第31話 犯人は、こいつ……ニャ

「私、姿かたち、見たよ──ニャ」



「うそ、じゃあ教えてくれる」


「確かギルドには全員の顔がわかるシステムがあるはずよ」


 そしてリヒレは1人の魔法使いの姿に驚愕し、指をさす。


「こ、この人です」


 ピンク色でふわふわな髪をしている少女。


「ニャロロじゃないか」


 何と相手は先日俺が戦った相手だ。


「確か実力は中堅以下、猫耳が特徴で、そこまで強い魔法少女ではないわね。とても何人もの魔法少女を襲える実力があるとは思えないわ」


「隠しているんじゃないのか? 裏仕事で稼いでいるんだったら、普段は本当の力を使わないで地味なポジションにおいて、人のいないところで本当の力を使うとか、そういうことだってやりかねないな」


 とりあえずニャロロを捕まえるのが優先だ。しかしどうやって捕まえるか、いろいろ聞き込みとか考えてみよう。



「それは、そうとちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかなリヒレ……」


 俺の質問にリヒレは気まずい表情で目を合わせる。


「その語尾なんだけどさ、マイブームなの?」


「私も、それは気になっていたわ。こういう深刻な時は、そういうのはやめたほうがいいと思うの」


 俺だけでなくレテフも突っ込みを入れる。変わった語尾をつけるのがダメと言っているわけではない。けどこういう真剣な場では人によっては失礼に値するかもしれない。

 リヒレ自体は分別をわきまえた真面目な女の子。オブラートに優しく指摘すれば理解してくれるだろう。



「わ、私だってわかっているわニャ。変な語尾だってニャ。でも自分でもどうすることもできないニャ」


 涙目になりながら必死に叫ぶリヒレ。その必死さ、演技ではないことがよくわかる。

 どういうことなんだ。


「リヒレちゃん、どういうこと? 私に聞かせて」


 サナの問いにリヒレは、両手をあわあわとしながらうつむいて答え始める。


「理由はわからない……ニャ。もうしゃべるのが、つらい……ニャ」


 簡潔に説明すると、語尾に「ニャ」をつけたいという強迫観念に支配されてしまい、「ニャ」をつけない限り気持ち悪いような心が詰まるような感覚になってしまうらしい。




 そしてニャと語尾に言葉を付けた途端、心が不思議と安堵し、満たされるような感覚になってしまうのだ。

 頭では理解しても、心の中がそういう風に動いてしまう。そんな感じだった。


「自分でも止められないのよニャ。早く何とかしてほしいのニャ」


 顔が真っ赤になる。よほど恥ずかしいのだろう。本人も辛そうだし、あまり話し開けないほうがいいだろう。


「けど、どうしましょう? 直接聞いたところで、すんなり認めてくれるとは、思えないだろうし」


「とりあえず彼女についてほかの魔法少女から聞いてみよう、まずは聞き込み調査だ」


 その言葉にサナとレテフは首を縦に振る。


 いろいろやることはあるけど、まずは彼女がどこにいるかを知らなければどうすることもできない。とりあえずギルドに行ってみよう。


 俺たちは10分ほど歩いてギルドへ。魔法少女たちの集団に話を聞いてみると?




「うちの友達も通り魔に襲われたんよ。そいで、口調も彼女みたいになってしもうて、」


「みんなあの地区で襲われているみたいなんよ。それも相手が見えないんだと。気づいたら意識を失ってしまったってきいたぞ」


 なるほど、姿を消せるから俺が入り口にいても気づかなかったのか。あれ? じゃあなんでリヒレにはあいつの姿が見えたんだ? 何か制約でもあったのか、いや、あったらそもそも襲わないはずだ。


 う~ん、ちょっとわからないや。とりあえず魔法少女を襲う。姿を消せるのが特徴ということか。


 まあ、敵の情報がわかればそこから戦略は立てられる。よし、いい作戦をひらめいたぞ。


「サナ、レテフ。とりあえず作戦が決まったから説明するね」


 俺の言葉に2人が耳を傾け始める。


 しかし敵の狙いは何なんだ? 拉致監禁するわけでもなく、金目のものを盗むわけでもない。猫語にするだけ。

 とりあえず、それは後で考えよう。


「じゃあ俺がその場所に一人でいる。それも魔法少女の姿をして。それと、姿が見えないだけなら秘策はある。ちょっと耳を貸してくれるかな?」


 そして俺は秘策を3人に伝える。

 ひそひそ……。



「へぇっ、アグナムちゃん天才だよ。いい作戦だと思うよ」


「私も同感だわ。さすが私のアグナム。素晴らしいわ」


 リヒレも微笑を浮かべてコクリとうなずく。話したくないが賛成ということだろう。

 まあ、簡単に言えば釣りと一緒だ。俺魔法少女になりが餌役になるということだ。



(ただその中で、一番問題なのがリヒレなんだよな)


 リヒレは唯一犯人の名前を知っている。彼女を変装させて、ニャロロに気づかれないようにして俺の背後をつけてもらう。それで、罠を仕掛けた場所で立ち止まっている俺に、そいつが現れたら俺に知らせてもらう。

 それが作戦の肝なんだが。


「協力してくれる。リヒレ?」


 俺が問いかけるとリヒレは、体を怯えさせ、目をきょろきょろとさせる。明らかにおびえた様子。

 そりゃそうだよな、いきなり襲われたんだから。仕方ない、ほかの手を考えてみ──。


「協力する、……ニャ」


「リヒレ、無理しなくていいよ」


「違うのニャ。私も、力になりたいのニャ」


「私、魔法が使えなくて、いつも守ってもらってばかりだったの……ニャ。けど、守ってばかりなのは、イヤなの──ニャ。私も、アグナムさんやみんなみたいに力になりたいニャ」


 レテフの体は震え、びくびくしている。しかしその眼には強い意志と勇気が入っているのがわかる。

 カラ元気でも演技でもない強い決意。それなら、断るのは逆に失礼だ。


「わかった、でも襲われそうになったらすぐに俺を頼って、それだけは約束して」


 コクリ──。


 リヒレは何も言わずに首を縦に振る。

 涙目ながらも、その瞳には強い意志が混じっているのを強く感じた。

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