第218話 これが、俺の覚悟だ

「──本当に?」



 ツァルキールは、大ダメージを受け、地面を転がり落ちた後、ゆっくりと立ち上がる。


(次、同じダメージを食らったら、終わりですわ……)


 ボロボロの体、薄れゆく意識の中、葛藤をしている幸一の姿を見る。



 幸一の心の奥で聞こえた言葉。そして、一人の声が聞こえる。


「幸君。お久しぶりー」


「あれ? 青葉」


 調子っぱずれで明るい声。青い髪のロングヘア、明るい笑顔が似合う少女。青葉だ。

 彼女が、突然現れたのだ。


「どうして、ここに?」


「どうしてって、私があなたに上げた力。もう一つの力よ」


 ネウストリアでの戦い。

 宗谷青葉。彼女は幸一との戦いの最後、自分の力を彼に託した。それによって、魔獣「トリシューラ」を撃破していたのだ。


「あの力、術式だけじゃなかったのか?」


「当たり前じゃない。あなたが、もし道を迷った時背中を押してあげる力でもあるのよ」


「なるほど、青葉にぴったりの力だ」


 青葉は、魔王軍の力を持って生まれていた。ゆえに、天使たちに悪用され、自分の意志に反して戦わされた。それでも、最後は幸一の呼びかけに答えて、自分の意志を取り戻した。


 その時に託した力は、ただの強力な力ではない。一度だけ彼が迷った時、迷わないようにそっと肩を押すための物でもあった。


「けど俺は、あらがえそうにない。青葉みたいに、なれなかった」


 罪悪感を感じ、肩を落とす幸一に、青葉は微笑を浮かべて語り掛ける。


「幸君。とても迷っているのね」


 そうささやいて、青葉がぎゅっと抱きしめる。温かい彼女の体。それを感じながら幸一は話を聞く。


「わかるわ。あなたは、そういう人だもの。いつも周囲のことを考えって、悩みこんでしまう性格だもん」


「ああ、俺は、どうすればいいんだ」


「そういう時は、思い出して。あなたが、今まで戦ってきて、もらってきたかけがえのないもの。それを思い出せば、答えは自然に出てくるわ!」


 そして青葉の体が蒸発するように、星の粒子となって消滅していく。


「幸君。あなたのことを、信じているわ」


 消滅していく青葉を見ながら、理解した。


 幸一は戦いながら叫ぶ。イレーナともみんなとも、もっといたい。

 辛いことがあっても、この世界の人たちを、救って、ずっと生きていたい。


「俺が求めていた答えは、戦っている理由は、こんな答えなんかじゃない」








 そして、結論を出す




(俺が求めているのは、こんな姿ではない。イレーナとだって、サラとだって、ずっといたいから)


 じっと、ツァルキールの方向を向く。そして心の底から叫んだ。


「俺は全てを悟った。これが俺の出した答えだ!!」


 幸一は目をつぶり全身の力をスッと抜く。彼を纏っていた、眩しいくらいに強く光る魔力のオーラ。エーテル体。


 それが剥がれ落ちるように消滅していく。


 エーテル体から人間の体に逆戻りしたのだ。

 魔力がはがれるように落ちていく。


「どういう──、ことですの?」


 その光景を目の当たりにしてツァルキールは幸一を鬼のような目付きで睨み付ける。

 そして己の勝利を確信させる。


「フフッ──。甘い、甘いですわ」


「甘くなんかない。俺は、決めたんだ。こんな力を使って勝っても、未来は切り開けないと」


「それが甘いのですわ。どんな犠牲を払ってでも、前に進むと私は決めました──」


 ツァルキールは、本気で叫ぶ。数え切れない程の絶望、血、犠牲それを味わった彼女からすれば、自分の感情を捨てたくない。その程度で、勝つための力を捨てる彼の事を覚悟がない半端者。それ以外に何も感じなかったのだ。


「その程度の覚悟で、自分を捨てることも出来ない覚悟で、私に勝てる道理などないのですわ!!」


 ツァルキールの迫力のある叫びに幸一は思わず一歩引いてしまう。

 確かに彼女には覚悟を感じる。

 しかし幸一は怯まない。微笑を浮かべ、自信に満ちた態度で言葉を返す。


「それは少し違う。覚悟は足りてる。けど覚悟の仕方を変えたんだ!」


「仕方?」


「誰も犠牲にしない。苦しくても、一緒に歩み続ける覚悟だ!」



 それが、彼の出した答えだった。


「もういいですわ。勝負を、つけさせていただきます」


 そしてツァルキールが急接近。それを見た幸一は感じる。


 今までにツァルキールから受けた法外なダメージ、エーテル体の負荷。

 積もり積もったダメージが重なり、幸一の肉体は、すでに限界を超えていた。


 まともに彼女への有効打を与えられるのは一回だけ。




 その姿を見たツァルキールもそれを理解する。


 そして決心した。

 サンシャイン・スピリット・ソードを真正面に構える。

 そこに駆け引きや戦略はもうない。

 互いにただ自分の想いを、正面にいる相手に向かってぶつけるのみ。


 そして、立ち向かっていく幸一。

 今の実力をすべてこの一撃に出そうとする。


「まともに打てるのは一振りのみ。この一撃に、二人の力のすべてをぶつける」



 ──が足りない。


(もっと、もっとだ。今の魔力じゃ、まともに有効打になるのは一太刀。その攻撃にすべてを込める。──さあ、魂を研ぎ澄ませ。視覚も、聴覚も、感覚という感覚は全ていらない。呼吸すら、今の俺には無駄だ──。最初っから俺と彼女では埋められない差があるのはわかってる。劣っているならかき集めろ。至らないなら振り絞れ──)


 集いし光が──、新たな希望を紡ぎだす。

 スターライト・クェーサー・エアレイド!

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