第1話 俺が、魔法少女に?
ゴズロリの服を着た女神、パージがピッと指をはじくと、俺の目の前に鏡が現れる。
「どう、かわいいでしょ?」
「こ、これが──、俺?」
そこに映っているのはもちろん自分の姿。しかし、今までの自分とは明らかに違う姿に驚きを隠せない。
灰色の髪色は顎くらいまでかかったセミロングの髪、顔つきもボーイッシュさとかわいさを両立した外見になっていていかにも女の子らしい外見になっている。
顔つきだけじゃない。身体付きに違和感を感じる。
まず腕、いつもより肌が滑らかですべすべしている。そしてどこかか細い感じがする。そして何気なく腕を上げてみると──。
(何これ……)
胸のあたりにおもりが2つ付いている、それに腕が引っ張られる感覚。違和感だらけの感覚にもしやと嫌な予感がよぎり、その違和感のある胸の部分を触ってみる
プルン──。
片手でギリギリつかめそうなくらいの大きさの胸。マシュマロのような、水風船のような柔らかい男の時ではありえなかった感触。
一応自分の体を見回してみる、というか全裸になっている。服を着ていない……。
そんな体、そして大きめの胸から、腰まではしなやかなカーブを描いている。そんな美しいくびれから、美しくもゆるやかにカーブを描くおしり。
男であったらだれしもが顔を真っ赤にしたり、飛びついてしまいそうな綺麗な全裸の肉体。
間違いない。俺、女の子になってる
最後に、念のため、念のためだが股間の部分を探ってみる。
……相棒はすでにいないです。スースーした感覚。どう見ても女の子です。本当にありがとうございました。
なぜ俺に非現実的なことが起きているのか。それはここに来る前にさかのぼる。
場所は俺の部屋。
ラノベやフィギュア、雑誌などで散らかっている小汚い部屋。
俺はその部屋の勉強机でパソコンと向かい合っている。
さっき女神のパージが言っていた言葉、残念だが嘘偽りはなく本当だ。
コミュ障で、なかなか友達も作れなかった。いつも1人だった俺。高校生になった時、偶然魔法少女達が戦ったり冒険をしたりするオンラインゲーム「魔法少女大戦」に手を出してしまった。
そして手を出して以来そのゲームにのめり込んでしまい、気がつけば1日のうち、20時間をゲームの世界で過ごしているネトゲ廃人と化してしまっているわけだ。
一応ゲームだけではなくキャラクターにもそれなりに愛着があり、フィギュアなども持っている。
そして憧れも少しはある。あんな風に弱いもののために戦えるような立場になりたいって。
まあ、そんなことは一生訪れないだろうが。
あの時は、そう考えていた。
両親も、俺の事を見捨てているようで、いないように扱われている。会話もほぼない、俺も買い出しに行く時以外は部屋にこもってゲーム三昧。
そして今ゲーム内の強敵を何とか撃破し、一息ついたころ。小腹がすいたが手元にチョコもポテチもない。
「あ~あ、お菓子がない。朝10時。コンビニに買いに行ってくるか」
ポケットから財布を取り出し、スマートフォンの時計を確かめつぶやいた。
1週間ぶりの外出。太陽の光がまぶしい。
1車線の道の道端を歩く、いつもの見慣れた狭い道。そして前方からトラックがこっちに向かって走ってくる。
(おい、あの運転士寝てるぞ。逃げたほうが──)
するとポンポンポンとサッカーボールが道の横から飛び出してきた。そして──。
(えっ、子供? まずいぞ!)
ボールを追いかけてきた女の子が道を飛びだして来た。ボールに夢中で向かってくるトラックには全く気づいていない。
考える暇はない、俺はすぐに道を走りだし、その女の子を突き飛ばす。転ぶ俺。良かった、これで女の子は助かる。
俺は助からないわけだが──。
トラックの衝突まで2~3mまで迫って来たその時──。
スッ──。
ゴズロリの服を着た俺と同じ年齢くらいの女性が突然現れたのだ。いや、俺が言えた事じゃないけど、あなたが来たって犠牲者が増えるだけだろ!!
「私に任せて」
そう囁くと何と彼女はトラックに対してそっと人差し指を差し出す。まて、ここは現実だそんなこと出来るわけがない!!
トラックは止まることなく、彼女の眼前まで接近。そして──。
ドン!!
