第22話 迎えに来たのは




「グーグ、迎えに来たのネ」


メイは電車を乗り継いで迎えに来たらしい。

日本の事はまだ不慣れなのに、よくここまで辿り着いたものだ。


「メイ、よく迷わなかったな」


「グーグのいる場所なら問題ないネ。ところでその女は誰?」


狐目が妖しく光る。


「同じクラスの生徒だ。休んでた時の授業のノートの写しをもらったんだ」


「ふ〜〜ん、そうなのネ」


メイは鴨志田さんをジロジロ見つめてそう言った。


「あ、そうだ。鴨志田さん、こいつはメイファン。俺の妹的存在だ。メイ、こちらは鴨志田さんだ」


そう言うと、真面目な鴨志田さんは『鴨志田結衣です。東藤君のクラスメイトです』ときちんと挨拶した。


「ほら、メイも挨拶しろ」


コツンと頭を軽く殴ると痛がったフリをする。


「わかったネ。メイファン。よろしくネ」


すると、鴨志田さんが少し興奮気味で


「メイさんって可愛いですね。特に目が素敵です」


「メイ、褒められてるぞ」


そんな事は気にもしないで俺の腕を組んでくる。


「なんでメイの目が素敵なんだ?」


「私が読んでる少女漫画の主人公の恋人が少し吊り目なんです。素敵なんです。格好良いんです」


漫画のキャラに似てたのか……


「良かったな、メイ。格好良いってよ」


「メイは女の子に褒められても嬉しくないネ。グーグなら大歓迎ネ。それより、あの、ふわっとした食べ物何ネ」


「あれはクレープですよ。良かったら食べませんか?」


「そうだな、鴨志田さんにはノートのコピーもらったし、俺が奢るよ。何がいいんだ?」


「お店のメニュー見てから決めるネ。早く、早く」


鴨志田さんとメイを連れ添って、クレープ屋さんの前でメニューを見てそれぞれ食べたい物を買った。


店の横にあるテラスにテーブルと椅子が置いてあり、ここで食べれるようだ。

何人かの先客がいるようだが、俺達は空いてる席に座った。


「グーグ、これ美味しいネ。今まで食べた事ない味ネ」


「確かに一緒に暮らしてた時、クレープなんて食べた事無かったな」


「東藤さんとメイさんは一緒に暮らしてたのですか?」


「そうネ、2年間毎日一緒だったね」


メイがドヤ顔してるが、何にドヤってるんだ?


「そうなんだ。私、一人っ子だから兄妹とか羨ましい。これチョコだからメイちゃんちょっと食べてみる?」


鴨志田さんは、自分の分をメイに差し出す。

メイは一瞬戸惑っていたが、誘惑には勝てなかったようで『パクリ』とかじりついた。


「グーグ、チョコも美味しいネ」


「それは鴨志田さんに言え」


「……あ、ありがとう、美味しかったです……ネ」


壊れかけのメイを見るのは新鮮だ。


「どう致しまして」


そう微笑む鴨志田さんの笑顔にメイもやられたらしい。

嬉しそうに、自分の分を鴨志田さんに差し出した。


「メイさん、美味しいよ」


「うん……」


恥じらうメイ。


「メイがそんな顔するなんて初めて見たよ」


「煩いネ!バカなのね〜〜カズキは!」


慌ててたのか、俺の名を呼んだ。

いつもはグーグなのに……


『ガタンッ……』


俺の座ってる後ろの席が突然、倒れた。

女性が慌てて立った反動で椅子が倒れたらしい。


「あっ、すみません」


慌てて椅子を元に戻そうとする女生徒。

しかし、その顔は見た事がある。


お互い、目が合った瞬間……



「「あーーっ!!」」



「あの時の泣き虫先輩!」


「S……あの時の電車の子」


慌てて名前を呼んでしまうところを上手く訂正した。


こんなところで会うなんて……



沙希……





妹の沙希と偶然、会ってしまって動揺している俺。

そんな沙希に『泣き虫先輩』と呼ばれ、かなり凹んでいる。


すると、先と一緒にいた女の子が鴨志田さんに向かって話しかけた。


「鴨志田先輩ですよね。中学の時バトミントン部にいた」


「そうだけど、あっ、1年生だった瑠美ちゃん?じゃあ、そっちは沙希ちゃん」


「そうですよ。忘れないで下さい。先輩は高等部でバトミントンしてないのですか?」


「うん、高校に入って辞めたの。今は美術部よ」


「そうですよね〜〜うちの部弱いし、今日も先週の大会で沙希と組んで一回戦負けしたんで残念会みたいなものしてました。もう、3年生はこれで実質引退みたいなものですから」


