第2話 この感覚。本当に女の子だ

「それで、私と契約して、魔法少女にならない?」






「──やだ」



「えっ~~~~!!」


 即答での返事。パージは両手を頭で押さえショックを受けている。当然だ、いきなりなれといたって無理があるだろ。


 それだけじゃない。もしかしたら、魔法少女アニメのお約束のように、詐欺まがいの契約内容で負けたら死ぬ、とか残酷な世界や戦いが待ってたり過酷な条件だったりとかだってあり得るからな。


「せめてどんな世界で戦うかとか、危険じゃない事を保障してくれよ。どんな世界かだってわからないんだぞ俺は」


「それもそうね。分かったわ、ざっくりとだけ説明するわ。簡単に言うと、中世のヨーロッパくらいのレベルで魔法が使える世界。それだけ、別に頭部を変な怪獣に食いちぎられるとか、残酷な殺し合いとかないから、約束するから」


「つまり、死が隣り合わせにあるような過酷な世界ではないってことだな」


「当たり前よ。そんな世界だったら平和な世界で暮らしている人なんて呼ばないわ。恐怖におびえて使い物にならないもの。治安だってあなたの住んでいる国とそこまで変わらないわ。だからお願い!! 高い個体値のあなたの力が必要なの。こっちの事も私が何とかするから」


 必死に頼みこんでくるパージ。信用していいものか、この会話自体も本当かどうか疑わしい。


「あなたはここで死ぬのを帳消しにできる上にあこがれの魔法少女になれる。私達は強い個体値をもった魔法少女を得ることが出来て、向こうの世界を救うことができる。双方がメリットを享受できる素敵な提案じゃない? ね? ね? 魔法少女になってよ」


 向こうの世界を救う、確かに興味がある、俺がその世界に行くことで救えることがあるならぜひ行ってみたい。けど──。


「俺の外観わかるか、男だぞ? 魔法少女にはなれないんじゃないのか」


「魔法少女には、男の人でもなれる。変身すると、体は女の子になるわ。勿論、女の子のままで生活を送ることも可能よ」


 マジかよ──。


 それと気になることがもう1つ、聞いてみるか。


「俺が向こうの世界に行ったら、この世界での俺の扱いはどうなるんだ?」


 確かに俺は誰からも必要とされない人生を送っている。しかし突然俺が向こうの世界から消えたら、周りは大慌てだろう。流石に最後に周囲に迷惑をかけたくはない。


「私がいろいろ運命とかいじくるから、あなたが行方不明扱いになるみたいに周囲が悲しむなんてことはしないわ。そこは、私に任せて頂戴。何度も言うけど、あなたの力が必要なのよ。敵が迫っているのよ」


 そう言いながらパージは右手で自分の胸をポンとたたく。自信ありそうな態度で。


 パージの言うこと、正直信じていいか困る。しかしこいつはさっき、俺に迫りくるトラックを指1本で止めるという人間ではありえない行動を行った。そして指パッチン1つで俺をこの世界に送り込んだという事実がある。


