第6章 姫のラブソング編

第78話 セーブポイントはここ

 僕はカーテンの間から差し込む朝日で、目を覚ました。

 窓の外から音楽が聴こえて来る。

 カーテンをスライドさせ、窓を開ける。

 黒ずくめの親衛隊が二列に並び、行進している。

 それぞれの手に楽器を持っている。


「グラン王様、おめでとうございます!」

「王様、末永くお幸せに!」


 そうだ。

 今日はグランの結婚式だ。

 彼はマリナを諦めて、どんな相手と結婚したんだろう?


「あ、起きてたんだ! 朝ごはん出来てるよ」


 ジェニ姫の爽やかな声に、僕は振り返った。

 朝食後、城の前にある大広場に行く。

 沢山の人が集まっていた。

 高らかに、ラッパが鳴り出した。

 歓声が止む。


 城の5階あたりのベランダから現れたのは、グランと……


「マリナ!」


 僕は叫ばずにはいられなかった。

 何で彼女がグランと……

 何かの間違いだ!

 よじ登れるわけなんて無いのに、足が自然と城壁に向かって動き出した。

 マリナ、君は騙されてるんだ!

 目を覚まさせてあげなければ!


「落ち着いて!」


 ジェニ姫が両手を広げ、僕の行く手を遮る。

 白銀の髪がなびく。

 遊ぶ毛先が陽光を受けキラキラと輝く。

 綺麗だ。

 何て、思ってる場合じゃない。


「どいてください!」

「いやだ!」


 僕は無言でジェニ姫の肩を掴み、脇に押しやろうとした。

 だが、彼女は僕の手を振り払い、キッと睨みつけた。

 瞬間、僕は暗闇の中に無数の星を見た。

 その華奢な体の、どこにそんな力があるのか、そう思えるほどのビンタだった。


「目を覚ましなさい!」


 確かに、ここには沢山の親衛隊がいる。

 何か騒ぎを起こせば、取り押さえられ暴行され監獄に放り込まれるだろう。

 ジェニ姫が言うには、マリナは魔法を掛けられていてそのせいでグランに心を奪われているだけらしい。

 なら、少し安心した。

 僕らは宿屋に戻り、冷静にこれから復讐のための計画を話し合った。


 数か月後、僕はグランに返り討ちにされ、生死の境をさまよっていた。

 計算外のソウニンの裏切りにより、ジェニ姫が殺されたのは痛かった。

 僕だけが何とかグランの間に辿り着いた。

 だけど、この有様だった。


「死ね」


 無慈悲なグランの冷たい声が大広間に響く。

 世界が暗転した。



 僕はカーテンの間から差し込む朝日で、目を覚ました。

 窓の外から音楽が聴こえて来る。


 今日はグランの結婚式だ。


「天気が悪いから行かない方がいいよ」


 ジェニ姫が朝食の途中でそう言う。


「そうですか?」


 雲一つ無い晴天だが……


「昼から悪くなるらしいよ」

「いや、行きましょう。グランの城の様子が見たい」


 それに、マリナがお妃でないことを確認したい。(そんなこと絶対ないと思うけど)


 数時間後、マリナの花嫁姿を見た僕はグランを倒そうと城に向かって走り出していた。

 

ドスッ!


 僕の脇腹に冷たくて硬い物が挿入されている。

 親衛隊の繰り出した槍が、僕を貫いていた。

 赤い肉と血と白い脂を絡ませた銀色の先端が、僕からゆっくり引き抜かれる。

 激痛の中、僕は死んだ。



 僕はカーテンの間から差し込む朝日で、目を覚ました。


 グランの結婚式でマリナと最悪な再会を果たす。

 ゲームで一発当て、反乱軍を率いてグランの城に攻め込む。

 だが、仲間の中に裏切り者が現れ、軍は壊滅する。

 混乱の中、僕は何者かに命を奪われた。





 遂に、僕とジェニ姫はグランの間に足を踏み入れた。

 他の仲間たちはここに辿り着く前に戦死した。


「好き勝手やってくれたな」


 全身エメラルドグリーンの甲冑(材質は何なのか分からないがかなりの防御力を持っていそうなことは見ただけで分かる)で身を固めたグランの声が、ドーム型の屋根に反射して大広間に響き渡る。


「おや?」


 グランの後ろに、紫色のローブ姿。

 小柄で童顔、目は全てを見透かしたかの様に不自然に澄んでいる。


「マリク……」


 僕は彼の名を呼んでいた。

 だが、賢者マリクは聞こえていないのか何の反応も示さなかった。


つづく

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