第32話 指と指を絡めあう、恋人つなぎ
「けど、メルアだってその服、とてもに合ってると思うよ。メルアの明るくて、繊細な所がよく表れていて素敵な服だと思う」
「本当。信一君。お世辞で言ってるんじゃないよね?」
メルアは恥ずかしそうに聞いてくる。ここは──、本当のことを言おう!
「う、うん。とても素敵だよ。かわいくて素晴らしいと思う!」
ど直球のストレート発言。すると彼女は顔を真っ赤にしてしまい。
「そうゆーこと、平然と言う?? もう!」
そう言ってむきなって言葉を返したのだ。ほめたはずなのに、何か地雷にでも触れたのかな?
俺、地雷でもふんじゃったのかな?
メルアは、顔を真っ赤にしたまま目をそらす。ど、どうしようか──。と、とりあえず次に行こう。
「じゃあ、次行こうか」
そして俺はスッと手を差し出す。すると、メルアは驚いて1歩退いてしまう。
「え──、えっっっ?? 手、繋いじゃうの?」
なんで慌てているんだ、俺、また地雷踏んじゃったのか!?あわてて「ごめん」といって手を引こうとすると、メルアは目をつぶりパッと手を握ってきた。
「もう、握ればいいんでしょ!」
恥ずかしそうに、顔は真っ赤。そしてお互い恥ずかしさを抱えながら目が合ってしまう。
「じゃあ、行こうか」
「う、うん……」
いつもは明るくて活発的な彼女が、俺を見るなりもじもじと黙りこくってしまう。
そして手をつなぎながら街を歩き始める。
それから、歩き疲れたせいか、公園にたどり着き。木のベンチにちょこんと座る。
ぎゅっとメルアの手を握る。ほんのりと冷たくて、繊細でか細い手。
柔らかくて、ずっと握っていたい。そんな気分になる。
すると、周囲からひそひそと、俺を見るなり話してくるのだ。
「あれ、あの人かっこよくない。新しく来た人?」
「違うよ。信一君だよえれ、この前魔王軍を追い払っていたって噂の。結構イケメンだよね」
「あーあれ、確かに面影ある。前見たときはさえない感じだったけど、こんなにカッコイイ人だったんだ!」
いやおや、買いかぶりすぎだって。しかしメルアはその言葉にどこか不満なようで──。
「当たり前だよ! 私はずっと前から分かってたんだよ。私が信一君の魅力を再発見したのは私なんだからね!」
どこか不満そうに顔を膨らませている。
すると、さっきまで噂していた女の子が大きく手を振って叫んでくる。
「信一君。その姿、めっちゃイケメンだよぉ! 私と付き合ってみない?」
追い待て、メルアの目の前で、そんな言葉はやめてくれ。どう返せばいいんだよ……。
とりあえず、相手のことも立てて、こんな感じで返せばいいのだろうか。
「わ、わかった。考えておくよ」
「やりぃ! その時は、いつでもよろしくね」
その女の子はノリノリでこの場を去っていく。そして、後方から感じる熱い視線。
振り返ると、メルアがジト目で俺を見つめているのだ。
「信一君。意外とモテモテで積極的なんだねぇ。このすけこまし君」
メルアのにやりとした表情。ち、違う、あれはそんなんじゃなくて。
「ご、ごめん。そんなつもりなんじゃなくて、ほら、ちゃんと相手を立てないといけないし。落ち込ませたくないし。それに──」
「それに?」
「あそこまで褒めてくれたのは初めてだから。本当に嬉しっかった」
そんな言葉にメルアはほっと溜息をつき、俺に接近してくる。
そして柔らかい微笑を浮かべると俺に話しかけてきた。
「ま、あんなさえない外見じゃそうなるよね」
だ、だよな……。
「けど、信一君。ちゃんとコーディネートすればかっこよくなったじゃん。自信もちなよ自身」
「あ、ありがとう。確かに自信になった。ただ……、ほら、俺今までかっこいいとかイケメンとか言われたことなくて。それでいきなり見知らぬ人からかっこいいとか言われて、ちょっとびっくりしているんだ」
本当に生まれて初めてだったんだ。あそこまでかっこいいとか言われるのは。お世辞じゃないかとか、裏があるんじゃないかとか思ったり、どうしても考えてしまうんだよ。
俺がそんな暗いことを口にしても、メルアは動じない。ほっと一息ついて今度は俺の隣に寄ってくる。
肩が当たるくらいの近さ。
そしてにっこりと笑った後──。
「でも私は。信一君の事かっこいいし、好きだと思ってるよもちなよ。だから、こうして──」
そう言うと、メルアは俺の右手をぎゅっと握ってくる。それもただ手を握ってきたわけではない。
指と指を絡めあう。通称恋人つなぎだ。
彼女の冷たく、か細い滑らかな指の感触を手全体に感じる。
とても気持ちいい、永遠に握っていたいと思えるような感触。
メルアもその感触を感じながら、目をつぶり、微笑を浮かべている。何か考えているのだろうか。
そうメルアをじっと見ていると、メルアが目を上げ、見つめあう形になってしまう。俺もメルアも顔を赤くさせ、はっと目をそらす。──気まずい。
「信一君。ありがとうね。わたしを救ってくれて──」
「みんなから裏切り者扱いされた時、本当に怖かったんだ。このまま、私が何を言っても、誰も信じてくれなくなっちゃうんじゃないかって。私の友達が、みんないなくなっちゃって、この村からいられなくなっちゃうんじゃないかなって。それが本当に不安だったの」
「そ、そうだったのか──」
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