第37話 俺たちは、旅に出る

「そ、そういうことか──」


 ジルヴィーさんも、中間管理職みたいで大変なんだな。確かに妥当だ。

 まあ、仕方がない。誰かがやらなくてはいけないことだったんだ。たまには、貧乏くじを引いてやろう。


「わかったよ。王都に行けばいいんだろ。だが、保証はできないぞ。それは約束だ。メルア、ダルク。長い旅になると思うけどいいか?」


「私は、いいよ。お父さんがうるさく言ってくると思うけど、頑張って説得するよ」



「俺は大丈夫だぞ。なんか楽しそう出し。行ってみたいぞ」


 二人とも大丈夫なようだ。じゃあ、決まりだな。


「わかりました。私達でよければ、協力させていただきます」


「そ、そうですか。ありがとうございます。お願いします。どうかルナを救ってください!」


 シェルムさんが思いっきり頭を下げる。とりあえず、王都へ行くことは決まった。これから準備をしなくちゃ。


 それから、シェルムさんから簡単な説明を受ける。街の決まりや組織の説明。

 それが終わると、俺たちは家へ帰る。

 ネフィリムフィアへ旅立つのは明後日だそうだ。それまでに、準備や話をしておかないと──。


 それから俺とダルクは教会へ帰った。帰ってそうそう、明後日王都ネフィリムフィアへ行く。しばらく帰れないということをコルテスさんに話す。

 コルテスさんが首を縦に振ってくれるか、心配だったが、それは杞憂に終わる。


「そうかい。大変だろうけど頑張りなさい。それに、若いうちはいろいろな所に行って、見て回ったりして、いろいろな経験を積んだ方がいいと思う。勝手ながら、応援させてもらうよ」


 すんなりOKしてくれた。経験深い言葉、ダルクは無邪気に喜んでいたけれど、大切にしておこう。



 そして、旅立ちの日。

 荷物を片手に、俺とダルクは教会の前で神父のコルテスさんや子供たちに別れの挨拶をする。


 子供たちは、さみしそうに挨拶をする。


「信一さん。ご飯作ってくれてありがとう。じゃあね」


「信一さん。今までありがとう。また帰ってきたら一緒に遊ぼう」


 中には目の涙を浮かべている子供もいた。心配するな、絶対帰ってくる。ダルクも、元気そうに「じゃあな、お前ら」とあいさつ。


 双方気を使っているのだろう。子供たちもダルクをいたわっている。仲がよさそうなやり取りだ。


 最後に、神父のコルテスさんがさみしそうな表情で別れの挨拶をしてくれた。


「こちらこそ、いままで、ありがとうございました。しばらく会えなくなりますが、この恩は決して忘れません。また会いましょう」


 別れの挨拶だ。子供たちのみんな、コルテスさん。しばらく会えなくなると思うと、悲しい気分だな。


「絶対帰ってくるから。みんな、じゃあね」


 大きく手を振り、俺たちはギルドへ。みんな、今までありがとう。絶対戻ってくるから!




 そこからギルドへ。すでにシェルムさんは、幌のついた馬車の横に立っていて、準備は済んだという形だ。


 そして入口にはメルアと、ジルヴィーさん。それと知り合いの冒険者が数人。

 ジルヴィーさんに別れの挨拶をする。


「では、行ってきます。何とか、力になれるように頑張ります」


「ありがとう。けど無理は禁物だ。危ないことがあったら、生き残ることを第一に考えてくれよ」


「おう、わかったわかった!」


 ダルクが俺の代わりに元気に返事をする。

 シェルムさんが「準備ができました」と話しかけたので、俺たちは馬車の中へ。


 メルアは、生まれて初めて馬車に乗るようで、ワクワクしながら入る。そして俺をダルクがそのあとに席へ。そしてもう一つの馬車にジルヴィーさんが乗る。


 その後、自分の荷物を膝に抱えると、馬車が動き始める。

 本格的にお別れだ。しばらく会えなくてさみしいけど、また帰ってくるから!



 そして俺たちは王都ネフィリムフィアへ向かっていった。






 それから一週間ほど、俺たちはガタゴトと揺れる馬車の旅を過ごすことになる。



 高原地帯を超え、大きな川を渡り、地平線まで広がる雄大な草原地帯へ。

 初日こそその珍しい光景に俺たちは目を丸くして、楽しんでいたものの、3日目あたりから疲れが出始める。


 会話も少なくなり、移動時間の半分は寝ていたと思う。

 5日目あたりから平地が増え、街にたどり着く頻度が増えていく。すれ違う人も多くなり、王都が近いことを実感させる。


 そして7日目を迎えた昼前。


「ここが、ネフィリムフィアです」


 シェルムさんが見上げながら俺たちに話しかけてくる。


 俺たちの視界を遮るような壁がある。左を見ても、右を見ても壁が続く。

 そして道の先に城門があり、警備の兵士がいた。


 馬車が門番の兵士に近づくと、シェルムさんが兵士たちに自分の証明書を渡す。

 兵士は敬礼をして頭を下げる。


 そしてその門が空き、俺たちは街の中に入る。


「これが王都か──」


 長い旅路を経て、俺たちはとうとう王都ネフィリムフィアにたどり着いた。

 大きい街とは聞いていたが、実物を見て驚いた。


 溢れんばかりの人だかり、俺たちの村よりはるかに近代的で美しい建造物が立ち並んでいる。


 時折通り過ぎる露店には見たことがないような武器や食品などが立ち並んでいる。

 シェルムさんが、そんな街並みを見ながら俺たちに話しかけてくる。


「ローラシア王国の首都、ネフィリムフィア。どうですか? 初めて見た感想は」



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