元冒険者だったギルドの受付嬢は、勇者パーティーを抜けてきた剣聖に誘われて冒険者稼業を再開しました

風間 シンヤ

第1話

  ここ、ライラック王国の冒険者ギルド。数多くいる冒険者のサポートをするこの場所では、今日も忙しくギルド職員が働いていた。


「うぅ〜!?やっとここまで書類を片付け終わったぁ〜!!!」


まだ入って1年にも満たない受付嬢のルナは、大量にあった書類の8割の整理をようやく終えて、机に突っ伏した。そんなルナを見てクスリと笑い、ルナの先輩上司のミカは、ルナな机の上に液体が入った小瓶を置いた。


「うふふ。はい。ルナちゃん。後もう少しだからこれ飲んで頑張って!」


「うわあぁ!?ミカ先輩特製ポーション!!ありがたくいただきまぁ〜す!!」


  ルナはミカが置いた小瓶を一気に飲み干した。すると、先程まで感じていたルナの疲労感があっという間に消えて無くなった。


「かあぁ〜!?流石はミカ先輩の特製ポーション!疲れが一気に吹っ飛びましたよ!」


「そう?それじゃあこの仕事もお願いしようかしら?何割かルナちゃんが担当するはずの仕事も混じってるわよ」


「……あの……やっぱりお返しします……」


もう飲み干して空になった小瓶を返そうとするルナを、おかしそうに笑うミカは「冗談よ」と言って、ルナの隣の席に腰かける。


「はぁ〜……それにしても……冒険者ギルドの職員がこんな大変な仕事とは思わなかったなぁ〜……まぁ、その分給料は確かに高いんですけど……」


ルナは溜息を吐きつつ、まだ残っている書類の整理に手をつけ始める。


「そうね。私もルナちゃんと同じく新人だった頃はあまりの忙しさに目を回しながら、ポーション飲んで書類と格闘していたわね」


「へぇ〜……意外ですね。ミカ先輩って何でもそつなくこなしちゃうイメージがありますけど……」


「……そんなに器用な人間じゃないわ」


若干俯きながら、呟くようにそう言うミカの言葉が聞こえたのか、ルナは慌てて話題を変える。


「あぁ!?それにしても!早く勇者様達が魔王を倒してくれないもんですかね!?そうしたら私達の仕事も減りそうなのに!!」


この世界は、今魔族達を従える魔王と呼ばれる存在が、人間達を支配しようと動いている。人間達よりも圧倒的な魔力と力を持つ魔族達だが、もちろんそんな魔族と渡り合う存在もいる。それこそが、女神に『勇者』の加護を授けられた勇者である。

  『勇者』の加護を授かった勇者は、魔族達には負けない魔力と力を持ち、ステータスも最高の冒険者ランクのSランクを超える程成長すると言われている。

  この世界にも『勇者』の加護を授かった勇者がおり、同じく女神から何らかの加護を授かった者達とパーティーを組んで魔王討伐に挑んでいるが、未だにそれらしい吉報が届いてはいない。


「そうそう!勇者パーティーって言ったら!ミカさん大好きのハルカちゃんも!頑張ってますかねぇ〜!」


「私大好きって……けど……そうね……あの娘は真面目な頑張り屋で、実力も相当だから……きっと活躍しているでしょうね……」


ミカはかつて自分が担当をし、女神より『剣聖』の加護を授かった少女ハルカの事を思い出す。


  

  冒険者ギルドにまだ15歳の少女がまるで道場破りのように扉を音を立てて入ってきて、スタスタと迷いなくミカの前までやって来て


「私を冒険者に……!!貴方の弟子にしてください……!!お願いします……!!」


と、土下座してミカに頼み込んだ時は、流石のミカも目を丸くして驚愕した。

  とりあえず、冒険者になりたいという事なので、普通に冒険者登録をし、冒険者になれる適正の確認が取れたので、後はハルカに適した職業を調べた結果、ハルカの適正職は「剣士」だった。その結果にハルカは


「むぅ……出来れば「錬金術師」が良かったんですが……」


  そんな風に口にしていた事を今でもミカは記憶している。しかし、ハルカは切り替えが早く、ならばと、ミカにこう告げてきたのである。


「ミカさんは元冒険者ですよね!どうか私に冒険者の心得を教えてください!!」


と、再び土下座で頼み込んできたのである。これにかなり焦るミカ。

  ミカは確かに元冒険者で職業は「錬金術師」だった。しかし、それはもう何年も前の話だ。しかも、ハルカとは全く違う職業なので教えろと言われても無理である。その事をしっかりハルカに伝えたのだが、それでも自分に教えて欲しいと頼み込むので、ミカは諦めて基本的な冒険者としての心得をハルカに伝えた。それを、キラキラした瞳で真剣に聞いていたのをミカは今でもハッキリと思い出す。


  ミカの言葉通りに真面目に冒険者稼業をこなしたハルカは2年であっという間にSランクの次に高いAランク冒険者になった。そんな彼女に更なる転機が訪れた。


「ミカさん。私の右手によく分からない紋様が出てるんですけど?」


ハルカにそう言われてミカが確認すると、その右手に浮かんだ紋様は間違いなく女神の加護を授かった者を示す証だった。ミカは慌ててマスターを呼んで調べた結果、ハルカの加護は『剣聖』という剣術に優れた加護である事が分かった。

  こうして、ハルカはライラック王国の命に強制され、無理矢理勇者パーティーに入る形になった。ハルカ本人は大変不服そうだったが、王命に逆らえず仕方なしに勇者達と共に旅立った。


  それからもう半年は経っただろうか?真面目な彼女なら色々と手柄を立てているとは思うが、ミカは勇者達の色々を知っている為、ハルカとは合わないのでは?とも思っていたが、女神の加護を授かった者にとって魔王討伐任務は絶対である。ミカはハルカの無事を密かに女神に祈り、今日も今日とて仕事をこなす。が、そんな時だった。


バタンッ!!!!


  どこか懐かしささえ覚える扉を開ける音と共に、黒い長い髪を靡かせた美しい少女がスタスタとミカの前まで歩み寄り


「ミカさん!!勇者パーティーを抜けてきました!!なので!一緒に冒険者をしましょう!!」


と、2年前と変わらぬキラキラした瞳でそう訴えかけてきた少女こそ、女神から『剣聖』の加護を授かったハルカその人だった。

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