第22話 異世界金融道

 『スライムの欠片』で大儲けした僕は、稼いだ金を東の国の国民に分配しようと思ったんだ。


「ちょっと待て。お前、見ず知らずの人に金をあげるのか?」


 カズシが街へ行こうとする僕を止めた。


「そうだよ。タケルの課した重税に苦しむ人々にお金を渡して、一緒に力をつけて反乱を起こすんだ」

「お前のやり方は、ちょっと強引だぞ」

「なんで?」

「見ず知らずの奴がいきなりお前のとこにやって来て、金をやるって言ったとして、お前はもらうか? 何か裏があると思って怪しむだろ。普通に」


 確かに。


「でも、じゃあどうしよう」


 僕は考えた。


「そうだ」


 僕は閃いた。


「あげるんじゃなくて、貸してあげればいいんだ!」


 早速、僕はサチエに頼み込んで、タピオカ屋だった空家を借り直した。

 そして、そこに看板をかけた。


『ルキ金貸し屋 無担保、無利子でお貸します。返すのはいつでもいいです』


「あの〜」


 お客さんかな?


「はい」

「表の看板見たんですけど、本当ですか?」


 痩せて疲れた顔のおじさんが、訪ねて来た。


「はい。本当です」

「じゃ、10万エン貸してください!」


 おじさんは僕の前で土下座した。


「ちょっと。頭を上げてください。貸してあげますから」


 僕はポンとお金を渡した。


「返すのはいつでもいいですよ」

「ありがとうございます!」


 おじさんは何度も僕に頭を下げた。


「なるほど。考えたな」


 カズシが様子を見に来てくれた。


「貸し借りなら、お互い上下関係も無いからね」


 お客さんが次々、お金を借りに来た。

 皆、助かったと言って嬉しそうに帰って行く。

 僕はそれだけで、この商売をやって良かったと思った。


「でも、金を借りて行った奴らは、お前がなんで金を貸してるのか理解してるのか?」

「純粋に貸してるだけだから、僕の目的なんて知らないと思う」

「それでいいのかよ?」

「いいんだよ。下手に僕が反乱を起こすために金を渡してるって言ったら、皆来なくなる。まずは、僕が皆を助けてあげることから始めないと信頼関係が作れないよ」


 僕は『スライムの欠片』で儲けた金を、金貸し屋ですべて吐き出す。

 一週間ほどこのサイクルを繰り返した。

 その間、誰も借りたお金を返しに来ない。

 まるでお金が僕の間を通って右から左に流れて行ってるみたいだ。


「あの~」


 あ、一番最初にお金を借りに来たおじさんだ。


「いらっしゃい」

「お金を返しに来ました」

「え! もうですか!」


 まさか、返す人がいるなんて。

 おじさんは袋に入った10万エンを僕に渡した。

 そして、


「少ないですが、利子です」


 1万エンを渡してくれた。


「利子なんて、いいんですよ!」

「いえ、あなたは私の家族を助けてくれました。だから、これは私の気持ちです」


 僕はおじさんの話を聞いた。

 おじさんの家は街工場をやっていて、そこで建物を補強するためのネジを作っている。

 タケルは『スライムの欠片』の儲けが少なくなり、国民に更に重税を課すようになった。

 お金をたくさん取られたおじさんは、工場の資金繰りに困っていた。

 死に場所を探してさまよっていた時、僕の店を見つけたそうだ。


「おじさん......、すいません」


 僕が『スライムの欠片』で儲けたしわ寄せが、弱い人達に集まってたんだなあ。


「いやいや、あなたは悪くない。悪いのはタケルの奴だ! 私利私欲のためにあいつは......」


 僕は、もうタケルを殺したくてたまらなくなった。


つづく

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