第43話 スマホ


「夕食、ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

「喜んでもらえてよかったです」

 ふたりは、寝室で話していた。

 宰相の謀略以来、おなじ部屋で眠ることが当たり前になってしまったのだ。


 ただ、ベッドだけは別のものにしてもらった。少しだけ離して、布団に入る。王様が同じベッドで緊張してしまい、あんまり眠ることができなかったのだ。

 酒を飲みすぎて、記憶がないまま寝てしまったのだけど………… カツラギにとっては思いだしたくない黒歴史だ。

 

「あのポトフというスープが大好きになりました」

「よかった。母の得意料理なので、教わっておいて助かりました」

(ありがとう、お母さん)とカツラギは心の中で感謝する。

「いいですね。家族の思い出。少し憧れてしまいます」

「そうですよね」

 家族に憧れる王に少しだけドキっとしてまった。

「たまには、料理を作ってもらうのもいいですね。家族に料理を作ってもらったことなんて、もう10年以上なかったので……。とても嬉しかったですよ」

「本当によかった……」

 こっちの世界に来たばかりの時は、王は完璧超人だと思っていた。

 でも、知れば知るほど、普通の人で……。

 だから、いつも思うのだ。


「王様はいままで、寂しくなかったんですか?」

 聞いておいて、しまったと思った。つい口にでてしまった。

「そうですね~。確かに孤独感を感じたことはありますよ」

「……」

 彼は失礼な質問なのに、誠実に答えてくれた。

「責任は重いし、先代の王はいきなりいなくなってしまったし……」

「だったら……」

 王は微笑を浮かべながら、うなづく。

「それでも、わたしは借りた恩を返さなければいけないんです」

「……」

 なにも言い返せなかった。たぶん、彼女が言い返してはいけない問題だ。


「暗い話になってしまいましたね。ワインでも飲んで、話を変えましょう」

「はい」

 強引に話を変えられてしまった。ふたりでいつものようにワインを飲み、そして眠る。

 ここ数日、決まった部屋での過ごし方だった。

 そして、夜はふけていく……。

 更けて……


 まったく眠れないのだ。

 ワインを飲んで、別のベッドに入ってあとは寝るだけというところで、すでに2時間以上経過しているはずだ。王の吐息や寝返りの音にドキドキしてしまう自分がいた。

「くうううう」

 彼を起こさないように、彼女は声を押し殺して叫んだ。どうしても眠れないのだ。

 向こうの世界では、眠れないときはスマホをみて時間をつぶしたんだけど……。


(そういえば、自分のスマホってどうなっているんだろう?)


 一緒に落ちて来た鞄のなかをごそごそする。

 財布やアクセサリーといっしょにスマホはあった。

 落下の衝撃で、画面は少し割れていた。

「電池切れているだろうな~」

 こっちに来てから、もう2か月。普通なら電源なんて入らない。


 軽い気持ちで、電源を入れてみる。ブラックアウトだった画面にピカッと光が入る。

「えっ……」

 スマホは何の問題もなく起動したのだった……

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