第114話 今度は、〇エプロンに──

「お待たせいたしました、ご主人様──」


 俺はたどたどしくお盆にあるコーヒーを机に置く。



 報酬は、魔法を使わない仕事としては破格の値段だ。

 ユピテルとの決戦を控えている手前、魔力や体力を浪費したくはない俺にとっては願ってもない仕事だ。


 カグヤは机にあるコーヒーを口に入れた後、キラキラした目つきで行ってくる。



 俺もコーヒーをゆっくりと口に入れた。

 とてもおいしい。今まで飲んだことがない味と香り。


 カグヤも上品なそぶりでコーヒーをすすり一言。


「素晴らしい。アグナムが煎れてくれたからだろうね」


 そしてコーヒーを半分ほど飲み干すと、カグヤが視線をベランダの外へと向けた。


 ベランダからはきれいな草原や山々などが一望できとても景色がいい。

 そよ風が俺の髪をなびかせ、それを戻そうと自分の髪をなでていると、カグヤが話しかけてくる。


「アグナム……」


「何? カグヤ」


「私を──、助けてくれてありがとう。私はあなたに、ひどいことをしたというのに」


 その言葉を放つ瞳は、虚ろで、とても弱っている。

 とりあえず、言葉を返さなきゃ。


「お礼なんて、いらないよ」


「え──?」


 その言葉に、カグヤははっと驚く。


「闘技場でカグヤと戦っていて、なんとなく感じたんだ。どこか、感情を封印しているんじゃないかって。強がっているんじゃないかって」


 そして俺はカグヤに近づき、彼女の両手をぎゅっと握る。

 どう言葉を返すか、俺は少し悩む。けれど、変に取りつくろってもしょうがない。ここは自分の気持ちを正直に伝えよう。



「俺は、闘いながら感じていたんだ。カグヤがどこか自暴自棄になっていること。もしこの状態のカグヤが俺に勝ってしまったら、その路線をいつまでも続けてしまう。心の中に、本当はこんなことをしたくはないというわだかまりを抱えながら」


「え……、あ──」


 カグヤは、言葉を失っている。突然のことに、驚いてしまっているのだろうか──。


「そんなカグヤは、俺は絶対に見たくない。出会って間もないけれど、そんなアウトローで心の中で悲しみを抱えたカグヤより、最初に戦った時のような自分に自信を持ち、正々堂々と騎士道を貫くカグヤのほうがかっこいいし、似合っているからだ。また、元のカグヤに戻ってほしいから──」


 そんなことを、俺はカグヤに正直に伝えた。


 どこか恥ずかしい気持ちになり、にっこりと笑い、ウィンクをしてごまかす。


 その瞬間、カグヤははっとした表情になり、顔を真っ赤にしてしまう。

 俺、何かやっちゃったのかな?


 するとカグヤはにっこりと微笑を浮かべ言葉を返す。


「わかったよ、私は、もうこんなことはしない。以前の私に戻る」


「それはよかった。これからは、よろしくね」


 それなら心強い。彼女はもともと騎士道にあふれた正義感のある魔法少女。本来の心を取り戻せば、有事の際は俺達と一緒に戦ってくれるだろう。


 これからは、仲間として行動をしよう。

 しかしカグヤは、まだ顔を赤くしている。熱でもあるのかな?



「フフッ、君は罪作りな女の子だね。この私の心を奪ってしまうとは。責任は、とってもらうぞ」


 えっ、俺なんかしちゃったかな? 女心というのは、やっぱりよくわからない。

 それから、カグヤが顔を赤くし、もじもじとしながら話しかけてくる。


「あと、アグナム。次なんだが──、これを着てほしいんだが、いいかな?」


 そう言いながら俺に見せつけてきたのは白いエプロンだ。特に刺激的なところがあるわけでもない家庭的なエプロン。


 もっと過激な服を要求してくると思ったんだが意外だ。

 家庭的な姿が意外と好きなのかな?


 あれなら、こんなパンツが見えてしまったり胸元が丸見えなメイド服より着易いだろう。


「いいよ、じゃあ着替えてくるね」


「待ってくれ、ここで、生着替えがいい。


 生着替え──、まあ女の子同士だし仕方ないか。


 そして俺はまずメイド服を脱ぐ。俺が服を脱ぐたびにカグヤは生唾をごっくんとさせている。

 目が俺の体に行き、じっと凝視しているのがわかる。



 そして下着姿になり、服を着ようとするとカグヤがそれを止めてきた。



「まて、エプロンの下に服を着るなんておかしいだろう。まあ、千歩譲って下着くらいは許可していいが、それ以外は着てはだめだ」


「まて、おかしいぞカグヤ。普通は服を着てからその上にエプロンを着るんだぞ」


 そうだ。俺の言っていることは何にもおかしくはない。

 それが常識だ。サナだって料理を作っているときはそうしている。


「え? エプロンの下には何も着ないというのが定番だろ、こういう時は。それもメイドとしての仕事のうちだ。お願いだ、少しの間だけでいいから──」


 懇願してくるカグヤ。


 仕方がない。俺は下着姿のまま俺はエプロンをつける。


「おおっ、す、素晴らしい」


 カグヤは目をギラギラとさせながら羨望のまなざしで俺を見つめてくる。

 裸エプロンというやつだ。

 特にまずいのは後ろを向いた時だ。下着とパンツ以外なにもさえぎるものがない。俺の体が丸見えになってしまっている。


 羞恥心で今にも逃げ出してしまいそうだ。


「うぅぅ……、恥ずかしい……」

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