第9話 俺が必要? 絶対おかしいだろ
「すいません。冒険者の皆さん!」
誰かが村の方から走って来た。髪を結んだお姉さんが話しかける。
「伝令係さんね。そんなに走って何か用かしら?」
「大変です。突如村に魔王軍が攻めてきました。村にいる冒険者たちで何とか対処していますが。数が多くて、協力お願いできますか?」
「ど、どういうこと!?」
冒険者たちの間に動揺が走る。とりあえず落ち着かせないと。
「多分。こいつらは俺たちをおびき寄せるための餌だ。俺たちがこいつらに食いついてる間に、防御が手薄な村を襲うって作戦だったんだ」
「それはあり得るわね。どちらにしろすぐに戻って加勢しましょう」
俺たちはすぐに村に戻る。
──とその前に、ダルクを何とかしなきゃな。
顔を膨らませ、ふてくされ気味のダルク。いくら理屈を言っても届きそうにない。
だったら、俺の想いを押し通すまでだ。
ダルクが村へ戻ろうと歩を進めようとしたとき、彼女の右手をつかみ叫ぶ。
「ダルク、話がある」
「なんだよ。お前も偉そうに説教か」
ぶっきらぼう思想言いながら俺をにらみつけてくる。
「うまく言えないけれど。俺はお前に死んでほしくない」
「あっそう」
ううん……、これじゃあダメか。理屈で行っても通じないのか。それなら、気持ちと勢いで伝えるしかない。
「そういうことじゃない。俺にはお前が必要なんだ!」
そう叫び、ダルクの両手を強くぎゅっと握る。そしてさらに叫ぶ。
「俺だけじゃない。ダルクを必要としている人は、絶対にどこかにいる。俺が約束する。自暴自棄になるのはそれからでも遅くはないと思う」
復讐はダメとか、自分を大切にしなさいとか。
どうせ綺麗事を言ったところで彼女の心には届かない。
だったら俺は 復讐のためだっていい、その力を、お前を必要としてくれる人がいる。それも口だけでなく、精一杯の感情をこめて叫んだ。
「はぁ──、俺が必要? 頭おかしいじゃねえのか」
顔を赤くしてきょろきょろとしている。明らかに動揺していて、心に届いているのかがわかる。
「おかしくない。ダルクがいないなんて俺は嫌だ。短い間だけど、一緒の教会で暮らしてきた友だ。少なくても俺はそう思っている」
ダルクはもじもじと顔を赤くしながらささやく。
「おかしいよおまえ。どうせお世辞で言ってるんだろ?」
「お世辞なんかじゃないし、おかしくないよ。まあ、答えを出すのは後ででも遅くはない。どうすべきか、ゆっくり考えてくれ」
ダルクは戸惑いの表情を見せる。まあ、時間があるときにゆっくりと考えておいてくれ。
「とりあえず、村に戻ろう。みんなが俺たちを待っている」
「ああ、そうだな」
そして俺たちは村へと戻った。村へ近づくにつれて、村人たちが走って逃げてきたり、時折村から叫び声が聞こえるのがわかる。
すでに戦闘は始まっているのか。
そして村へと到着。そこで見えるのははデュラハンや、女性の形をし、大きな弓を持った兵士スキュラや、凶暴な牙を持った魔犬ケルベロスなどが、村人たちを襲っている地獄のような光景。
「お前、なにボーっとしてるんだ。行くぞ!」
「ああ……。わかったわかった」
ダルクは当然先陣を切って魔王軍に攻撃を仕掛けていく。
魔王軍を目の前にして、ボルテージも最大になっているのがわかる。俺も出遅れないように、村人に襲い掛かっているゲルベロスに攻撃を仕掛けた。
そして2~3分ほどでこの場を片付ける。
「よし。片付いた」
すると、ダルクが休むそぶりもなく、逃げ惑う村人に話しかける。
「おい、魔王軍はどこにいる。早く俺はそいつをぶっ飛ばしたいんだ!」
「魔王軍なら、お前が住んでいる教会にいたよ」
「ああ、それで、他の冒険者がみんなやられちゃってるんだ」
マジかよ。教会か、それも強い魔王軍がいるってのか。
「丁度いい。2人で、そいつをぶっ飛ばしてやろうぜ」
当然ダルクはやる気満々だ。まあ、子供たちのためにも、戦わなくちゃいけないんだけどな。
そして俺たちは教会へ。
時折すれ違うのは、ボロボロになった冒険者。そして俺たちに話しかけてくる。
「おいよせ。あっちの魔王軍、相当強いぞ」
引き留めてくる冒険者。しかしダルクがすぐに反論。
「気にすんな。どんな相手だろうと、俺がぶっ飛ばす」
「ずいぶんと自信満々だな……」
ため息をつく冒険者。
まあ、呆れたんだろうな。
「忠告ありがとう。けど、あそこは俺たちの居場所。逃げるわけにはいかないんでね」
そういって俺たちはさらに道を進む。
しばらく歩くと──。
「ついたな」
「ああ!」
教会へ到着。裏庭に行き、壁伝いに隠れて敵の様子を確認。
まず見えたのは、子供たちが壁際に座り込み、怯えている姿。
そしてその前に立っている1人の人物。
どす黒いオーラからそいつが魔王軍であることがすぐに理解できる。
腕には大砲を持ち、筋肉質な男のような外観。
見たことがないな、どんな兵士なんだ──。
そんなことを考えていると。
「信一君!」
後ろから声がする。慌てて後ろに振り向くと、ひとりの少女がこっちに向かってくるのがわかる。
茶髪で俺より少し低いくらいの身長。
メルアだ。
「メルア。どうしたの?」
「他の村人から、この辺りがまだ片付いてないって聞いたから来てみたんだけど──」
「え、うそ……。あれヒュドラじゃん!」
その姿を見るなり、メルアの表情が引きつり、こわばり始める。
「どういうことだ。強いのか?」
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