第94話 now loading……②

 所々に白い花模様のレースをあしらった臙脂色のドレス。

 スカイブルー色した腰まである長い髪が、明かりに照らされて白から青にグラデーションを描いている。


「よろしくお願いいたします」


 鈴が鳴る様な声が、私の耳を心地良くさせた。

 卵型の顔は白くて、頬に朱が差している。

 切れ長の目は、妹のジェニ姫と大きく異なる。

 が、そこは姉妹。

 顔のパーツは異なっても雰囲気は共有している。

 ジェス姫は妹のジェニ姫(お転婆で気が強い)を大人にして、更にクールにした感じだ。

 それにしても、ディオ王の遺伝子からよくこんな綺麗な娘が生まれたかと感心していた。

 ディオ王は黙ったままジェス姫を見つめる私に視線を送り、こう言った。


「マリク、ジェスをよろしく頼むぞ」



 次の日から、ジェス姫に治癒魔法を教える日々が始まった。


 毎日の様に、魔物との戦闘で傷付いた兵士が城に戻って来る。

 軽傷の者は、私達とジェスがいる治療所に運び込まれる。


小傷治癒スモールスクラッチヒーリング


 ジェス姫が兵士の膝に手をかざす。

 兵士の擦り剝けて赤肉が見える膝が、みるみるうちに治癒されて行く。(具体的には皮膚が再生されて傷口が塞がって行く)


「ありがとうございます」


 兵士はしっかりとした足取りで、兵舎に戻って行った。


「むしろ、お礼を言いたいのはこちらですけどね」


 ジェス姫が笑顔で私に声を掛ける。

 ディオ王は軽傷の兵士達を、私達に任せる様にしていた。

 それは、ジェス姫の治癒魔法修行のためだった。

 まさに、傷付いた兵士は魔法修行のための材料だった。(こんな例えをすると彼女に嫌われるので言わないが)


「それにしても、姫は上達が早い」

「ありがとうございます。留学先でも独学してたんです」


 ジェス姫はディオ王に命じられて治癒魔法使いになったわけでは無かった。

 その理由をこう言ってた。

 彼女が子供の頃。

 護衛を連れて街を視察していた時のことだ。

 馬車にはねられた男がいた。

 その男は体中のいたるところから血が出ていた。

 街中で突然起きた大事故。

 ピクリとも動かない男に、皆、動揺し何をしていいか分からない様だった。

 ジェス姫もまた、初めて見る瀕死の人間を前にして慄いてしまい、動けなくなっていた。

 その時、人混みの中から白装束をまとった黒髪の女が現れた。


「その人が、事故でけがをした人を治癒魔法で治したんです」


 男が元気になって行くのを見たジェス姫は誓った。

 人を助ける治癒魔法使いになろうと。


「それで、姫の将来を決めるきっかけになった治癒魔法使いはどこへ?」

「何も言わずに、去って行きました。だけど、私は彼女と目が合った時、しっかりと彼女の顔を覚えました」


 私は瞳孔が開ききったジェス姫に、何か嫌な予感(私にとって)がした。


つづく

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