第98話 load completed.

 私はケンタを育てることにした。

 グランは彼にとっての良い敵役になってもらう。

 全ての黒幕は私で、それに気付いたケンタが私を倒してくれるはず。



 パーティメンバーにとっては初めての魔王討伐だったが、私にとっては3度目だった。

 魔王の居城があるコールドマウンテンまで道のりは二つある。

 平坦で怪物がほとんど現れないルート。(そのため道中に街が多い)

 険しく怪物が沢山現れるルート。(そのため道中に街が少ない)

 前者は一回目に旅したルートで、怪物がほとんど現れなかったためメンバーが育たなかった。

 必然的にメンバーは低レベルなまま旅は進む。

 そのため、途中で現れる中ボス(ボスキャラはどちらのルートを選んでも必ず現れた)に私以外のメンバーは殺されてしまった。

 私が望む人間関係が構築される前に、メンバーが死んでしまっては面白くない。

 後者は二回目に旅したルートで、怪物が次々と現れる。

 その多さについていけないメンバーは死んだり脱落したりした。


 これらの経験を踏まえ、私はあえて後者のルートを選択した。

 途中にある村や街を拠点にしつつ、メンバーをじっくり育てながら、ゆっくり時間を掛けて進むことにした。



 グランを中心に戦闘を重ねさせた。

 後衛で私は治癒魔法と補助魔法(防御力の強化や、素早さの向上など)を使い、メンバーの援護に勤めた。

 最初は大して強くもないメンバーだったが、私の指導と援護のお陰でみるみる成長して行った。

 ただ一人、ケンタを除いては。

 彼は戦闘に参加させず雑用ばかりさせた。

 メンバーからの理不尽な要求を彼に与え続けた。

 ケンタのフラストレーション、つまりメンバーへの復讐心を育てるのが狙いだった。

 ステータスが上昇し、どんなに強い魔法や武器を使えこなせたとしても、私を倒せないだろう。

 相手を憎み倒してやろうという気持ち、それこそが、彼の存在証明となり、人智を超えた限界突破に繋がるだろう。


 だが、ケンタは


「はい」


 と、文句も言わずメンバーからの無理難題をこなしていった。

 たった一人でゴブリンの群れに飛び込ませた。

 彼が倒した怪物がドロップした素材を、全て奪った。

 大量の荷物をその小さな背中に背負わせた。

 だが、


「はい」


 彼は、笑顔でこなしていた。

 それが、マリナのためと言わんばかりに。


 遂に魔王ハーデンを討伐した。

 グランは王となった。

 私は彼にケンタを平民にすることを奨めた。


「さすがにそれは可哀想だろ」


 グランは難色を示した。


「ケンタは、今までこき使ってきた私達に恨みがあるはず。きっと反乱を起こすだろう。権力を与えないほうがいい」


 私の提案は受け入れられた。


 ケンタには栄誉も報酬も与えられなかった。

 さすがに、怒りに燃えるだろう。

 私はそう思った。

 だが、彼は教会に戻りマリナと一緒に孤児院の仕事をしていた。

 遠くから見る彼の顔は幸せそうだった。


 こうなったら、ケンタの一番大切な者を奪うしかない。

 突然、ジェス姫の顔が思い浮かんだ。

 愛する者を失う辛さを思い出し、心がズキンとした。

 だが、私は心を鬼にした。

 私の人生のために。


 闇の先に光が見えて来た。

 そろそろセーブポイントだ。


賢者の人生編 おわり

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