第142話 灰色の世界、世界をかけた戦い

「聞いたところ俺達と目的は一致している。俺達だけで立ち向かっても限界がある事、それを薄々と感じてきたところだ。組まないか? 俺達と一緒に行動して共闘しよう」



 イレーナに断る理由はなかった。二人は最初はいがみ合っていた、考え方も違うそれでも同じ世界を夢見ている。違いを理解し同じ目的のために戦うと決めた。

 二人が強く手を握る。敵でなない、同じ目的のために戦う「戦友」だという事を伝えるために。





 後は幸一と青葉の結果だけ。どちらが勝ってもイレーナにとって仲間を失うことになる。

 しかし今のイレーナに二人の結果を帰るすべはない。二人の無事を目をつぶって祈ろうとした時──。


 安堵な雰囲気が流れた時、ここから消えたはずの人物の声が聞こえ出した。



「勝負は決まった、決着はついた、そう思い込んでいませんか?」







 一方幸一。


 周囲をキョロキョロと見回す。


「この風景、俺は以前にも見たことがある」


 まず大都市を上空からみているような視点になっていることから自分の姿が宙に浮いているのがわかる。

 この世界の大都市である事は間違いないのだが廃墟になっていて時折人々が廃墟から飛び出し逃げ出している。


 煙が立ち込め戦争でもあったかのように、街の全てが崩壊している。空は灰色。



 この体験は以前にもあった。

 そう、この世界に来る前に見たユダが見せた未来。


「これは、この世界の結末。そういうことなのか……」


 幸一が思わずつぶやくと背後から誰かが話しかける。


「御名答、流石は幸君ね」


 いつも聞いたことある声、幸一は体勢を変えその声の主と相対する。


「青葉──」


 青葉だった。しかし幸一が知っている明るくて陽気な青葉ではない。

 殺意に満ちた目つき、冷たく冷酷な瞳、そしてどす黒いオーラを放っていた。



「本当の青葉はどこにいる? 今すぐ俺の目の前に見せてくれ」


「それは出来ないわ。これが本来の私。この世界を魔王様のものにするために今あなたを抹殺するわ」


 青葉を睨みつけながら叫ぶ。幸一は今の彼女に話し合いをすることは無駄だと理解した。それでもためらいの気持ちを捨てることは出来ない。


「この「滅した世界」を正史にしたくなかったら、現実のものにしたくなかったら──、戦いなさい!!」



「──!」


 その言葉にようやく幸一は現実を直視する。戦うしかないのだと。握りこぶしを強くして心の中で覚悟を決める。



「わかった青葉。戦おう。そして絶対に俺は勝つ」



 どこか震えながらの声、親友との戦い、いくら心に誓ってもためらいが消えることはない。しかし戦わなければ世界は無くなってしまう。握りこぶしをして断腸の思いで戦う覚悟を決める。

 そして左手を上げ幸一は叫ぶ。



 涅槃なる力、今世界を轟かせる光となり降臨せよ!!スピリッド・シェイブ・ハルバード



 久遠なる世界の彼方から、混沌ある世界に閃光を貫き──、降臨せよ!!

 グローリアス・ソウル・エクスカリバー




 タッ──。


 幸一が足に魔力を込め一気に距離を詰める。



 氷結なる光輝かせ、その無限の光で寄せ来る敵を打ち砕け!!

 ブリザード・ガントレット  ──連撃のアイス・フレーク──


 氷の球がマシンガンの弾のように無数に幸一に向かって襲い掛かかる。



(早い、今までの青葉のスピードとパワーじゃない)


 今までに青葉と何度か模擬戦をした事があり、彼女のパワーや術式の威力は知っていた。しかし今の彼女はその時とは比べ物にならないほどパワーアップしていた。



 そして青葉は幸一をめがけて一気に剣を振り上げる。



 ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!



 幸一は剣を構え何とか青葉の攻撃を受けとめようとする。

 パワーが段違いだった、予想よりはるかに強いパワーに思わず身体がのけぞってしまう。

 そしてそのスキを青葉は決して逃さなかった。


 スッ──。


 一気に青葉が幸一との距離を詰める。遠距離攻撃が得意な青葉としては距離をとってくると予想していた幸一は意表を突かれる形となり驚く。



(今までの青葉の戦いとは違う──)


 意表を突かれ戸惑いながらも何とか幸一は対応。しかしパワーの違いに幸一は動揺を止められない。


(フフ……、戸惑っているみたいね、それじゃあ勝てないわ)


 まともに防御しようとしても威力がケタ違いに強すぎてガードしきれず後退を余儀なくされる。反撃しようとしても元の青葉よりはるかのスピードも上がっていて反撃するスキなど与えてくれない。



(くっ、どうすればいい??)



 このままでは押し切られると考え一端幸一はステップを踏み後方に後退。


 そして数メートルほどに出来た二人の距離。これを見逃す青葉ではなかった。

 青葉は自身の剣を振り上げ強力な魔力を込める。そして──。


 氷結なる力、嵐となりてこの地にその力響かせよ

 ブリザード・フォース ──乱撃のスノー・サイクロン──




 大嵐のような猛吹雪が幸一に襲い掛かる。彼は自分の防御術では攻撃を防ぎきれないと判断、

 願いをとどかせし力、逆縁を乗り越え、踏み越えし力現出せよ


 バーニング・ブレイブ・ネレイデス


 青い炎が幸一のエクスカリバーから出現しこの場を包み込むような大爆発が起こる。


 強力な術式が発動。防御ができないなら強い攻撃でなんとか相打ちに持っていこうと考えた幸一だったが……。


(残念ね幸君、今のあなたじゃそれも出来ないわ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る