第143話 俺が、やるべき事──

 願いをとどかせし力、逆縁を乗り越え、踏み越えし力現出せよ


 バーニング・ブレイブ・ネレイデス


 青い炎が幸一のエクスカリバーから出現しこの場を包み込むような大爆発が起こる。


 強力な術式が発動。防御ができないなら強い攻撃でなんとか相打ちに持っていこうと考えた幸一だったが……。


(残念ね幸君、今のあなたじゃそれも出来ないわ)


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 結果は残酷だった。青葉の放った攻撃は幸一の攻撃をものともせず打ち破り幸一に直撃。

 幸一はその攻撃を受け叩きつけられるように地上に落下。圧倒的な力の前になすすべがなく途方に暮れてしまう。



(強い──、これが青葉の力。どうすればいいんだ?)



 明らかに迷いが生じている。それを見て青葉は彼の心情を感じニヤリとほくそ笑む。


「ふふふ……、甘いわ。そんな半端な力じゃ何も守れないわ。友も、この世界も!!」


 その言葉に幸一は心の中で動揺が広がる。彼にとって今まで戦って来た親友と真剣勝負をするのは初めてのこと、言葉では覚悟を決めていても心の中ではどうしても動揺が生まれてしまっていた。


 そんな時に今の青葉の言葉。とても心にしみる──。



「今のあなたじゃ、勝っても何も嬉しくないわ。勝って当然だもの」


「うっ──」


 その言葉、幸一は全く否定できず言葉を詰まらせてしまう。自分でも動揺している事はわたっている、しかしどうする事も出来ない。

 そして今まで感じたこともないくらいの強さ。



(どうすればいい……、このまま俺は、負けるのか?)



 心の中で迷いが生まれる幸一、一瞬目をつぶる。すると──。




(迷っているんじゃないわよ。みんなあんたの事を待っているのよ──)



 青葉の声、もちろん目の前から話しかけられたのではない。心の中から声がしていた



(もう、幸君らしいわ。味方が相手だと本気になれない。そんなちょっと甘いところがね)


「ごめん。でも否定は出来ない、こうして一方的にやられているんだからな──」




(薄々とは分かっていたわ、私が そしてこうなる事も)


(だから思い出して、あなたが本当に守らなければいけない事を──、やらなきゃいけない事を──)


「俺が、やるべき事──」



(思い出しなさい。そうすれば、すぐに答えが出てくるはずよ)



 そして青葉の声が聞こえなくなる。彼女の声を聞いて幸一は握りこぶしをして決意する。


 イレーナやルーデル、冒険者達は今も魔獣たちと戦っている。国民たちの平和を守るために自分たちが傷ついてもたちむかっている。




(それなのに俺は戦う覚悟すら出来ていなかった。俺はこの街を救いたい。守りたい。だから戦う──!!)


 そして彼の出した答えは一つ──。


「俺の知っている青葉は、みんなを傷つけて、喜んだりしない。みんなが俺を待ってる。だから俺は戦う!!」


 今一度青葉を強いまなざしでじっと見つめる。

「青葉──、なんとなくわかった。お前の本心……、その想いを受け止めるため、俺は絶対に勝つ!!」


「ふふふ……、少しは本気を出してきそうね。そうでもしないと張り合いが無いわ」



 幸一の目つきを見て感じた。彼が覚悟を決めたと、本気を出してくると。

 そして幸一は一気に青葉との距離を詰めていく。



 カァァァァァァァァァァン!!


 幸一の攻撃、青葉が受け止める。しかしそれでも幸一は攻撃をやめない。


 確かに受け止められはした。

 しかしそのさばきに迷いは感じられない。覚悟を決めた全力の力。



(幸君、ようやく覚悟を決めたみたいね──)



「ふふふ……。やるじゃない、私を始末する覚悟が出来たんだ」



 それでも余裕の表情で彼を迎え撃つ青葉。






「いつも青葉と接してきたからわかる。お前が今何を望んでいるのか──」


 ポロリ──。


(私……泣いてる、なんで??)



 突然目から出る涙に困惑する青葉。その涙の理由に青葉は頭の中で困惑する。

 そして脳裏によぎってくる今の自分にはあり得ない言葉。


 嫌だ、彼と戦いたくない──。みんなを傷つけたくなんかない──。



 今までの青葉の感情が今彼女の思考に入り込んでくる。そのあり得ない想いに青葉は頭を抱えて否定しようとする。



(違う違う違う違う、私はこの世界を破滅させるため、魔王様のものにするために生まれてきた。そんな感情は……)


「私には存在しない。うわあああああああああああああああああああああああ!!!!」


 頭の中にある彼への感情、平和への想いそれらを断ち切るため青葉は雄たけびを上げ叫ぶ。

 そして一気に幸一との距離を詰めていく。


「幸君、行くわよ。私の全力、受けてみなさい!!」



 タッ──!!



 そして再びの接近戦い、剣での対決、つばぜり合いが始まり二人の攻撃が飛び交い剣からは衝撃が走るたびに火花が飛ぶ。


 幸一は青葉の剣さばきから感じ取る。


(さらに威力を上げてきてる。今までとは段違いの強さだ)


 剣を振り下ろす青葉、それを受ける幸一。直線的ではあるが高威力な連続攻撃。



「幸君、あんたを──。絶対に殺す、殺す、殺す!! うわああああああああああああああああ!!!!」


 いつもの青葉とは全く違う戦い方。幸一は呼びかける、本当の青葉を目覚めさせるために。


「青葉? 聞こえているのか? 意思はあるのか?」



「幸く、……聞こえてない聞こえてない聞こえてない!! わああああああああああああ」


(自我がまだある、心の中で抵抗を続けているのか?)

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