2人、いや沙希も知り合いみたいだから3人か、仲良く話している。


俺と沙希は気まずい感じで立ったままだ。


「一緒に食べようか?」


そんな俺と沙希を見て鴨志田さんはそう言ってしまった。


俺の様子がおかしいのでメイは怪しんでいるし……

どうなるんだ?


椅子とテーブルをくっつけるように並べて各々が座る。

何故か俺の隣に沙希が座るセッティングになった。


「そう言えば2人は知り合いなの?」


鴨志田さんは俺と沙希に向かって話しかける。


「え〜〜と、先輩は電車で困ってたところ助けてくれたんです。あの時はありがとうございました」


「お礼はいいよ。あの時も言われたし……」


何故か心臓がバクバクしている。

そんな俺を見てメイは何かに気付いたようだ。


「私はメイファン、グーグの妹的存在ネ。貴女は?」


明らかに沙希に反応している。

メイは、俺が沙希と百合子を見守る為に日本に来た事を知っている。

名前もその時教えたはずだ。


「あ、私は神宮司沙希です。皆さんと同じ学園の中等部三年です」


「私は桜木瑠美です。沙希と同じ三年生。よろしくね」


ああ、やはり沙希だったか……


神宮司と改めて聞いて俺は妙に納得した。


みんなが俺を見てる。

そうか、自己紹介か……


「東藤和輝です。高等部の二年生。今年度から海外から転入してきたばかりです」


なんとか噛まずに言えた。


『カズキ……』


沙希は小さな声でその名前を復唱していた。

俺はメイの顔を見て、気付いていることに確信を得た。


「沙希は可愛いネ、もしかしてお兄さんとかいる?」


「えっ、あ、その〜〜兄は居ましたけど……小さい頃に行方不明になりました」


「それは、すまなかったネ。謝るよ」


「いいえ、もう、過去の事ですから……」


こんな落ち込んでる沙希に俺は何をしてあげれるのだろう……


「そうだったんだ。沙希、私初めて聞いたよ」


「うん、誰にも言って無いから。瑠美、黙っててごめんね」


「いいんだよ。そういう事は家庭の事で胸の内に秘めとくものだし、謝らなくていいから」


「うん、ありがとう」


沙希がそう言う。


「生きてると良いですね」


鴨志田さんはそんな沙希を見てありきたりな事しか言えなかったのだろう。


俺は生きてここにいるが、この場はもう限界だ。

俺には耐えられない。


「グーグ、逃げちゃダメネ」


察しの良いメイは俺の行動がわかったみたいだ。

だが、俺は……


「そう言えば、さっき東藤君を見て泣き虫先輩って言ってたけどどうして?」


鴨志田さん、それは俺には酷な事なんだよ……


「それはですね。先輩。沙希から聞いたんですけど、電車の中で沙希を助けて顔を見たらそこの先輩が泣き出したそうなんです。それで泣き虫先輩って私が命名しました」


「瑠美、やめて、失礼でしょう!」


沙希は慌てて留美を叱った。

そんな瑠美はマズいと思ったようだ。


「あっ、そうだよね。ごめんなさい」


「ああ、気にして無いよ。事実だしね。もう、この話はお終いにしてくれ」


「はい、わかりました」


素直にそう話す沙希。

良い子に育ったようだ。


「私、こっちに来て日が浅いネ。友達少ない、だから連絡先交換して欲しいネ」


「そうそう、私も東藤君と交換したかったの。怪我した時、連絡出来なかったから」


「そう言えば先輩、めちゃ怪我してますね。どうしたんですか?」


「いろいろあったんだよ」


「もしかして、爆発事件の時のパニック男子って先輩ですか?」


瑠美という少女は突撃タイプの女性のようだ。


「パニックって?窓から飛び降りたけど、それは必要な事でパニクってたわけじゃないよ」


俺はみんなにそう思われていた事を初めて知る。

原因は俺の前にいる奴なんだが……


メイはニタニタしてるし、もう、帰りたい。




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