第42話 魔法学校始めます!

 石畳の広間の中心には魔法陣。

 その魔法陣の中央に、ロープで縛られた男が寝かされる。


カツカツ。


 奥の暗がりから、ヒールの鳴る音。

 音の主は、黒いローブに赤髪の女。

 タキシードの男と、兵士を伴っている。

 女がその男を見下ろし、こう言う。


「珍しいな。抵抗しない者がいるとは」


 今、僕の目の前にいるのは、かつて共に戦った仲間(恐らく僕だけがそう思っている)、『火』属性の魔法使いルビー。


「へへへ。噂には聞いてました。あなたは何者かを召喚するために、無実の罪の人間をこうして生贄にしているのでしょ」


 魔法陣の上に寝かされている男がルビーに問い掛ける。


「ふむ」

「どうせなら、天国にでも転生させてください。俺はこの世界にはうんざりなんだ」


 男は哀願口調でそう言う。

 さっき牢獄で一緒になった男。

 この男の言っていることが真実なら、次は僕が同じ目に合うはずだ。


「お前の望み通りの場所に転生させてやりたいが、私の召喚魔法はまだまだなのだ。もしかしたら地獄に転生するかもしれぬぞ」


 ルビーは自嘲するように笑った。

 男の顔色が変わる。


「ま、待ってくれ……」

降臨サモン


 男が暴れるのを無視して、ルビーは詠唱した。

 魔法陣の中心から光の柱が立ち昇り、男を白い光が包む。

 光の中から、


「ゲコゲコ」


 ルビーは舌打ちした。

 ガマガエルはピョコピョコとはね、ルビーの横を素通りして行った。


「次!」


 ルビーが声を荒げる。

 兵士が僕の腕を掴んで、魔法陣まで引きずって行く。


 まずいなあ。

 復讐したい相手ともうご対面とは。

 いつものパターンだと、商売に成功して仲間を集めて反乱するってパターンなのに……

 今の丸腰の僕じゃ勝てないよ。

 コブチャの仲間に、顔を変えられるスキルを持つ奴がいたな。

 そいつ、殺さずに仲間にしとけば良かったなあ。

 とか思ってた矢先、ルビーと目が合う。


「寝かせろ」


 あれ?

 ルビー、君は僕のことを覚えていないのかい?

 薄暗い部屋だからってのもあるが、同じ釜の飯を食った仲じゃないか。

 彼女にとって僕は眼中に無かったってわけか。

 機嫌が悪い時、散々僕の服に火を点けてくれたくせに。


「さてと……」


 ルビーが詠唱しようと口を開き掛けた時、


「待ってください! 僕は魔法学校を開こうと思ってます!」


 突拍子もない僕の発言に、ルビーは目が点になる。

 さっき転生させられた男が牢獄で教えてくれた。

 ルビーは召喚魔法が下手だから、沢山の人を犠牲にして来たと。

 ルビーはそんな自分に腹が立って、不機嫌だからこの国がずっと暑いままだということ。


「その学校は一流の召喚魔法使いを育成することが目的です。きっと、ルビー様が望む人を召喚出来る者を提供して見せます!」


 ルビーの目が光った。

 牢獄でずっと考えてた僕のアイディアが、彼女に響いたみたいだ。


「ルビー様」


 執事と思われるタキシードのイケメンが、ルビーに話し掛ける。


「この男の話が本当なら、任せてみるのも有りかと」

「トールス……」


 トールスと呼ばれた男は、控えめだがしっかりとした口調だった。

 冷静に物事を判断し提案しているようだ。


「分かった」


 ルビーは僕に向き直り、こう言った。


「一ヶ月以内に、最上級の召喚魔法使いを連れて来い!」


つづく

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