第36話 劇団コブチャ、演目は奇跡
病気の感染を恐れて、コブチャは城に閉じこもっている。
僕を中心とした元信者で構成された反乱軍は、コブチャの城を陥落させた。
意外と簡単に事は進んだ。
コブチャの城の兵士は同じくコブチャ教の信者だった。
真実を話したら仲間になってくれた。
駐留していたグラン王国の親衛隊が早々に撤退してくれたのも運が良かった。
そして今、僕はコブチャの座っていた玉座に座っている。
足元にはコブチャがボロボロの白装束姿で跪いている。
僕は口を開いた。
「何故、手かざしだけで人の傷を治すことが出来たのか?」
コブチャは僕の質問に、嫌な顔して答えた。
「私の様な上級治癒魔法使いなら、人に聞こえないくらいの小声で詠唱しても治癒魔法を発動出来る」
つまり、『奇跡』とは小声で発せられた治癒魔法だった。
「もう一つ質問。蘇生はどうやった?」
現代の治癒魔法では、人を蘇らせることは出来ない。
コブチャは既に死体となった仲間(モモ、サエ、カショ、シーザー)を見て、こう言った。
「あれは、あいつらと私の芝居だ」
「芝居だとしても、毎回、違う人を死体役にしていただろ? そんなに役者がいたのか?」
コブチャは、もうどうでもよくなったのか大笑いしてこう言った。
「シーザーは人の顔や身体を偽装するスキルを持っている。毎回、私の仲間達が違う人に見えたのはそのせいだろう」
教団の秘密を共有している者が多いと、秘密が漏洩する確率が高くなる。
だから、教団の秘密を共有している者は少ない方がいい。
だから、『奇跡』の芝居はコブチャとその仲間4人だけで行われていた。
「さあ、もう全部話したぞ。私の命だけは助けてくれよ。このクソ雑用係が」
「いや、まだだ、最後にもう一つ」
僕は彼の顔の前で人差し指を立てて見せた。
「グランの弱点を教えてくれ」
コブチャはビクリと震えた。
「それは……」
「タケルだって知ってるって言ってた。いつも除け者だった僕と違って、グランの側で戦ってたお前も知ってるはずだ」
「そんなこと話した何て、グラン王に知れたら俺は殺される」
「じゃ、やっぱり知ってるんだな」
またコブチャはビクリと震えた。
コブチャの首に光り輝く刃が添えられた。
「今、ここで死ぬか?」
タブが怒りに震えた声を出す。
少し離れた場所で、シヲリとマツヲが、洗脳から解けた両親と語り合っている。
元信者達が僕とコブチャのやり取りをじっと見ている。
「分かった。奴の弱点は……」
コブチャの口が開き掛けた時、ガラスばりの天井が崩れ落ち、光の玉が降り注いだ。
何て綺麗だと思っている間に、その光がコブチャを包んだ。
次の瞬間、彼は跡形も無く消えていた。
つづく
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