第115話 俺とユピテルの決意

「うぅぅ……、恥ずかしい……」


「アグナム、今までで一番かわいい。セクシーだ──」


 カグヤは、恍惚の表情を浮かべている。


「それで、アグナム。私の感情を聞いてほしい。その──、私は恋をしてしまったようだ」


 こ、恋? 今の俺は女の子なんだぞ。

 予想もしなかった言葉に俺は言葉を失ってしまう。


 まさか、また女の子に好かれてしまうのか。


「あの時、闘技場でアグナムは私をかばってくれた。それ以来、アグナムのことを考えるだけで心臓がバクバクして、それ以外考えられなくなってしまうのだ。今も思い出す、アグナムの私に向けてくれた笑み。理解した。私は、アグナムのことを好きになってしまったのだ」


 そしてカグヤは深呼吸をして言い放った。


「これが、私の気持ちだ」




 なんとカグヤは自分の唇を俺の唇にそっと触れてきたのだ。

 そう、キスというやつだ。


 ふわふわとした唇、甘い香りが俺の理性を溶かしていく。



「せ、説明してくれ、いきなりキスなんて、唐突すぎるよ」


 顔を真っ赤にして、もじもじとさせている。


「すまない。同性同士、禁断の感情だというのはわかっている、しかし、疼いてしまっているんだ。止められないんだ──」


 待って待っていきなりキスなんて、やめてくれ!


 俺の気持ちに聞く耳すら持たずに、カグヤはキスを再開する。


 恍惚な表情、思わずドキッとしてしまう。

 しかも今度は、ただのキスではない。舌を無理やり入れてきたのだ。俺の口の中をむさぼりつくすといわんばかりに激しく俺の口の中で暴れまわる。


「はっきりと言わせてもらう。好きだ。お前のことが」


 大胆な告白。そんなこと急に言われても。


 そんなことを考えていると、カグヤは自身の唾液を俺の口の中に次々に送り込んできた。

 ほんのりと甘くて、とろりとした液体。

 目をつぶり、美しさを醸し出したカグヤの表情とともに、媚薬のように俺の欲情を誘い、ドキドキが止まらない。


 俺も、彼女の唇や、口の中を味わいたいという感情に駆られてしまう。



 時間にして数分ではあったが、永遠のように感じられた時間。


 双方の唇に、ねっとりとした唾液のつり橋がかかり、それがぽとりと落ちる。


「な、なんでこんなことを?」


 俺は動揺を隠せないまま質問する。


「お前のイケメンすぎる行動がすべて悪い。格好良すぎる、強すぎる、責任、取ってくれよ!」


「責任、俺が何をしたというんだ!」


「私を虜にした責任だ。お前は私の夫だ。婿になってくれ」

 カグヤは人差し指で唇についた二人の唾液を口の中に入れた後、にっこりを笑みを浮かべて言う。


 婿になってくれ。突然の告白。さすがに戸惑ってしまう。

 時間にして数分だろうか。俺はどう言葉を返そうか考えこみ沈黙してしまう。




 そして、俺は答えを出す。


「カグヤ。その気持ちはありがとう。とても嬉しいよ。でも、気持ちはありがたいけれど俺は付き合えない。まだまだやることがいっぱいあるし、だから、友達ってことじゃダメかな?」


 カグヤは、フッと微笑を浮かべ、俺を見つめる。

 表情から理解した。どうやら理性を取り戻したようだ


「まあ、そうだね。いきなり交際を迫るなんて、ちょっとやりすぎてしまったね。わかった。これからも親友としてよろしく頼むよ」


「ご、ごめんね……」


「いいよ、私もさすがにやり過ぎた。だから、時々でいい。これからも、私のかっこいい王子様でいてくれよ。アグナム」


 以外にも了承してくれた。レテフとは大違いだ。

 しかし、女の子から告白されるなんて思いもよらなかった。びっくりしちゃった。



 まあ、女の子同士のキスにもなれたし、たまにならいいか。


「本当に時々だよ。それでいいなら、いいよ」


 そう言ってカグヤは俺に微笑を向けてくる。

 その微笑はまるで天使のようだ。とても綺麗で、凛々しく美しい。

 しょうがないな、たまにだけだよ。



 そんなことを考えながら感傷に浸っていると──。


「お、お前たち……、いつの間にそんな関係になっていたのか──」


「ユ、ユピテル。いつの間にここに来ていたんだ?」



 何と扉の前にはユピテルの姿が──。


 腕を組んでいて冷静ではあるものの、俺達を冷ややかな目つきで見ているのがわかる。


 俺のあられもない姿。裸エプロンの格好が丸見えになっている。正直とても恥ずかしい。


「ご、ごめん。これは……。その──」


「とっとと着替えろ。これから真剣な話があるんだ」


 その言葉に俺はすぐに元の服装に着替える。エプロンを脱いだ後、ブラジャーとパンツを付け、服を着る。


 そして服を着ると、部屋の外に居るユピテルに恐る恐る声をかける。


「ごめん、着替えの方終わったよ」


「痴れ事は済んだか?」


 ユピテルはこっちから目を背けながら話しかけてくる。

 その言葉に動揺しながらも俺は言葉を返す。


「まあ、それで、ユピテルは何でここに来たの?」



「先ずは、ドラパとの戦い。俺が倒れたことも戦い、勝利したこと。礼を言わせてもらう。お前がいなければ、アイツに勝利することは不可能だった」



「しかし、決勝戦は本気で戦わせてもらう。そして、今度こそ俺は貴様を倒し、最強となる」



「望むところだよ。こっちこそ本気で戦わせてもらう。その時は、今度こそ正面から戦って、勝って見せるよ」




 その後も、俺たちはいろいろな会話をした。この後の予定や、活動内容について──。


 魔法少女の今後についても話した。

 そして夜になり、俺がメイドとして手料理をふるう。もちろん裸エプロン姿で。


 料理をしていると、背中や大きなお尻がカグヤから丸見えになってしまっていて恥ずかしい。


「おおっ、大きくてきれいな丸いお尻。とてもセクシーで素敵だよ」


 そんなこと、わざわざ口にしなくていいから!

 料理は、簡単なものしかできなかった。あんまり料理とか作ったことがないから。


 それでもカグヤはおいしいと言ってくれた。とても嬉しい。

 そうして一日が過ぎていった。


 分かれの時間となる。


「じゃあね。カグヤ、ユピテル」


「ありがとう。今日は世話になった。また私のメイド、やってくれよな」


「い、いや、もういいです」


「ハハハ、冗談だ。では、これからは私の大切な親友として、よろしく頼むよ」


「俺も帰る。アグナム、今度の決勝戦は、全力で戦おう」



 その後、メイド服から私服へと着替え帰路に就く。

 日が落ちた、暗闇の道を行きながら俺は考える。

 決勝戦、ユピテルとの戦い。以前の様に奇襲を仕掛けても確実に通用しないだろう。


 確実に厳しい戦いになる。けれど、彼女が全力で戦うと言っているのだから、俺も全力で戦わないと失礼だ。


 そして、全力で戦って俺は勝つ。


 そんな強い想いを胸に、俺はこの場所を去っていった。

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