第65話 人にどう思われているかがスゴイ気になる

 遂に僕はグラン王国に足を踏み入れた。

 大陸では最大の人口と面積を誇る。

 今までの国と大きく異なるのは、街を巡回する親衛隊の多さだ。

 グランの言うことなら何でも従う全身黒ずくめの集団。

 他の国では大人しかったが、ここ、グランのお膝元では国民の規律を正すため、常に周囲に監視の目を光らせている。

 ただ、入国に関しては驚くほどチェックは緩かった。

 他国からやってくる移民をほぼ、ノーチェックで受け入れていた。

 大量の人口を支えるために、移民の労働力が必要なのだろうか。

 僕らはその移民の群れに紛れることで、グラン王国に入国出来た。


「すごい活気ね」


 ジェニ姫が街の喧騒を見て、率直な感想を言う。

 彼女は目立たない様に顔を布で覆っていた。

 大きな瞳だけが露わになっている。


「相変わらず、ゴミゴミしてる。私は一年に一回ここに来るけど、ここの空気は本当にいつも汚れている」


 ソウニンが吐き捨てるように言う。

 確かに街は建物がひしめき合い、祭りでもやってるのかと思う程の人の群れ。

 その大群は巨大な虫の様でモゾモゾ動くたびに、大量の土ぼこりが舞う。

 大群の隙間を、これまた塵を巻き上げながら馬車や二輪車が通り過ぎて行く。

 遠くの空では高い煙突から、灰色に薄汚れた煙が立ち上っている。

 ソウニンもまた目立たない様に顔を布で隠していた。

 僕以外の二人は有名人だ。

 素顔のままでうろついていたら、親衛隊に目を付けられる。


「まずはギルドに行こう」


 僕は二人の先頭に立った。



「どんな冒険者を求めているのかな?」


 黒い外套を着た赤毛の女ギルドマスターがそう言う。

 外套の下は黒装束で、胸の部分が露わになっている。

 セクシー過ぎて僕は目のやり場に困った。


「心が読めるスキルを持つ人はいませんか?」


 僕は望む人物を伝えた。


「うーん」


 女ギルドマスターの名はヒロコ。

 ヒロコは小首を傾げ、眉根を寄せる。

 セクシーな身体とはギャップのある幼顔。

 僕はその仕草にドキドキした。

 そんな僕の脇腹を、ジェニ姫がドスッと肘で突く。


「一人知ってるけど、その人、引きこもりなの」

「引きこもり?」

「冒険者登録だけして、ギルドには来ないの。何でも心が読めるスキルに目覚めてからは、人間が嫌になったらしくて」


 僕はヒロコにお礼の金を払い、その引きこもりの家に向かった。


「ちょっと、何か物騒なところじゃない?」


 引きこもりこと、ダニーの家は表通りのすぐ裏手にある貧民街、つまりスラムの中にある。

 グラン王国の街はまるでハリボテだ。

 表は立派な建物と商店で飾られているが、一歩路地に入ると掃き溜めの様だ。

 そこには暴力の雰囲気と腐臭が漂う。


「あった!」


 地図の通り突き当りにダニーのものと思しき家がある。

 否、家というよりも掘立小屋と言った感じだ。

 板を四枚重ね合わせて四角い箱を作り、その上に申し訳程度にトタンを乗せた粗末さ。


「ダニーさん。いますか?」


 僕は扉越しに声を掛ける。


 返事はない。


「ダニーさん」

「うるさいな」


 男のしゃがれた声が返って来た。


「お前、俺の家を汚いと思ってるだろ? だったら来るんじゃねーよ!」


つづく

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