第71話 死に戻りの無限ループ

「これで一発当ててみない?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべるジェニ姫の手の平には、白い横長の物体『ゲーム』があった。


「なるほど」


 僕のスキル『商才』が発動し、頭の中で今後の展開が閃いた。

 ゲームをこの国で売る。

 きっと流行るだろう。

 だって面白いんだから。


「いいですね!」


 僕は何度も、ジェニ姫からゲームを借りて遊ばせてもらった。

 これほど空き時間を、楽しませてくれるものは無い。

 ゲームは主人公の勇者が仲間を集めてパーティを組み、魔王を倒すという内容だ。

 主人公が死ぬと、スタートからやり直しになる。

 いわゆる、死に戻りというやつだ。


「私、まだ魔王を倒したことないんだー。だって難しいんだもん。だけど、皆、やり出したら、いつか誰かクリアするかもね」


 子供の頃からゲームを遊んでいるというジェニ姫でさえも、まだ魔王を倒せていない。

 それくらいゲームは難易度が高かった。

 ゲームは、何度スタートから繰り返しても同じ展開にならない。

 例えば、主人公の初期ステータスとスキルがランダムに決まる。

 これだけで、前回までのプレイの記憶が参考にならない。

 まさに、前世の記憶を消された状態だ。

 敵もこちらのステータスとスキルと行動を考慮したかの様な動作を取る。

 裏をかかれたプレイヤーは死ぬしかない。

 要は、これといった攻略法がないってこと。

 プレイの度に臨機応変に対応出来ればクリア出来るかも……そんなの無理!


「けど、これ、どうやって作ればいいんでしょうか?」


 僕の素朴な疑問だった。

 これを大量に作る技術は、この世界にあるのだろうか。


「ふふん。私はゲームを駆動させる携帯充電器モバイル・バッテリーを開発した女よ。魔法機器を作る技術を応用すれば、こんなものいくらでもお手の物よ」


 ジェニ姫は胸を張り親指を押し当てた。

 確か、ゲームを分解したことがあるとか言ってたな。

 その時に、作り方の当たりもある程度つけていたのだろうか?


「材料は?」

「大丈夫よ。ユルフンさんの店に沢山、適当な素材があったから」


 なるほど。

 僕が牢獄に閉じ込められている間、ジェニ姫なりに色々と考えてくれてたんだなあ。

 ツンケンしてたかと思うと、優しくなったり、実はものすごく僕に気を使ってくれてるんだなあ。

 同じ目的を持つ仲間として、心強いよ。


「じゃ、早速、ユルフンさんの店に行くわよ」

「まっ、待って!」


 僕はソウニンが戻って来ても困らない様に、行く先を置手紙に書いておいた。

 それを机の上に置き、飛ばない様に重しを乗せて置く。

 ジェニ姫は白いローブをはためかせながら、表に飛び出した。

 僕はその背中を見ながら思ったんだ。


 この世界がゲームみたいに何度もやり戻せたら、僕はどうするかなって。


 きっと、僕はパーティに入らない。

 無理やり加入させられない様に、僕はマリナを連れて辺境の地へ逃げる。

 そして、二人で誰もいない、誰も邪魔しに来ないその地で、死ぬまでずっと一緒に暮らす。


 あれ?


 これって、今の記憶があればこその行動なんだよな。

 ゲームだと死ぬ前の記憶がある……

 だけど、現実世界は死ぬ前の記憶何て無くて……


 もしかしたら、僕は何度も死に戻りを繰り返しているのか?

 否、そんなはずは……

 だけど、僕は産まれる前の記憶が無い。

 だから、ゲームみたいな死に戻りを繰り返していることを否定出来ない。


「ああ! わけが分からなくなって来た!」


 街の喧騒の中に飛び込む。

 圧倒的な情報量の前に、そんなことはどうでも良くなった。


つづく

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