第154話 闘技場

 幸一は相手の目をじっと見て自信満々に答える、嘘は言っていない、下手に取り繕うよりこの方がいいと感じたからだ。


「あいよ、通りな──」


 ドキドキしたが何とか中に入る許可を得る。ほっとする二人。

 そしてフードの人物の隣を横切る、後ろにあるドアを開けその中に入る。



 キィィィィィ──。



 扉の中はさっきと同じような薄暗い道。

 しかし道の少し先には扉があるのが確認できる。奥からガヤガヤとにぎやかな音、あの奥に何かがあるのは二人とも理解した。


 幸一とサラが一瞬目を合わせる、そして二人とも扉へゆっくりと歩を進める。

 ドアの間の前に立つ二人、再び顔を合わせた後、幸一がドアの取っ手に触れる。そして──。



 キィィィィィィィィィィ──。



 幸一がそのドアを開ける。



 二人がドアの先に歩を進める。その先の光景に二人は視線を向ける。


 地下市場の名の通り石造りの道に何軒もの出店が周囲一帯に連なっている。

 珍しい食品や動物、この国では見かけないような絵画などの美術品、硬貨や貴金属、見たこともないような色に光る宝玉、さらに見るからに怪しげな薬などが出店の店頭に並んでいた。


「これは何の薬ですか?」


 サラがすぐそこにある店で首を傾けながら質問する。すると中年くらいの男の商人がニヤリとしながら言葉を返す。


「これを飲むとねェ、すっごい気分が高まるんだよ。身体の興奮が収まらなくなってハイな気分がずっと続く代物でねぇ」


「いやいやいや、絶対これやばい薬だよね……」


 唖然とする幸一、サラもまずいと思ったのか何とか言葉を濁してこの場を去る。

 とりあえず明らかにまずいものは避けようと食材などを扱っている店を見てみる、珍しい魚の干物を見たり、年代物のワインを試飲したりした。


 しかし闇市と言ういかにも怪しい名前がつき、きな臭い感じはあったが幸一が想像していたほど怪しいというわけではない。さっきの危なそうな薬も幸一の世界では規制されるような薬ではあるがこの世界ではまだ規制はない。


 二人のイメージよりはまともな雰囲気ではあるが緊張は緩められない。


 誰かが自分たちを狙っているか警戒しながら何か手掛かりが無いか調べる。

 とりあえず道を進む。


 そしてこのルームの一番奥が見えてくる、そこでサラが気づく。


「ウェルナー、あれちょっと行ってみようよ」


 サラが指差した先、それは奥に通じる扉、ドアの端には警備役らしき人物がいる。

 幸一は首を縦に振りそこへ移動しようとする。すると──。


「夫婦のお二人さん、お探し物は扉の奥っすよ」


 背後から聞き慣れた声、幸一が話しかける。



「ルチア──、何でここに???」


 幸一が思わず驚く、まさか彼女に遭遇するとは思わなかったからだ。

 そしてルチアは幸一とサラの耳元に手を当てひそひそ話でしゃべる。


「なんでって──、自分スパイっすもん。得意分野なんだからここに来るのは当たり前っしょ」


「まあ、そうだけど……」


「とりあえず行きましょ!! ほれほれ」


 ルチアが二人の腕を引っ張り軽快なステップで門番の所へ向かっていく。

 門番に三人とも招待状を見せるとあっさりと入る許可をもらった。




 そして中に入る。



 それからルチアと一緒に薄暗い通路に歩き二、三分程、広い場所にたどり着く。そこで目にしたのは妙に熱気を帯びた場所だ。


「おい坊主、そんなザコとっととやっちまえ!!」


「姉ちゃん、逃げるんじゃねええぇ、殺せ殺せ殺せ!!」



 周囲から大量の怒号や罵声が飛び交う中、二人の冒険者が大きな部屋の中央、ロープで仕切られた場所の中で戦っている。


「賭けをしているみたいっすねぇ、確か借金を抱えた冒険者を高い金で釣ってこの場で賭けの対象にして戦わせているんっすよ。それだけじゃないっす。新薬の実験につかったりしているんっすよ」


「え──、何でそんな事を??」



 幸一がけげんな顔で質問する。するとルチアが力なくほほ笑む。



「あーーそれはいま調査中です。まあ考えられるのは実力が未熟な冒険者に売りつけることと、自分たちに忠義がある奴に使用して力を誇示しようとしているんだと思うっす。まあ今は薬の実験を行っているようっす」


「そうなんだ──」


 過酷な現実にサラが思わず囁き幸一は眉をひそめけげんな顔つきになる。




「まあ、サラとルチア、貴様たちにとっては驚く懸案かもしれないな」




「メーリング──、何でここに??」




 その姿にサラとルチアは驚愕し目を丸くする。


 そこにいたのは一人の少女。

 幸一と同じくらいの身長、肩までかかった黒髪。露出度の高い服にひときわ目立つ大きい胸。頭には犬耳。


 そして虚ろな目で無表情をしている。


「メーリング? 知り合いなのか?」


 二人の反応に幸一はルチアに質問する。ルチアはその名前を聞いたとたん罪悪感を感じたような顔つきで答える。


「ええ……、幼いころから一緒に育った中なんです。子供のころは仲もよくて街で遊んだりしていました」


 三人の間に何かあったのだろうか、しかし今悠長にそれを聞いている時間はない。


「メーリング、ルチアだよ。私のことが分かる??」


「……」


 ルチアの呼びかけにメーリングは無表情のまま反応しない。

 まるで機械のような意思も感情も感じない。


「50戦無敗の彼女の次なる対戦相手。それはそこにいる勇者さんなのですよ」


「え? 勇者とこいつの戦いかよ。これは賭けがいがあるぜぇ!!」

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