第48話 優勝、返品、楽しい日々

 

「何? この僕が、負けた?」


 身体をフリーズさせ、呆然としている。そして顔が青ざめているのがわかる。今はそっとしておこう。



 そして海の家に上がり、表彰。おめでとうの声に拍手。なんか照れるな。

 隣には不満そうに顔を膨れさせるローチェ。


 周囲に気づかれないように小声で俺に話しかける。


「はは~ん。僕、わかちゃった~~。アグナムの秘密」


 秘密? 嘘だろ……。男だたってことか? それとも異世界から来たこととかか──

 。


 何を気づいたんだ?


「では賞金とメダルをお渡しいたします。どうぞ」


 司会のお姉さんが俺たちにメダルと賞金の金貨などを渡してきた。

 そして解散。


 俺は真っ先にダッシュで受付にいるミュクシーに詰め寄る。


「なんだ、眉間にしわを寄せて。かわいい顔が台無しだぞ。あと優勝おめでとうな」


「なんだよじゃない。何だよあのエロ水着は。話が違うじゃないか!」


 俺が必死に抗議するが、ミュクシーはにっこりと笑い気にも留めない。


「ああ、ごめんね。水着を袋に入れるときに間違えて別の水着をたまたま入れちゃったんだよ(棒)」


「なんだよ(棒)って。絶対わざとやったろ。恥ずかしかったんだぞ!」


「すまんすまん。普通の水着と取り換えてやるから」


 そして、もともと渡す予定だった水着を俺に渡してくる。俺はサッと水着を受け取ると走って更衣室に入る。


 そして数分で着替えは完了。今度は普通の水色のビキニの水着だ。


 再びミュクシーの所へ。


「すまなかったな。んで、その水着はどうするんだい?」


「着るわけないだろ。返すよ」


 当たり前だろ。もう着たくない。ちょっとイラっとしながら水着を返すと──。


「わかった。捨てるんだね、私に任せな」


 そしてミュクシーは俺が来たマイクロビキニを、持ち上げ。


「さっきまでアグナムが着ていたこのマイクロビキニ。今からオークション形式で一番高い値を付けたやつに売ってやる。さあ、どんどん金額を言ってくれ!」


 ミュクシーの言葉に、この場は一瞬沈黙。そして──。


「銀貨1枚」


「銀貨2枚」


 すぐに男たちから歓喜の叫び声がわき始め、オークションが始まる。


「やったぜ、あのアグナムちゃんの水着だろ」


「クンカクンカしたい。抱きしめたい」


 見る見るうちに価格が高騰していく。おまけに欲望をドストレートに叫ぶ奴が出る始末。すぐにミュクシーに抗議する。


「待ってくれ。何勝手なことやっているんだよ!」


 しかしミュクシーは動じない。


「あ? お前返すって言ったよな。だったらお前の物じゃなく私のものだ。私のものをどうしようと私の勝手だろ? 違うか?」


 ぐぬぬ。こいつ、初めっからそうする気だったな……。


「金貨1枚!」


「しょうがねぇ。金貨2枚」


 一本取られた。そういっている間にさらにこの場は、盛り上がっていく。

 恥ずかしい。ここにいれなくなり、サナ達の元へ。


 海の家の外に、サナたちはいた。


「ごめん。ミュクシーツッコミを入れていて遅くなった」


「なんか、大変なことになっちゃってるね」


「私も、アグナムの使用済み水着欲しい!」


 ……もはや突っ込む気にすらならない。


「とりあえず、海に行かない」


 ──リヒレか、せっかく海に来たんだ。そうしよう。


「うんそうだね」


 そして俺たちは海へ。ぷかぷかと波に揺られながら、気持ちよく過ごしていると──。


「アグナムさん、かわいいしスタイルもいいね。一緒に遊ばない?」


「そこの女の子たち、俺とお茶しようよ」


 時々男たちにナンパされる。まいったな──。その都度丁寧にお断りしているのだが。


「何だよ固いなー、ちょっとくらいいいだろ」


 もみっ!


 何とナンパしてきたやつの一人が俺の胸をもんできたのだ。背筋が凍り、身体全身に恐怖を感じる。


「アグナムちゃんになにするの?」


「そうよ、ミンチにされたいの? 私のアグナムになんてことを!」


「アグナム、あの魔法少女の? す、すいませんでした~」


 男は尻尾を巻いて逃げていく。全く、だったら最初からするなよ。まあ、その他にもおしりを触られたりしたのだが……。その姿を見たサナは──。


「アグナムちゃんモテモテだね。うりうり~~」


 サナがからかうように肘で俺の二の腕をツンツンする。


「そうよ。アグナムには私がいるの。私だけ見ていればいいのよ」


「突っ込まないからね」


 そして俺たちは4人で海で遊ぶ。波の感覚を楽しんだり。海水をかけ合ったり。

 なんか新鮮な気分だった。


 元の世界では、こうして友達同士で海で遊ぶなんてことはなかった。いつも1人でゲームに没頭していたりしていた。

 だから、とても楽しく感じられたのだ。


 疲れも知らなくらい、海で遊ぶ。

 あっという間に夕方になる。他人と一緒にいて、こんな感覚は初めてだ。


「そろそろ、帰ろうか」


 リヒレの言葉を聞いて、初めて時間の存在を思い出す。そして海から上がる。

 海に反射する夕日は、今まで見たことがないくらい綺麗だった。


「すごい、きれいだよ。夕日」


「そうだね、サナ」


 もっと、サナたちと、一緒にいられたらいいな。

 心の底から強く思った。

 また明日から大変な日々が始まる。けど、頑張っていこう。


 そう強く、心に誓った。

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