第175話 本拠地へ
幸一達は小走りで街を進む。その中で幸一はメーリングのとある変化に気づいた。
「っていうか、メーリング、どこかうれしそうだな」
「私も、そう思う」
幸一とサラの言う通りだった。今の彼女にはいつもの無表情とは違い、微笑を浮かべている、どこか自信に満ち、喜びが含まれた表情。
「まあ、嬉しいといえばうれしいわ。冒険者たちがみんな戦うって言ってくれたんですもの。ねっ? サリア」
「まあ、そうかもね。結構苦労はしたけど」
照れ隠しに顔をそらすサリア。話はメーリングたちが冒険者たちを説得しているときにさかのぼる。
「今回の襲撃のこと、知っているの?」
「ああ、聞いたよ。これまでにないくらい大規模な物らしいな──」
宮殿の前でメーリングは部権者たちに訴えかける。
「どうするの? ただ黙って住民や冒険者が犠牲になるのを見ているの?」
メーリングの言葉にしらけた態度をとる冒険者たち。
「変に手を出して、上から罰を受けたりするのも嫌だしな」
彼女の姿に冒険者達がざわざわし始め動揺する。
「お願いします。教会側をよく思っていない人も多くいる。不信感が胸に強くある人だっている。それもわかっているわ」
「それでも協力してほしいの!! 協力して立ち向かってほしいの」
彼らの感情に、強く訴えかけるように叫ぶメーリング。
キョロキョロと周囲の冒険者達に視線を向ける。
「つったってなぁ……」
煮え切らない冒険者たち。そこに──。
「俺からも頼む。っていうかお前たち、なんとも思わないのかよ。よそ者が必死に戦おうとし」
「所詮よそ者だろ、いくら勇者つったって」
「そのよそ者が見知らぬ奴らのために必死になって戦おうとしてるんだぞ」
「私からも頼むわ。私たちの街、私たちが守らなくてどうするのよ」
サリアとハメスも話に加わる。幸一の話はすでに政府にも伝わっており、彼らが戦おうとしているのになぜおまえたちは尻尾を巻いて逃げるのだと叫ぶ。
「王病にもほどがあるだろ。その魔法は何のためにある? 権力者の私腹を肥やさせるためにあるのか? 自分たちの保身のためにあるのか? 違うだろ。生まれ育った町、大切な友、守るべきものがあるんじゃないのか?」
彼の言葉にざわつく周囲、そしてメーリングが胸に手を当て、サリアがこぶしを握り叫ぶ。
「そうよ、私たちが戦わないでどうするのよ」
「サリアの言う通りよ、今は仲間割れをしている場合じゃないわ」
ざわつくこの場。多売に視線をきょろきょろと合わせる冒険者。そして──。
「わかったよ。あんたらがそこまで言うなら、俺たちも力になるよ」
メーリングの瞳に目からうっすらと涙が浮かぶ。
そして舞台はこの場に戻る。
「そういうことよ」
「わかった。じゃあその思い、答えなきゃな」
「そうッス。絶対勝つッス」
最高の士気、小走りで道を進んでいく幸一達。
そして激闘の時は、間もなく訪れる。
道を向かうこと七~八分。治安が悪そうなスラム街の中。
ドォォォォォォォォォォォォォン!!
視線の先で大きな爆発音。そして──。
「誰かいるっスね。誰っすか」
「フン、足止めをしようということか」
ルーデルの言葉に魔獣たちは邪険な笑みを浮かべ言葉を返す。
「見るだけで虫唾が走る」
「ルーデルさん。名前を知っているの? 」
イレーナの質問にルーデルは歯ぎしりをし、怒りの表情をして答える。
「忘れもしない。こいつらにどれだけの友たちが散っていったことか。キノトグリス、ソトス、トルネンブラ、イドラ、アブホース。全員がそこらへんにる雑魚とは比べ物にならないほど強敵だ」
その言葉にルチアが腕を組みながら一つの案を出す。
「あんたたちはやることがあるんッスよね。ここは私たちが相手になるッス」
「それは、いい案……、です」
その言葉にイレーナもキリっと敵たちをにらみつけ、幸一に話しかける。
「幸君、サラ、行って。ここから先はあなたたちが行くべきだと思うから」
「イレーナ……」
幸一は考えた。イレーナも行こうと、しかし。
「私より、サラとか、メーリングとサリアが行くべきだと思う一緒にいるのは、また今度でいいから」
そう言うイレーナの瞳からは、人々を守るお嬢様として覚悟を決めた目つきだった。
「そうッス。全部っ倒して、みんなまた会えばいいッス」
イレーナたちの言葉に幸一はようやく決心して首を縦に振る。
「わかった、メーリング、サラ、サリア、行こう」
そして4人は道を先へ進む。
イレーナたちは強敵との死闘を繰り広げることになる。
そしてイレーナやルーデル達が死闘を繰り広げているあいだ、幸一とメーリング、サラ、サリアはとうとう目的の場所へたどり着く。
「ここが本拠地よ」
「なんか、神殿みたい」
「そのとおりよサラ。ここはもともと神殿だもの」
そして一番奥には女神像のようなものが飾られていた。その女神像にメーリングが手をかざす。すると──。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ──。
女神像の足元が光り始める。そしてそこが自動ドアのように左右に空き始めた。そこから先には地下への階段が続いている。
「私みたいに登録した人の魔力に反応するつくりなの。先へ行きましょう」
メーリングの言葉に3人が首を縦に振り、幸一達は先へ進む。
石畳の暗い道を早歩きで進むこと2~3分。
「あそこが目的地よ」
先頭を歩くメーリングが指さした先。明るくて大きな部屋。
「わかった、行こう」
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