婚約者に裏切られて、リストラされた私が、異世界に転移して聖女様に間違われて王様に溺愛される

D@ComicWalker漫画賞受賞

第0話 プロローグ

プロローグ


「キミとの婚約は、解消だ。キミは本当にいい駒だったよ。でも、利用価値はもうない。僕の前からいなくなってくれ」

「まさか、うちのエースだと思っていたキミがこんな不正に手を染めていたとはな。懲戒免職だよ。明日からキミの椅子はここにはないから」

「センパイ、早く婚約破棄に応じてくださいね。彼は、私が幸せにしますから」


 ※


 彼女は飛び起きる。また、夢を見た。

 向こうの世界の夢を。


 隣では王様が、寝ている。


 この人を本当に好きになってはいけない――彼女はこの言葉を何度、心で唱えただろうか。見知らぬ異世界で、唯一頼ることができる存在。他者から見れば、彼らは夫婦なのだけれど……超えられない壁というものが、ふたりの間にはあった。


「どうかしましたか? カツラギさん?」

 思い悩む妻を心配して、彼は彼女の顔を覗きこむ。どうやら起こしてしまったようだ。そんな何気ない動作でも、彼女の胸は弾むほどに高鳴ってしまう。

「いえ、大丈夫です。少し考え事をしていただけですから気にしないでください、陛下」

 あえて、距離をおいた話し方。これはトラウマが原因だろう。

「ふたりの時は、陛下はやめてくださいよ。一応、夫婦なんですから」

「そう、ですよね。わたしたち、形式上とはいえ夫婦ですものね」

「"形式上?”はー。まぁそうですね」

 彼女は自分で、形式上という言葉を使うのがとても悲しかった。この言葉を否定してもらいたい気持ちと、それによって今の居心地の良い関係が壊れてしまう恐怖で心はかき乱される。


「それでは、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

 同じ寝室で、別のベッドに向かう。彼の体温を感じていたいのに、それはできない。こんな、関係を続けて早半年だ。男の寝息が聞こえてくる。とても疲れていたのだろう。女はそんな彼に抱きつきたい気持ちに駆られる。

 でも、それは許されない。

 なぜなら、彼女たちは、契約夫婦なのだから……。


 彼を本当に好きになってはいけない。

 彼を本当に好きになってはいけない。

 彼を本当に好きになってはいけない。

 呪文のように、その言葉を繰り返す。彼女自身にいい聞かせる魔法の言葉。でも、気がついてしまうのだ。彼の前では魔法なんて、簡単になくなってしまうことに。だって、そんなことを考えてしまう時点ですでに……

 

 彼女は彼をどうしようもなく愛してしまっているのだから……


 どうして、こんなことになったのか。

 それは時計の針を半年前にもどさなくてはいけない。

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