 人間ではこうはありえない。信じてみる価値はありそうだ。それに、必要とされているといのなら、ここは引くわけにはいかないでしょ。


「まあ、どうせあなたが助けてくれなかったら俺は死んでいたんだ。なればいいんだろ魔法少女に。いいよ」


 彼女は目をキラキラと輝かせる。演技という訳でもなさそうだ。まあ、そこまで俺を求めているのなら、仕方がないか──。


「わかったよ、引き受ければいいんだろ。俺を助けてくれた恩もあるしな」


 俺は首を縦に振る。これで俺も憧れの魔法少女だ。不安な気持ちと、わくわくした気持ちが同じくらいって感じの複雑な気分だ。


「ありがとう!! 児玉さん、恩に来るわ。じゃあ、今から行くわね!!」


 女神ははっと明るい表情になる。そして俺に向かって右手をかざす、すると右手が白く光り始める。

 そして俺の体が強く光り始めると、パージがバイバイの素振りをして話しかけてきた。


「じゃあ、向こうの世界に着いたときはあなたは魔法少女になっているように設定しておくわね。素敵な異世界生活を過ごしましょう?」


 その言葉を最後に目の前が真っ暗になり、俺の意識が一端なくなる。初めての異世界生活、魔法少女、期待不安の気持ちを胸に、俺は別世界へ旅立った。












 そして俺を包んでいた光が消え、向こうの異世界の地に召喚された。


 う、ううう……。



 そして目が覚める。まずは体の状態を確かめる。ここで話は冒頭に戻る。


 滑らかな肌、水風船のような柔らかさと、両手でつかめるくらいの大きい胸。

 お亡くなりの息子。



「な、なんだこれ……って声も?」


 声もちょっと低めの女の子の声になっている。当然と言えば当然だよな……。




 そして俺の目の前にパージが現れる。


「見てたわよ。あなたが女の子になった時の反応。結構可愛かったわ」


 う、うるさいな……、しょうがないだろ。

 パージがピッと指をはじくと、俺の目の前に鏡が現れる。


「どう、かわいいでしょ?」


「こ、これが──、俺?」


 そこに映っているのはもちろん自分の姿。

 灰色の髪色は顎くらいまでかかったセミロングの髪、かわいい顔つきになっていていかにも女の子らしい外見になっている。


「服も、かわいい服を着せてあげるわ」


 すると俺の体の周りが光り始める。そして全裸だったはずの体が光り始める。その体を包んだ光に色がつき始め、全裸だったはずの体の周りに何かがまとわり付くような感覚がし始めた。


 視線を下に向けると、それが服であるということが分かる。


 服装、白を基調としたワンピースだが、胸元が結構はだけている。

 自身の豊満な胸の谷間が見えてしまっていて正直恥ずかしい。それだけじゃない、胸とおしりの周りの部分が何か柔らかいものでピッチリと絞めつけられているのを感じる。


 慌てて服の中に手を入れ何があるのかを確かめる。予想はしていたが、やはり女の子の下着だ。ブラジャーとパンツ──。


 体験したことがない、体を押さえつけられるような感覚に困惑してしまう。


「これであなたもかわいい女の子。じゃああなたの魔法少女としての冒険、始めるわね」



 パージがにっこりとしながら囁くと、まるで電気がついたかのように周囲が明るくなる。


 俺は左右を見回す。窓は無く、ランプで照らされた薄暗い部屋、壁には女神達の絵が描かれている。地面には神秘的な幾何学模様。


「うん、無事着いたみたいね。ここが私達の世界。この部屋は私たちの教団が儀式に使っている部屋よ」




「ちょっと、あなたの相棒を呼んでくるわね」


 そう言ってパージは部屋のドアを開ける。そしてドアの外に顔を出し話しかける。


「サナちゃん、呼んで来たわ。異世界から来た高個体値の魔法少女よ」


「わかった。今行くね!!」


 そして掛け声の後、ドアはが大きく開き、一人の人物が入ってくる。


「部屋の中にいるのが私が連れてきた魔法少女よ」


 肩までかかったピンクの丸っこい髪。どこか幼さを感じる顔つき、背丈は俺より少し大きいくらい。


 そんなかわいらしい少女が、俺の顔をじーっと見つめてくる。


「私サナよろしくね!! あなたの名前は?」


 その言葉に俺は一瞬考える。この世界観で日本の名前は不自然に思われる。何かいい名前、ないかな……。そして──。


「俺の名前はアグナム。よろしくね」


 偽名を言うと、彼女はにっこりとした顔で言葉を返してくる。


「何かかっこいい子だね。私憧れちゃう。よろしくね」


 そう言って両手をぎゅっと握り、握手をする。

 絹のようになめらかで柔らかく、冷たい女の子の手だ。


「じゃあ、私がこの世界、案内しちゃうね」


 そう言ってサナは俺の手を引っ張り外へ向かおうとする。するとパージが後ろから申し訳なさそうな表情をしながら話しかけてきた。


「申し訳ありませんが、私達女神は直接この世界に干渉することは出来ません。この礼拝室の外からは出ることが出来ないのです」


「あ、そうだった。女神達のルールなんだっけ。じゃあここからは私と2人っきりだね」


 明るい表情で見つめてくるサナ。っていうか顔が近い、目の前にいる。以前の俺ではありえなかった。絶対サナ、俺が元男ってこと知らないだろ。


 思わずドキッとして顔を赤らめてしまう。


「そ、そうだね」


☆   ☆   ☆


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