息切れするその子は、体力があまりなさそうだ。
腕を掴んでいたが、その腕は痩せていた。
ベンチを探して2人で腰掛けた。
「なあ、なんで俺の後をついて来たんだ?」
「…………」
『ギュルルルル』
俺の問いには答えず、代わりにその子のお腹の音が鳴った。
焦っているのか、恥ずかしがっているのか、慌ててる。
腹を空かしてるようだ。
俺は買ったばかりのパンとジュースをその子に渡す。
すると、俺を見てそのパンの包みを開けて食べ始めた。
まるで、腹を空かした子犬の面倒をみてるようだ。
「俺はそろそろ行くけど1人で帰れるか?」
すると、その子は食べながら首を横に振った。
こんな遅くに1人腹を空かせていること自体、何か事情があるのはわかっていたが……
「はあ〜〜、仕方がない。今日はホテルに泊まるか」
そう言うと、何を勘違いしたのか、俺を睨んでいる。
「俺は地元の人間じゃないんだよ。仕事でこの街に来たばかりだ。ホテルには姉さんがいる。帰れないのならそこに泊まるしかないだろう?」
「…………」
何も言わずに首を縦に振った。
「じゃあ、行こうか、直ぐそばだから」
パンをひとつ食べ終えた少女は、俺の後をちょこちょこと着いてくる。
ホテルに入って受付でカードをだし、1人分の追加をお願いする。
その受付嬢は、俺の出したブラックカードを見て、直ぐに手続きをしてくれた。
直ぐに部屋に簡易のベッドを追加してくれるそうだ。
その女の子は、服や顔も汚れていて何日も家に帰ってなさそうだ。
それに、パーカを頭から被っているので顔すらよく見えない。
「聡美姉、なんて言うかな?」
「それ、お姉しゃん?」
「そうだ。血は繋がってないが、一緒に仕事をしてる」
少女は、俺が仕事をしてると聞いて少し驚いていた。
そういえば、俺は制服のままだ。
俺は憂鬱な気分でホテルの部屋の鍵を開けた。
※ 方言自信ないです
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