第93話 now loading……①

 ディオ王国は一見平和だが、魔物の脅威と隣り合わせだった。

 国民が魔物に襲われたといった事例が、年に数百件はある。


 そのため、ディオ王直属の『魔物討伐団』が結成された。

 城に召抱えられた私は、まず魔法の教育を受けることになった。

 魔物討伐団の一員になるために。


 教わる内容は専門的なものだった。

 平民の学校で教わる内容が難易度1なら、城の魔法学校で教わる内容は、難易度100はあった。

 そのカリキュラムに着いていけるか不安を覚えた程だ。

 辺りを見回すと私と同じ様に、才能を見いだされた十代の少年少女がいた。

 その聡明な彼ら彼女らの横顔からに、私は圧倒された。

 自分はこれからどうなって行くのか、不安になった程だ。

 それは、今まで退屈と感じていた人生がスリリングなものに変わるのでは無いかという期待の裏返しでもあった。


 だけど、その期待は脆くも崩れ去った。

 どんな魔法も私にとっては簡単過ぎた。

 魔力が強過ぎて、発動される魔法を制御することの方が大変だった。


 いつしか私はカリキュラムを自習で消化してしまい、学ぶことが無くなっていた。


 その頃から私は、自分がどこまで成長し何者になれるかを計算する様になった。

 寿命が80歳だとすると、どこまでやれるのか。

 この国で学べる魔法を習得し、それを行使して襲来して来るモンスターを倒す。

 戦果に応じて地位を得られたとして、その先の見通しは、たかが知れていた。

 子供の頃に、自分の人生の到達点を知ってしまった。

 私は失望した。

 これじゃ、タネを明かされた手品を見せられているのと同じだ。

 父の作るゲームだけが心の拠り所だったが、それもだんだん飽きて来た。


「もうマリクは僕のゲームじゃ満足出来ないみたいだね」


 父は息子の成長を喜んでいるかの様な笑顔だった。

 私は自分で自分を楽しませることが出来るようなゲームを作ることにした。



 年月は過ぎ--

 ある日、ディオ王に呼ばれた。


「娘の教育係をお願いしたい」

 

 玉座に座るディオ王は、私にそう命じた。


「ジェニ姫のことでしょうか?」

「いや、違う。そうか、お主はまだ会ったことが無かったか。ジェニの姉、ジェスじゃ」


 小さい頃から、ジェス姫はメルル王国に留学していた。

 それがこの度、帰国することになったらしい。


「ジェスを立派な治癒魔法使いにしたいのじゃ。そして、お主を中心とした魔王討伐パーティの一員にしてやってくれ」


 3年前、黒い流れ星が落ちた。

 それを見たディオ王は『魔王』が襲来することを予言した。

 来たるべき魔王の襲来に備え、ディオ王の号令の元、国中には多数のギルドやパーティが結成されていた。

 当然、王家配下の者達で構成されたパーティも何組か結成されていた。

 私は無意識に、今後の人生の変化について計算していた。

 

「ジェス、こちらに参れ」


 ディオ王が声を上げると、王の間の扉が開いた。

 コツコツとヒールが鳴る音がする。

 私が振り返ると、そこには彼女がいた。


「はじめまして。ジェス・アフォン・エスタークです」


 ジェスのブラウンの瞳が、私の黒い瞳と合う。

 その瞬間、私の閉塞していた人生に風穴が開いた。


つづく

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