第72話 ゲームの中身は二進数

 ユルフンはさっきからずっと、ゲームをプレイしている。

 目を皿のようにして、真ん中の透明ガラスをじっと見ている。

 ユルフンの瞳には、ゲームの主人公が敵と戦っている様子が映り込んでいる。


「あ~っ。やられた」


 悔しそうに呻くと、カウンターにゲームを置いた。


「どう?」


 ジェニ姫が、その価値がどうなのか問う。


「うーん。面白いね。これは皆、欲しがるんじゃないかな。問題はどう作るかだよな」


 ユルフンも僕と同じ疑問を持った。


「この店にある素材で作れると思うの」


 ジェニ姫の視線の先には、銀、銅、金、鉄で出来た武器や防具が並んでいた。

 

「あれでどうやって?」

「ゲームは電気で動いてるの」


 ジェニ姫はゲームに接続されている携帯充電器モバイル・バッテリーを指差した。


「電気?」

「雷の魔法よ」


 そして、ジェニ姫は器用にゲームを分解して見せた。

 緑色の板の上に無数の銀色の線が並んでいる。

 真ん中には黒い真四角い板があった。

 その横に、横長の黒い板がある。

 そこには『A GAME SOFTWARE』と書かれていた。


「STARTボタンを押すと、電気がこの銀色の線を通って、この黒い真四角のエンジンを駆動させるの。そうすると、横長の黒い板の中にあるゲームが開始されるの」


 分解したままの状態で、STARTボタンを押す。

 部品が熱を持った。

 電気が通ったという証拠か。

 透明ガラスがボワッと光り、ゲームが表示される。


「銀色の線は銀、銅、金、鉄で出来てるの。そこの武器や防具を溶かせばすぐに用意出来るわ」

「おいおい、勝手に売り物を素材にするなよ」


 ユルフンが困った顔をする。

 だが、口角がちょっと上がってるところを見ると、この商売に乗り気の様だ。


「問題はエンジンとゲームの中身をどう作るかだよな」


 ユルフンが腕を組んで考え込む。

 こればっかりは、ここにある素材では難しいか。


「私も解析しようとしたんだけどね……。特にゲームの中身は0と1の羅列しか見えなかった」

「二種類の数字だけで、ゲームの中身が作られてるって訳かい」

「0101これがランダムに繰り返されてたの。意味が分からないわ」


 僕は話についていけなくなっていた。

 ジェニ姫は何らかの魔法でゲームを解析しようとしたけど、難しくて無理だったのだろう。

 

「お二人さん」

「はい」


 僕の声掛けに、二人同時に応答した。


「作るのが難しいなら、そっくりそのままコピーすればいいのでは。それこそ、物体を複製出来るスキルを持つ人を探すとか……」


 そんなスキルを持つ人がいるか分からないが、とりあえずアイディアとして言って見た。


「ありかもね」


 ジェニ姫が手を打った。

 僕らはギルドに向かった。


「いるわよ」


 ギルドマスターのヒロコが事も無げに言う。


「無機の方ならね。さすがに有機の方はいないわよ」

「無機? 有機?」

「無機は、そうね例えばこの机とか椅子。有機は、君みたいな人間。つまり生き物」


 なるほど。


「無機の方で」


 紹介されたのは、中性的な顔立ちの背の小さい少年だった。

 名前はハルト。

 二重瞼で目がくりくりしていて、マッシュルームみたいな黒髪が可愛らしい。


「僕、この前ガチャで『複製』ってスキルを身に付けたんだ」


 得意気にサムズアップする姿が、無邪気で男の子って感じ。

 そのガチャは、ハルトで打ち止めになって消えたらしい。


「素材さえ用意してくれれば、同じものを増やしてあげるよ」


 こうして、僕らはハルトにゲームを増産してもらった。

 彼のスキルレベルだと一日10台が限度だった。

 報酬はゲームが売れてからということで、我慢してもらった。


 そして10日後、100台のゲーム機を前にした僕とジェニ姫とハルト。


『ルキ堂』


 ゲームを売る店の名前だ。

 キャッチコピーは『いつでも、どこでも、楽しく』。


つづく

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