第30話 憧れの、魔法少女に

「わ、わかったよ」


 軽快なステップをとりながら、リヒレが部屋の外に出ていく。俺も後をついていく形になる。


 そして外へ。


 周囲の視線が集中しているのがわかりとても誇らしい気分になる。すると、道の向こうから女の子2人が歩いてくる。女の子たちは俺たちに気付くなり話しかけてきた。


「あれ、魔法少女じゃない? 頑張ってください。私、応援しています」


「あ、ありがとうね。私頑張る」


 リヒレが羨望の眼差しや言葉を浴び、とても満足気な表情をしている。ちょっと声をかけてみようか。


「リヒレ、魔法少女の姿はどう?」


「さ、最高。フリフリで、かわいくて、かっこよくて、みんなの憧れの的になって。本当に素敵。夢みたい、どうしよう。興奮しすぎてどうすればいいのかわからない」


 いつもの落ち着いた雰囲気からは、想像もつかないほどハイテンションで俺に迫ってくる。よほど憧れていたんだろうな。


「と、とりあえず落ち着こう。それでそこらじゅうを歩いてみる?」


「うんうん、歩いてみたい!」


 そして再び街を歩く。出店のパフェを食べたり、手をつないだり、野良猫と遊んだり。

 時折リヒレにがんばれと声をかける住人、かけられるごとにリヒレの表情が喜びに染まっていくのがわかる。


 そして30分ほど街中を歩く、小さな広場のベンチに座り休憩。


「さすがに歩きすぎちゃったな。ちょっと疲れちゃった」


 やっぱり女の子の体。男だったときより息切れしやすい。リヒレもさすがに疲れたようで、俺の隣にベンチに座り込む。


 ベンチに座ると俺は、リヒレと会話を楽しむ。


「夢のような時間です。本当にありがとうございます」


「いいよ。リヒレが喜んでくれて俺もうれしいし」


 すると、リヒレがシュンとうつむきは決める。


「確かに、魔法少女の姿になって羨望のまなざしを受けていました」


 今の言葉を聞いて、リヒレが落ち込んでいる理由がなんとなくわかった。


「けど、それは魔法少女の姿をしているから。けど本当の私は魔法少女ではないし、誰も助けることはできない」


 なるほどな。魔法が使えないから、いつもレテフに守られてばっかりだったな。どこかで自信をつけさせてあげたいな。彼女──。


「でも、そういう気持ちは周囲にも伝わると思う。だから、そこまで気にしないで?」


 とりあえず今は、そう問いかけるしかできない。するとリヒレは丁寧にぺこりと頭を下げ始めた。


「ありがとう、ございます。少し、元気が湧いてきました」


 リヒレが微笑を浮かべながら言葉を返す。

 その言葉に俺はホッとした。


「ちょっと、トイレに行きたいわ。ここで待っててもらっていい?」


 そしてリヒレはトイレに行き、それを済ませる。当然俺はベンチにいて彼女は1人だ。

 それが落とし穴だったと俺はまだ知る由もない。



 石鹸で手を洗い、タオルで手を拭いた後に事件は起きた。




 スッ――!


(えっ! 今の何?)


 リヒレが何か背後に気配を感じ、背後を振り向く。しかし誰もいない。しかし今確実に物音がした。


 周囲をキョロキョロさせる。

 そして──。


「誰?」


 ピンク色の髪の毛、猫耳をつけた少女がこっちに接近してくる。目にもとまらぬ速さで一般人の彼女にはどうしようもない。


 ドン──。


 その少女の1撃。

 彼女の意識はテレビのスイッチが切れたテレビのようにプツリとそこで閉じた。



 そして外にいる俺。


「トイレ、長いな……」


 リヒレがトイレに行ってから10分以上たっている。トイレが混んでいる様子はない。

 入り口を見ていたが怪しい人物が出てきたりもしていない。


「心配だな。ちょっと見てみるか――」


 俺はゆっくりとした足取りで、男子トイレに入っていく。


(じゃなかった、今の俺は女の子。こっちだ)


 すぐに方向を変えて女子トイレへ。すると――。


「リヒレ、大丈夫?」


 なんと、洗面所のところでリヒレが倒れこんでいたのだ。慌てて俺はそこに駆け寄る。


「大丈夫? しっかりして」



 俺はリヒレを抱きかかえ話しかけるが、彼女は目を覚まさない。

 息はあるみたいだし、とりあえず病院に行こう。


 俺は彼女を抱きかかえ、病院へ。

 病院へ連れて行った後、レテフとサナも病院へ呼んだ。


「リヒレちゃん。大丈夫」


「リヒレ、どうしたの?」


 俺たち3人でリヒレのベッドに行く。するとすでに彼女は意識を取り戻していた。よかった、無事だ。

 リヒレが声に反応し上半身を起き上がらせ。俺達に視線を向ける。


「レテフ。何があったの、教えて?」


 レテフの問いかけにリヒレは、何かを言おうとしゃべろうとするが、すぐに両手ではっとほをかむってしまう。


 何か言えないことでもあるのだろうか。


「とりあえず、何があったか教えてほしいんだ」


「アグナムさん──。その、襲われたんです……ニャ」


 その言葉に俺達は言葉を失う。俺が魔法少女の衣装を貸したばっかりに魔法少女狩りに。


「聞いたことがある。魔法使いを狙った通り魔事件。まさか衣装を貸したタイミングで狙われるだなんて、不幸にも程があるよね」


「そうだなサナ。何か悪い事をしたな」


 貸していなかったら俺が襲われていたってことだよな。


「アグナムは、悪くない……ニャ。落ち込む必要は、ないよ──ニャ」


 そして俺は変な語尾は無視してその時の情報を聞き出す。犯人め、絶対に捕まえる。


「私はただトイレから外に出ようとしただけニャ」


 しかしどうすればいいのだろうか、確か聞いた話だと襲われるときの証言では姿かたちも見えないって。


「私、姿かたち、見たよ──ニャ」

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