第145話 天使が残した罠
幸一の作戦通りだった。攻撃をまともに食らい後方に吹き飛ぶ青葉。
「さあ、追い詰めたぞ。元の人格、返してもらおうか!!」
「そんなことはさせないわ、だったら見せてあげるわ。私の全力。凍りつきなさい!!」
余裕なんてない、自分の最高の力を出さなければ負ける。心から感じた青葉が出してくる術式は一つしかなかった。
禁断なる必殺の力、永久の戒めとして君臨し、その力、解放せよ!!
「アブソルートゼロ・オールライト・フリーズ」
(来た、青葉の最強術式)
青葉が持つ一番強い術式その姿を見るだけでこの攻撃にかける想いが強く伝わってくる。
(頼む、俺の青葉への想い、伝わってくれ!!)
その想いに負けないくらい青葉への、この世界への気持ちを込める。
そして幸一が行った戦術とは──。
願いをとどかせし力、逆縁を乗り越え、踏み越えし力現出せよ
バーニング・ブレイブ・ネレイデス
幸一最大の術式。
青い炎が幸一のエクスカリバーから出現しこの場を包み込むような大爆発が起こる。
彼の戦略はただ一つ。真正面から青葉の攻撃を受けとめること。そして自分の気持ちの全力を青葉にぶつけること。
余計な小細工はいらないただそれだけだった。
「いっけえええええええええええええええええええええええええ!!」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
二人の全力を込めた術式が衝突する。その衝撃波は今までにないくらい大きいものだった。
衝突した術式、徐々に幸一の術式が青葉の術式を押し始める。
そして──。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
とうとう幸一の術式が青葉の術式を打ち破る。そしてそのまま彼の術式が青葉に直撃。大爆発を起こす。
「負けた──、私が??」
強大な力が直撃した青葉から魔力が消え落下。同時に元の青葉に戻る。
幸一、それに気付いてすぐに青葉の所に移動、落下していく青葉の元に駆け寄り、お姫様だっこの形で彼女を落下から身を守った。
「今の青葉なら、俺は負ける気がしなかった──」
その通り、単純に勇者として馬力のある幸一に対して青葉の強さは読みや駆け引きにある。しかし単純な魔力比べなら負けるつもりはなかった。
そしてそれだけではない。
幸一は経験がないなりに強い敵と何度も闘いながら相手の事を理解し戦って来た。
相手の弱点、駆け引き、突破口の発見。
それは言葉や数値では到底表せるものではない。本人の経験から判断しているものである。
しかし今の青葉は違う。天使たちの力に感情を支配されている。彼女の意思はどこにもない。
今の青葉はどうやって戦っているのか。そこに解があるのではないか、という幸一の直感。
それを意識して守りを中心とした戦いに徹し青葉の様子を伺っていた。
そして相手の本質を理解する。
(青葉が心から望んでいない戦いであるということ、それがこの闘いの突破口だ)
本能むき出しの戦い、逆に言えば駆け引きもない、どれほど強かろうと罠もない直線的な猪のような力。
だから幸一が攻撃のスキを見せつけてくれば青葉はなんの疑いもなく食い付いてくる。餌のついた釣り針を目前にした魚のように。
だったら魚釣りのごとくエサを青葉の目の前に垂らせばいい。日頃の青葉なら間違いなく警戒されるような素振りでも今の洗脳された青葉
なら簡単には食い付いてくる。
心技体全てを捧げて戦う幸一。そのうちの2つが駆け落ちた青葉。結果は明らか、魔力や強さ以前の問題だった。
「フフフ……、そううまくいくかしら」
そんな事を考えていると背後から聞き覚えのある声が聞こえ始め幸一はさっと後ろを振り向く。
「天使フィリポ──。いまさら何の用だ?」
天使フィリポだった。微笑を浮かべ余裕さえ感じる表情とそぶり。しかしすでに自分と手を結んでいた青葉は敗れている。
「お前が作った虚像の青葉は敗れた。お前の戦略は破たんした!!」
幸一は強気な姿勢で事実を突き付ける。しかしフィリポは微動だにせずその表情を崩さない。
「忘れたのかしら? 今の私は青葉があなたと戦いたくないと考えていたうえであなたと強引に戦わせるために作った人格だって」
「負けた貴様が何が言いたい。はっきりと言ったらどうだ」
「今あなたと戦った事を、この街を破壊した事を元の青葉が知ったらどうなるでしょうね」
(えっ──、まさかこいつ!!)
その言葉に幸一は彼女がやろうとしている意味を理解した。
そう、今まで彼女がやってきた事の記憶を消さずに本当の青葉に人格に戻そうとしているのだった。
「消せ、今まで貴様がやっていた愚行を。青葉にこの事は伝えるな」
「嫌だわ 青葉は絶望に打ちひしがれながら消滅していくのよ!!」
邪険な笑みを浮かべ青葉は幸一の声を受け流す。そして──。
シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。
「……あっ」
そして青葉の元の人格が戻る。同時に今までもう一つの人格が行って来た事の記憶がよみがえる。
悲しみにくれポロポロと涙が溢れ出す。
「ごめんね……、私わかっていたのになにもできなかった」
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