第182話 イレーナの、イメージした力

「俺だけが、くたばるわけがない!! 道ずれにしてやる!!」


 怒りの焔に包まれし力よ。逆境を踏みつぶし、降臨せよ!!

 ブレイス・アベージ・エアレイド




 そして自身の剣を地面に突き立て──。



 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 大爆発を起こす。何と彼は自分の体もろとも大爆発を起こし道ずれにする道を選んだのだ。

 周囲に大きな衝撃波が起こる程の大爆発がこの場に起こる。



「ル、ルーデル……さん」


 シスカが爆発を見て思わず叫ぶ。ルチアとサリアもその爆発に視線を奪われる。


 そしてしばしの時間が経つと煙が少しずつ晴れていく。そこには──。


「ハァ……、ハァ……」


 仁王立ちし魔力をつかせ息を荒げているルーデルの姿。

 そして──。



 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


 消滅していくイドラとソトス。確かに彼のやっていることは自爆だった、自らも戦えなくなるという状況次第では無謀ともいえる判断だった。


 しかし二対三という数的不利から一対一という互角の状況まで持ち込んだのだ。


「本当は全員俺がその首を狩ってやりたかったが、それには実力が不足していたようだ」


「イレーナ、あとは頼むぞ。奴の首を狩れ!」


「……わかった」



 そう言いながらルーデルが後方に撤退、イレーナが残る最後の敵、キノトグリスに視線を向ける。

 残っているのはイレーナとキノトグリス、ただ二人。

 シスカ達がかたずをのんで見守っている。




「やるなぁ、嬢ちゃん達。俺たちだって苦労して連携とって、いろいろな罠を張ったのに、みんな破っちまうとわよぉ」


「次はあなたが敗れる番よ」


 イレーナはそう言ってキノトグリスに槍を向けた。

 二人の間にそれ以上のやりとりは無い。理解していた、ただ戦ってどちらが勝つかを決めるだけだと。


 タッ──。



 そして二人が一気に間合いを詰める。



「あなた、接近戦は苦手なんじゃ?」




 キノトグリスには分かっていた。彼はいつもは配下たちに指示を出しながら的確にサポートする遠距離戦を得意としている。


「ああ、苦手さ。だが分かってるんだ。ここで引いたら負けってのがよォ!!」


「あいつ、流石は魔王軍でも地位のある奴ね、分かっているじゃない」


「そうなん……ですか?」


 サリアが壁に座りこんで囁くと隣にいたシスカが質問する。


 それがすべてだった、距離を取ったところで詰められ背中を見せればその場で切り刻まれ勝負は終わる。


 つまりそれ以外の戦いは無い。


「じゃあ、イレーナさん勝てるんです……か?」


「そう、信じたいのだけれどね──」



 セリアの歯切れの悪い言葉、シスカがその意味を気にし始めたその時。


「しまった!!」


 イレーナが叫ぶ。押し気味だったはずが攻撃をかわされ、カウンターで胴体に軽い一撃をくらってしまったのだ。



「強いけど、単調すぎるぜ、嬢ちゃん」


「……くっ」


 シスカが涙目になりサリアに詰め寄る。


「イ、イレーナ……さん。大丈夫なんです……か?」


「今のは比較的軽症。けどイレーナの力任せの戦い方。それが読まれているのよ」


「そ、そんな……」


 そしてキノトグリスが言い放つ。


「俺はいろいろな奴らと戦って来た。あんたみたいな猪武者など俺の敵じゃない」


「確かにそうかもしれない──」


 イレーナは思い出す。

 いつも幸一に言われていた。戦い方が直線的すぎると。


「イレーナ、お前いつも戦い方が直線的すぎるんだ──」


「うう……、でも──」


「パワー一辺倒ばかりで相手に読まれやすい。もう少し力をいなしたり、利用したりスツ戦い方を入れてみた方が──」


 幸一の助言。

 相手の力をいなしたり、利用したりする戦い。何度か試してみたがなかなかうまくいかない。


 柔よく剛を制すと幸一から聞いたことがある。しかしイレーナは納得しなかった。

 イレーナにとって戦いとは力と力、想いと想いのぶつかり合い、力とは利用するものではなく、込める物。


 剛を制するのはさらに強い剛、柔を制するのはさらに強い力であると──。


 イレーナはありったけの想いを力に込める。みんなを守りぬきたいという強い想い。



 そして──。



 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──!!



 イレーナの体が強く光り出す。感じ始める。


「これは、新しい術式?」


「ほう、ここで術式が覚醒。流石だぜ!!」



 イレーナが自身の槍を天に向ける。そして──。



 集いし想いが、天かける力となる!!

 アストログラフ・レインボー・ラポール


 するとそばにいたルチアやルーデル、シスカとサリアの体が光り始めた。そしてその光がイレーナに向って行き──。


「すごい、力を感じる──」



 それを見てサリアとルチアが理解する。


「なるほど、私達の想いを魔力にする力ってことね」


「へぇ~~、お嬢様らしい力ッスね……」


 そう、これはイレーナがみんなの力、願いを受けついて強くなるという術式だった。


 彼女の守られる自分ではなく、守る自分でありたいという力強い願いが現われている。


「つよくてやさしい、みんなの思いを引き継ぐ力……、とてもイレーナさんに合っていると思う……です」


 シスカが羨望の眼差しを向ける

 そしてイレーナは再びキノトグリスに突っ込んでいく。




「強そうだねえ、嬢ちゃん。だがそれだけじゃ勝てないぜ!!」



 うわああああああああああああああああああああああああああああ!!


 イレーナが聞く耳を持たずありったけの力を込める。



 時空を超える力、今友のため敵をせん滅し救いの力となり、定めを超える閃光貫け

 ヘリオポーズ・イクシオンブラスター・スプレマシー・ノヴァ


 キノトグリスは再びガードの体勢を取ろうとする、狙うはそこからのカウンター。イレーナの消耗具合からして後一撃たたき込めば勝負は決まる。


(若い嬢ちゃんには悪いが、これが経験の差だ。勝たせてもらうぜ!!)



 そしてキノトグリスはイレーナが振り下ろした槍を受け──。



 ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァ──!!




 られなかった……。イレーナの攻撃はガードを突き破り、そのままキノトグリスの肉体を真っ二つに切り裂いたのだった。


 そして転がり落ちるキノトグリスの肉体。


「イレーナさん……、勝った……です」


「さっすがお嬢様ッス。強いッスね」



「負けたぜ、嬢ちゃん」


 そう言ってキノトグリスは肉体が消滅していく。


 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


「また会おう、そんときはまた勝負しような」


 そして彼の肉体は完全になくなった。



「後は、あいつだけだ」


「ルーデルさん、あと幸君。大丈夫かな……」


 イレーナは愛する人の名を囁く、目にはうっすらと涙。

 心配そうに、祈るように彼の名を叫ぶ。



「メーリングだっているし、大丈夫よ」


 サリアが微笑を浮かべながら言葉を返す。

 しかしイレーナにもう戦う力はない。ただ彼の無事をこの場で祈るのだった。

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