俺はこれから起こるであろう現実に思わず目をそむける。がいくら待っても俺の体に何も起きない。
どういう事か気になり、そっと目を開けると……。
「……えっ?」
激突するはずだったトラックは彼女の人差し指の先で静止していた。
つまり、彼女は人差し指1本でトラックを止めたのであった。
そして彼女はすぐにトラックのドアをトントンとノックして運転手を起こす。
「ん、うぅ──」
「寝てたよ。大丈夫?」
運転手のオジサンがその言葉に慌てて飛び起きる。
彼女は優しい口調で、話しかけた。
「疲れているんじゃない。次からは気をつけてね」
「ありがとうな、姉ちゃん──」
そして少女がバイバイと手を振るとトラックは再び出発していった。
その後、俺と少女は近くの公園のベンチへ、キョロキョロと周囲に人気がないのを確認した少女が明るい表情で話しかける。
「私、パージっていうの。よろしくね。それで児玉源一さん。あなたにお願いがあるの。私と契約して、異世界で魔法少女になって欲しいの!!」
ピッ──!
それと同時にパージがピッと指をはじく。するとさっきまで公園だった周囲の風景が黒く塗りつぶされたように真っ黒になっていく。
俺とパージがいる周囲以外は真っ暗で何も見えない。地面も真っ黒。
「児玉源一21歳。対戦オンラインゲーム「魔法少女大戦」でのユーザー名はアグナム。そこでランク1桁を取るほどの腕前を持つ人物。1日の平均プレイ時間は20時間。当然ながら学校に行っているわけでもない、仕事をしているわけでもない典型的な無職のネトゲ廃人ね」
「いきなり精神攻撃かよお前」
声の主はさっき俺を救ってくれた女性。恩人じゃなかったらぶっ飛ばしてたところだ。
「あなたの生い立ちを正直に言っただけじゃない」
予想もしなかった言葉に思わず驚いてフリーズしてしまう。なぜあったこともないこいつが俺の生い立ちを知っているのか、とにかくこいつが只者ではないことが分かる。
「あんた、将来とか考えたことあるの? 冷静に考えてみなよ」
「冷静に考えたら、発狂しそうだ」
パージがジト目で俺を見てくる。
リアルでは無職のネトゲ廃人の俺でもゲームの中では他人から評価され、羨望の眼差しを受けられる。
時に戦いの駆け引きに関しては世界でもベスト3に入ると言われている。確かバトルロイヤルモードでは100人くらいで襲い掛かってきた俺のアンチを返り討ちにしたり、勝ち抜きバトルではゲームの中では世界記録保持者だ。
ネトゲでの戦いを繰り返しているうちに、戦った相手からこっちの思考を読まれている気分だ。対人駆け引きが強すぎると上位のユーザーに言われたことがあったな。
俺は、このままゲームの世界で朽ちていくのだろうか。って今はそんな場合じゃない。目の前の現実を何とかしないと。
「っていうか何で俺の事知っているんだよ」
「女神だもの、それくらい知っていて当然よ」
「──。わかったよ。んで、お前は何者なんだ? いろいろ説明してくれ」
するとパージは自信満々に胸をポンとたたき、自らの事を話し始めた。
まず話したのはこの空間。彼女によると、女神が許可しないと現れない次元のはざまのような空間。「秘密の場所」らしい。
そして話は本題に入る。
「ここからずっと離れた世界にね。魔法少女たちが暮らしている世界があるの。そこの世界で活躍できるようないい個体値をもった人間がいないか厳選をしていたの。強い敵が来たときに立ち向かえるようにね」
何か専門用語が出てきたな……。
「個体値、厳選? ちょっと何言っているかわからん、日本語で言ってくれ」
「人間には「個体値」って呼ばれる魔法の強さの指数があるの。私はこの世界の人間達の個体値を調べて良い個体を探す「厳選」をしていて。あなたが優れた個体値を持っていることが分かったの」
パージはにっこりとしだし俺を指差す。
「あなたには魔法少女の素質がある、魔法の能力が高い「個体」であることが分かった。そしてあなたの事を調べて、あなたは魔法少女へのあこがれや願望も高い事も理解したの。だから私はあなたに頼みごとをするわ」
「それで、私と契約して、魔法少女にならない?」
「──やだ」
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