第165話 天使たちとの対面

「私は、行くわよ。それしかないもの──」


 サリアがうつむき、戸惑いながらも何とか首を縦に振る。


「わかった。いくよ──」


 幸一はコクリと首をそっと縦に振る。

 予想もしなかった事態、まさかサリアとメーリングが天使に選ばれた存在だなんて思いもしなかった。

 罠の可能性だってある、しかし行かないわけにはいかなかった。


「じゃあ、行ってくるよ──」


「幸君……」



 メーリングとサリアが奥の部屋へ足を進め始める。するとそれについていくように幸一が奥に向かって歩き始めた。フッと後ろを振り向いた瞬間、イレーナが心配そうな表情でそう囁く。


「イレーナ、心配しないで。戦う訳じゃない。ただ話し合いをするだけなんだ」


「うん、わかった──」


 幸一がフォローを入れると、イレーナが心の中で納得する。疑問が無いと言えばうそになるが、その言葉を信じる以外になかった。


 そして幸一達が歩き始める。


 大きな部屋からやや狭い石畳の道を歩く。ランプで照らされた薄暗い道。

 何回か曲がり角を曲がり一番奥にあろう部屋にたどり着く。


 しかしドアノブなどのような物は無い、はたから見ればただの壁。


「どうやって入るんだ? 壁にしか見えないぞ──」


「普通には入れない。そういう構造なのよ、ここは──」


 そう言うとメーリングがドアの前に手をかざす。そして……。


 シュゥゥゥゥゥ──。


 彼女が少し魔力を込めると、ドアが白く光り始め、ゴゴゴとうなりを上げながら上に向かってドアが開く。


「私のような、天使の力を持つ人の魔力に反応するみたい。入りましょう──」


 メーリングを先頭に幸一とサリアが中に入る。

 中は照明が全くなく真っ暗。すると──。


 ピッ!!


 メーリングが指をはじく、はじく音が聞こえた瞬間に壁に光がともったように明るくなる。


 壁にはサリアがさっき言っていた通り絵が描いてある。


 伝統的な白い衣装を着た天使と槍をもった人間が手を握る絵。悪魔と戦っている絵などの壁画。


 それ以外の場所には見たこともない文字が文章になって羅列してあったり、神秘的な模様が描かれていたり、神々しい雰囲気を醸し出していた。


「んでどうすればいいの? 私もここに来たのは初めてなのよ──」


「簡単よ。脳裏で自分の天使に話しかけるの。ここに来てほしいと、天使達はその場所を感知してすぐに来てくれるはずよ。それでは始めましょう」


 そしてメーリングが目をつぶる。そして何か口元で囁く。それを見たサリアと幸一も同じように目をつぶり自らの天使に話しかける。


 数秒後、三人はしめし合わせたかのように目をそっと開ける。


 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


 まず現れたのはメーリングの後ろ、彼女の天使。少しつり上がった目に三つ編みの髪型。背はこの中で一番小さく幸一の元の世界で言うなら155cmくらい。


 腰に手を当て幸一を睨みつけている。気が強そうな印象も持つ。


「お待たせ、来てやったぜ」


「バルトロ──。久しぶりね」



 メーリングが背後に振り向き囁く。その通り、彼女の名前はバルトロ。彼女がメーリングを選んだ天使。

 次にサリアの後ろに現れた人物。サリアを選んだ天使シモン。


「はじめまして、シモンと申します」


 丁寧なあいさつをしてペコリとお辞儀。


 幸一より少し高いくらいの長身、肘くらいまでの長髪のお姉さんのような外見をしていて、で三人の中では一番年上という印象だ。


 そして──。


「おおっ、幸一殿、そんなにおなごをひきつれて。楽しい夜になりそうじゃのう~~」


 幸一はユダのからかいを無視して話の問題に入る。ユダは不機嫌になり声を漏らす。


「ったく、ノリが悪い男よのぉ~~。お主には性欲というものが無いのか……」


「んで、どうすればいいんだ、メーリング」


「とりあえずサリア、話があるのはあなたよ」


「──うっ」


 メーリングがサリアに視線を向ける、するとサリアはキョロキョロと視線を動揺させ始め一二歩後ずさりし始めた。


「話したいことはただ一つよ。いつまで続けているの? 天使たちへのトラウマ、それに政府の特殊警察への服従よ」


 特殊警察NAVD、サリアやハメス達が所属している政府の組織。

 治安を守るという名目で、必要以上に住民たちへの監視活動を行ったり、時には自分たちに都合が悪い人物を不当に逮捕したり、過酷な拷問を行っていたりと黒い噂は尽きない。


「……私は──」




 何かがつまったかのように言葉を失うサリア。サリア自身もその事については知っている、そういった行為はサリアは毛嫌いしていて直接やっているわけではないが、そんな組織に所属しているという事実は変わらない。


「いつか誰かが閉じこもっている自分を、何とかしてくれるなんて思っていないでしょうね。誰も助けないわ。自分でなんとかするしかないのよ!!」


「うっさいわね。わかってるわよ!! このままじゃどうにもならないことくらい!!」


 サリアは激高しどなり散らす。そして背を向ける。その背中は大きく震えているのが分かる。


「けど、どうにもならないのよ。天使たちに」

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