水野亜玖亜は読まれたい 〜女子大生は女子高生と小説投稿サイトでつながってみる〜
白湊ユキ
第1話 水野亜玖亜は読まれたらしい
秋深み夜の帳のいと早し。
大学から、ほぼ二十四時間カーテンを閉じっぱなしの1LDKの部屋に直帰するなり、ソファーに鞄を投げ、照明もつけずにパソコンの電源を入れる。
私は連載投稿を開始してから一ヶ月が経つ新作『転生したら魔属性でした 〜魔剣使いの勇者と聖剣使いの魔王とヤンデレの聖女〜』の作品情報ページを開く。この瞬間に私は女子大生の
今日も、PVは動かない。そろそろ見飽きてきた数字。ここ一週間ほどPVは十八で固定されている。連載の真っ最中で現在二十話まで執筆しているのだが……。誰にも読まれていない話まであるという計算だ。
私の五万文字余りの文字列を乗せた船は小説投稿サイトという物語の奔流に揉まれて、沈みかかっていて、波止場に停泊しているのに誰も足を踏み入れてくれない。ここまで読まれないと、どうして読まれないかを想像することすら不可能だ。
小説投稿サイトの方でも『異世界ファンタジーピックアップ』などの企画を開催してくれるが、いかんせん参加作品数が多すぎて埋もれている感が否めない。
作者である私にとっては、全身全霊ありったけの持ち味を詰め込んだ物語であるつもりだ。暇さえあれば妄想に耽るし、書くとなれば当然気合を入れる。登場人物になり切って、主人公と一緒にさめざめと泣いたりもする。人気が出ないはずがないと太鼓判を押したい。
しかし、肝心の読者にとっては退屈で仕方ないのかもしれない。それは、私の感性に対する否定にすら思えた。
ああ、ちなみに小説投稿サイトの名前は『波止場』という。セーラー服でも着てサイダー片手に黄昏るにはさぞかしお似合いだろう。いや、私は仮にコスプレでも着ませんけどね。
無造作に画面をリロードする。
やっぱり、PVは十八のまま動かない——と思っていたら十九に増えていた。誰か物好きが一話だけ見て帰ったのかな。それだけでも結構嬉しいと思ってしまう。
——まぁ、思い悩んでも仕方ない。
——いつも通りにカラッと考えよう。
私にしか書けない物語を紡ぎあげるのは、紛れもなく私の使命だ。主人公やヒロインたちへの愛着だって、誰よりも強い自信がある。きっとどこか知らない世界に存在する彼女たちを、この世界で成り立たせているのは私なんだから。
——問題ない。心臓の下あたりにずきんと痛みを感じるのは思い過ごしだ。
誰にも読まれなくたって書ける。他ならぬ自分のために。一人の一人による一人のための執筆活動。私はラノベを書くことが、そして読むことが好きで好きで堪らないんだから。
そうやって自分を奮い立たせたとき、画面右上のベルの形をしたアイコンに一件の通知が現れた。先ほどの固い決意はどこへ行ったやら、にわかに胸がそわそわとしてくる。一瞬ためらってから、マウスを操作して、アイコンをクリックする。
それは、私がこのサイトに投稿を開始して初めて受け取った——たった二言で構成された応援メッセージだった。
***つづく***
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