夢幻鉄道 ~まっ青な世界とワルモノの盾~

ふじゆう

第1話

―――あの家に、僕の居場所なんてない。


 蝉の鳴き声が降りしきる中、街灯がまばらな夜道を歩く。朝も夜も全力で自己主張を続ける蝉は、いつ眠っているのか謎だ。散々叫びに叫んで、あっさりと死んでいく。まるで花火みたいで、綺麗だと思った。

 息を殺して生きる事に、なんの意味があるのだろう。

 地元の中学校に入学して、五か月ほどが経過した夏休み。僕は、小学校からの悪友達と、連日夏休みを謳歌していた。勢いで空けた左耳には、青色のピアスが光っている。蝉時雨を浴びていると、体中の毛穴から汗が噴き出してきた。勝手知ったる細道に、恐怖なんか微塵も感じないから、原因はこの暑さだ。夜になっても、遠慮がない。

 暗い細道を抜けると、視界の先に藤棚が見えてきた。街灯によってライトアップされているようで、この場所はとても気に入っている。しかし、残念ながら、今は美しい青紫の花が咲いていない。季節外れの天邪鬼が残っていないか期待したが、やはり駄目であった。僕はシャツの袖で汗を拭いながら、藤棚の下のベンチに腰掛けた。手を振って顔に風を送るけれど、気休めにもなりはしない。振っている手を止め、腕時計を確認する。

二三時三十五分。念の為に日付が変わるまで時間を潰す。今日は、手術があったのだろうか? 何もなければ、父親はもう眠っているはずだ。この地域で一番大きな病院の院長を務めている父親は、今でも現場に出ているそうだ。突然、見知らぬ人から声をかけられ、父親への感謝を伝えられる事も珍しくない。決まり文句のように『自慢のお父様ね』と、笑顔で言われる度に、こめかみの辺りがピクピクと痙攣を起こす。

 一歳下の弟は、私立中学の受験勉強に勤しんでいるだろう。部屋に閉じこもっているから、顔を合わす事もない。母親は・・・まあ、いいや。ただの置物と成り下がっている。吐き出した溜息を吸い込んでいるせいか、不快感が体の中で膨張していく感覚に襲われる。以前、あまりにも帰りたくなかったから、ここで一晩を明かそうとした。ベンチで眠りかけた僕を起こしたのは、警察官だった。母親が通報したそうで、想像以上の大ごとになってしまった。そして、父親から、犯罪者のように罵られた。迷惑をかけた、心配をかけた為ではなく、父親に恥をかかせた事が原因のようだ。

「ウウン」

 飛び降りるように立ち上がり、ベンチの隅を見た。小さな咳払いが聞こえたが、誰もいない。気のせいだったのだろう。でも、体は正直で、腕に鳥肌が立っている。鳥肌を消すように腕を摩ると、腕時計が視界に入った。時刻は、〇時を回っていた。僕は腕を擦りながら、歩き出した

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