第75話 童貞の気持ち
振り返ってみれば、僕はジェニ姫の言うとおりにしていたら良かったのかもしれない。
僕は焦り過ぎていたんだと思う。
だけど、僕は今すぐにでもマリナを取り戻したかったんだ。
早く取り戻さないと……
焦る理由。
僕はまだそういった経験が無いからモヤモヤしてるんだ。(キスもまだだ)
いくらマリナが魔法でグランに惚れてるからといって、そういう関係にならないとは限らないだろ。
ある夜から、グランの腕に抱かれるマリナが夢に出てくるようになった。(肝心のところは経験がないのでモヤモヤしてる)
その夢は毎晩続く。
もう、僕は居ても立っても居られなくなって来たんだ。
マリナの初めての人は僕だ。
懊悩する僕をしり目に、ジェニ姫は月を見たまま語り出した。
~~~~~~~~~
黒い流れ星が落ちる時、魔王がこの大陸に降り立つだろう。
同時に救世主も誕生する。
救世主は6人の使徒を引き連れ、魔王を倒すだろう。
~~~~~~~~~
僕が子供の頃、マリナが話してくれたこの国の伝説。
魔王がグランだとするなら、僕が救世主。
旅の途中で、僕とジェニ姫はそう仮説を立てた。
それは、グランに対して非力な僕らの、希望の拠り所でもあったんだ。
「いつもみたいにカンストメンバーは見つかったの?」
「いいえ。だけど、反乱の前日にギルドに行けば、いるはずです! 今まで通りなら!」
ジェニ姫は眉根を寄せ、僕の言葉を否定するかの様に首を横に振った。
「今回はカンストメンバー一人だけじゃない。今までのカンストメンバーも全部を揃えないと」
タケルの国で蛮勇を振るってくれた戦士グルポ。
コブチャの国で疫病と治癒魔法のマッチポンプを演じてくれた治癒魔法使いミナージュ。
チナツの国で最強の召喚獣デーモンを召喚してくれた召喚魔法使いクシカツ。
ソウニンの国で豪快な手刀を披露したマスタツ。
これで4人。
あとの二人は、この国にいるのだろうか?
「僕が救世主なら、きっと彼らは現れてくれます!」
だけど、反乱前日にギルドに行っても、カンストメンバーは誰一人いなかったんだ。
僕は混乱した。
混乱の後には激しい落胆が僕を襲った。
地下のアジトでは、皆、勝利を確信し前祝とばかりに酒を酌み交わしていた。
「ケンタ! 明るい未来が待ってるよな!」
「うん……」
反乱軍の幹部達が目を輝かせながら僕に酒をすすめてくる。
死と隣り合わせの彼らは、希望を追い掛けることで恐怖を振り払っていた。
僕にはその気持ちが痛いほど分かる。
だから、この場にいることが辛かった。
一人、屋根の上に座り夜空の星を眺める。
「いい?」
天窓から小さな銀色の頭がヒョコッと出て来た。
「はい」
ジェニ姫が僕の隣に座る。
「いよいよね」
「はい」
「その様子だと、見つから無かったみたいね」
僕は無言で頷いた。
「今からでも遅くない。多数の犠牲を出す前に中止するのもありだよ」
「それは……」
出来ない。
僕はもうマリナと誓いのキスを交わすと決めたんだ。
結婚式の続きをするんだ。
そうすれば魔法も解けるはずだ。
ジェニ姫がじっと僕を見ている。
桜色の唇をグッと噛み締めている。
返事をしない僕に、何か沢山のことを言いたいのだろうけど我慢している様だ。
そんな彼女が息を吸い、
「復讐なんかやめて、私と一緒に、どこかでずっと一緒に暮らそう」
白銀の髪に包まれた白い
「そ、それって……」
「もう、女の子に言わせるつもり!?」
ジェニ姫が僕を拳でポコポコ殴ってくる。
それはまるで、ジャレついて来るかの様だ。
彼女のペースに持っていかれそうだ。
それもいいなと思ったけど、僕はマリナを裏切れない。
「僕は救世主じゃありませんでした。だけど……」
「分かってる」
ジェニ姫は真っすぐ僕を見つめた。
その顔は全てを分かり切ったような笑顔だった。
!?
僕の唇に、この世の物とは思えないほど柔らかくて暖かい感触が伝わる。
ちょっと湿っていて、まるで極上の果実の様だ。
「それでも、私が君を守ってあげる」
僕の唇から、唇を離したジェニ姫はそう言った。
月だけが二人を見守ってた。
そして、翌日。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます